COPD(慢性閉塞性肺疾患)
喫煙歴があって、咳や痰が多かったり、息切れしやすい場合は、『COPD』が疑われます。 COPDは、呼吸機能が低下するだけでなく、 肺癌や 心筋梗塞、 骨粗鬆症など、 全身の病気と並存することが多いので、全身状態にも注意が必要です。 また、COPDは、自覚症状がないうちに進行します。 慢性の「咳」「痰」「息切れ」を見逃さず、早めに医療機関を受診することが大切です。 40歳以上で喫煙している人は、呼吸機能検査を受けることが勧められます。
■COPDとは?
慢性的に咳、痰、息切れが起こり、呼吸が十分に行えなくなる肺の病気。
「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」は、呼吸の際の空気の通り道である「気管支」や、肺の中の細い気管支の先端にある「肺胞」に炎症が起こって、 肺の中の空気の流れが悪くなり、呼吸に欠かせない肺の組織が壊れて慢性的に息切れが起こる病気です。 これまで「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれていた病気がCOPDに含まれます。 COPDの推定患者数は、10年前には40歳以上の約630万人といわれていましたが、現在では約700万人に増加しているといわれています。 COPDの患者数は世界的に増え続けていて、2020年には世界の死亡原因の第3位になると予想されています。 患者の約8.5%が40歳以上で、ピークは65~75歳となっています。
COPDの主な原因は喫煙です。 気管支や肺胞の炎症は、主に、呼吸するときに有害な物質を吸い込むことで起こります。 タバコの中には多くの有害物質が含まれており、それらが気管支の壁に炎症を起こすだけでなく、 なかには、気管支の末端にある「肺胞」にまで侵入して、組織を壊す物質もあります。 気管支や肺胞の炎症は、主に、呼吸するときに有害な物質を吸い込むことで起こります。 喫煙者のうち、COPDを発症する人の割合は15~20%といわれていますが、患者の95%以上は「喫煙歴のある人」です。 また、喫煙していない人でも、 受動喫煙による影響を受けると考えられます。 そのほか、大気汚染や、粉塵などが炎症の原因になると考えられています。 大気汚染で知られる「PM2.5」もその一つで、タバコに多く含まれています。 PM2.5のように粒子が非常に小さい物質は、たやすく肺胞まで侵入してしまいます。
●症状
気管支に炎症が起きると、「咳」「痰」が出るようになります。さらに炎症が進むと、気管支の内腔が狭くなって空気が通りにくくなります。 さらに肺胞の壁が壊れて肺胞同士が融合するなど、肺全体が弾力を失い、膨らんだままになってしまいます。 すると、吸い込んだ空気が肺に溜まって吐き出せなくなり、新たな空気を吸い込むことが難しくなります。 そのため、「息苦しさ」を感じます。 また、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する「ガス交換」の働きが十分に行えなくなるため、「息切れ」が生じます。 喫煙の習慣があり、階段や坂道を上ると息切れがしたり、同年代の人と階段や坂道を歩いていて、自分だけ遅れてしまうような場合は、COPDが疑われます。 COPDが進行すると、安静時にも息切れを起こすようになります。
■COPDは”全身の病気”
動脈硬化や骨粗鬆症、肺癌などとの並存が多く見られる
これまで、COPDは、”肺の病気”とされていましたが、最近では、他の症状や病気と並存することが多いため、”全身の病気”といわれるようになっています。 COPDの患者さんは、炎症により気管や気管支などの粘膜が傷ついているので、病原体に感染しやすくなっています。 そのため、風邪や「インフルエンザ」、 「肺炎」などの感染症を起こしやすいことが知られています。 感染症を起こすと、咳や痰、息切れなどの症状が急激に悪化することがあり、これを「憎悪」と呼びます。 また、他の病気を合併するケースが多いこともわかってきました。 例えば、 「骨粗鬆症」 「心筋梗塞」 「糖尿病」 「抑うつ」「筋力低下」「消化器疾患」などです。 肺の病気が全身に影響を及ぼす理由は、肺に炎症が起きる前後に出る物質(サイトカイン)が、血液を介して全身に巡り、炎症性の疾患を起こすからです。 ほかにも、COPDの患者さんは息切れを起こすため、運動を避けるようになりがちです。 運動不足になると、筋力低下も起きやすくなります。さらに外出を避け、引きこもるようになると、抑うつを起こすこともあります。
次のような症状や病気と並存するケースがみられます。
- ▼全身の筋肉が萎縮する
- 体を動かすと息切れするため、運動不足になりやすく、筋肉が萎縮する傾向があります。
- ▼動脈硬化
- 日本では、 「脳梗塞」や 「脳出血」など、 脳の動脈硬化が主な原因となる病気との並存が多く、 「心筋梗塞」や 「狭心症」など、 心臓の動脈硬化が主な原因となる病気との並存が多く見られます。 最近は、日本でも心筋梗塞や狭心症との並存が増加してきています。
- ▼肺癌
- COPDが中等度以上になると、2割の人に「肺癌」が並存するといわれています。 ただし、初期でも肺癌が並存することがあります。
- ▼骨粗鬆症
- 「骨粗鬆症」は高齢の女性に多い病気ですが、 COPDがあると、早い時期に骨粗鬆症になったり、進行が早まったりすることがあります。
- ▼うつ
- 患者の半数近くに「うつ状態」が見られます。 COPDでは、常に息切れがあり、咳と痰が出ることなどから、家に閉じこもりがちになり、気持ちが落ち込みやすいと考えられます。
- ▼肺性心
- COPDで肺の機能が低下すると、肺動脈の血圧が高くなり、心臓の右心室に肥大や拡張が起こることがあります。 この状態が「肺性心」です。進行すると心不全を起こす危険性があります。
- ▼胃潰瘍
- 「胃潰瘍」が並存することがあります。
●COPDの受診の目安
40歳以上の喫煙者で、咳や痰が続く場合は検査が必要
COPDが疑われるのは、次のチェック項目のうち3項目以上が当てはまる場合です。
- 1日に何度も咳が出る
- 1日に何度も痰が出る
- 40歳以上である
- 喫煙歴がある
- 同年代の人に比べて息切れしやすい
痰を伴わない空咳の場合は、COPD以外の病気が疑われます。 しかし、痰の色が白っぽく、朝起きたときしか痰が出ないような場合でも、咳と痰が毎日出るのは、初期のCOPDである可能性があります。 さらに進行すると、同じ世代の人と並んで歩いたときや、階段を一緒に上り下りした時に息切れがして、1人だけ遅れるようなことが起こります。
上記のチェック項目で3項目以上が当てはまる場合や、それに加えて、「長年空気の汚れたところに住んでいた」 「粉塵の舞う場所でマスクをしないで働いていたことがある」などの条件が重なる人は、 早めに呼吸器科や呼吸器に力を入れている内科などを受診することが勧められます。