喘息のガイドライン

喘息の治療では、発作が起こらないように予防することが大切です。 吸入薬を正しく使えば、患者さんの多くは喘息のコントロールが可能になっています。

■喘息とは?

「気管支喘息(以下、喘息)」とは、空気の通り道である「気道」に慢性的な炎症が起こって、刺激に過敏な状態になっている病気です。 喘息の患者さんの気管支は、健康な人に比べて細く狭くなっています。 そこに何らかの刺激が加わると、気管支の周りの筋肉が収縮して空気の通り道が一層狭くなることで、呼吸が苦しくなり、 呼吸をするときにゼーゼー、ヒューヒューと音がする「喘鳴」や咳などが起こります。これが「喘息発作」です。 喘息というと”子供の病気”というイメージがあるかもしれませんが、大人にも少なくありません。 ただし、大人の喘息には、典型的な喘息発作の症状が現れずに、咳だけが続く「咳喘息」のような軽症の場合も多く、 「風邪が長引いている」などと思われて、喘息と気付かずにいることもよくあります。 治療法の進歩により、喘息発作で命を落とす人は40年ほど前と比べて1/4程度に減っているものの、今なお年間1500人近くが喘息で亡くなっています。 そして、その9割が高齢者なのです。 喘息は発症や経過に関わる要因が多様で、さまざまなタイプがありますが、生活環境の中の特定の物質に対するアレルギーが検査で確認できる「アトピー型」と それが確認できない「非アトピー型」に大きく分けて考えられています。 小児期の喘息はほとんどがアトピー型で、大抵は成長とともに症状が現れなくなるのですが、中年期以降になって再び発症することがあります。 一方、大人になってから初めて喘息を発症した患者さんには、非アトピー型が多いといわれています。 高齢の患者さんでは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を合併していることもよくあり、他にも様々な病気を併せ持っているケースが多く、 重症化しやすくなります。


●気管支喘息の治療

現在、喘息の治療で中心的な役割を果たしているのは薬物療法で、併せて日常生活での注意が大切です。

▼薬物療法
喘息の治療には、炎症を抑える「ステロイド薬」、狭まっている気管支を拡げる「気管支拡張薬」、 アレルギー反応によって出てくる刺激性物質の作用を抑える「抗アレルギー薬」などが主に用いられます。 喘息をコントロールするために継続的に使う「長期管理薬」としては、「吸入ステロイド薬」を基本に、 長時間作用性の気管支拡張薬(β刺激薬や抗コリン薬)などの吸入薬が中心になります。 そのほか、「抗アレルギー薬(主に飲み薬)」「生物学的製剤(注射薬)」などが使われることもあります。 発作が起こったときには、「発作治療薬」として、短時間作用性の気管支拡張薬(β2刺激薬)の吸入で対処します。 症状が重いときには、飲み薬など全身に作用するステロイド薬を使うこともあります。

▼日常生活での注意
アトピー型では、ダニ、カビ、昆虫、動物、花粉など、 アレルギーの原因物質(アレルゲン)の回避が重要です。 また、悪化の要因となる喫煙受動喫煙、過労などを避けるようにします。 アレルギー性鼻炎や、 肥満胃食道逆流症など、併せ持つ病気の管理も積極的に行います。

▼そのほかの治療法
重症の喘息に対して、内視鏡の一種である気管支鏡を使って行われる「気管支熱形成術」という治療法があります。 また、ダニアレルギーの場合には「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」として、アレルゲンのエキスを皮下注射する方法があります。

■喘息のガイドライン改訂のポイント

2018年に改訂された喘息のガイドラインでは、 喘息は「気道の慢性炎症を本態とし、変動性を持った気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳などの症状で特徴づけられる病気」とされています。


ポイント①問診・聴診・身体所見の情報で喘息の診断を助ける

喘息には明確な診断基準がなく、従来、下記の「喘息診断の目安」が用いられてきました。 しかし、喘息の病態や症状は多様で、実際には、これらの目安で喘息を正確に診断するのは容易ではありません。 喘息との鑑別が必要な他の病気も多くあります。呼吸機能などの検査をするのが望ましいのですが、専門的な医療機関以外では、あまり行われていないのが現状です。 そこで、今回の改訂では、「問診、聴診と身体所見」の項目が追加され、詳しい問診や診察のポイントが示されました。 喘息と間違えられやすい病気との鑑別のために、喘息以外の病気が疑われる代表的な所見も具体的に示されています。 診断や長期管理に有用な指標にも、日本での診療向けに工夫された質問票や、一般の内科などでも検査が行える血液中の好酸球数が加えられました。 診断に重要な情報を多く得ることで、専門医以外の医師も喘息が疑われる患者さんを絞り込みやすくなるでしょう。

【喘息診断の目安】
1.発作性の呼吸困難、咳鳴、胸苦しさ、咳の反復
2.可逆性の気流制限(気道狭窄)
3.気道過敏性の亢進
4.気道炎症の存在
5.アトピー要因
6.他疾患の除外( 結核COPD心不全、過換気症候群など)


ポイント②喘息の重要度に応じた治療ステップが見直された

ガイドラインでは、喘息の治療目標は、「症状や増悪感がなく、薬剤の副作用がなく、呼吸機能を正常なレベルに維持すること」とされています。 薬物療法は、その強度から4つの治療ステップに分けられ、喘息の重要度に応じて選択されます。 どの治療ステップでも、基本となる長期管理薬は吸入ステロイド薬で、重症になるほど段階的にその量を増やしていきます。 それでもコントロールが不十分であれば、長時間作用性のβ2刺激薬をはじめ、さまざまな薬を併用して、治療を強化します。 最近では、一度に2種類の薬を吸入できる配合剤もよく使われています。 喘息のコントロールがよい状態が3~6ヵ月続けば、治療のステップダウンを試み、なるべく少ない薬でよい状態を維持することを目指します。 2018年版のガイドラインでは、これまでステップ3以上とされていた長時間作用性の抗コリン薬の使用が、ステップ2からになりました。 COPDの中心的な治療薬ですが、喘息にも有効なことがわかってきたのです。 また、ステップ4では、重症の場合の新たな治療法が追加されました。

喘息の治療ステップ


ポイント③通常の薬でコントロールが困難な重症の喘息に新しい治療法も

近年、通常の治療薬で十分にコントロールできない重症の喘息に、炎症を抑える力が強い生物学的製剤の注射薬も使われるようになっています。 改訂版のガイドラインでは1種類のみでしたが、18年版では3種類に増えています(現在はさらに増えて4種類)。 生物学的製剤は、種類によって対象となる患者さんが異なりますが、適する薬を使うと、多くの人で喘息発作が減り、 飲み薬や注射で使う全身性ステロイド薬を減らすことができます。また、喘息だけでなく、他のアレルギー性疾患を合併している人では、併せて改善が期待できます。 ただし、生物学的製剤はどれも非常に高価な薬で、また、どの患者さんにも効果があるというものではありません。 本当に他の薬が効かない重症の喘息か、生物学的製剤が適するタイプか、その見極めが重要になります。 こうした治療を検討する際には、喘息の専門医を受診することが推奨されています。 また、重症の喘息には、薬物療法以外に気管支熱形成術という選択肢も加わりました。


ポイント④吸入薬は正しく吸入されてこそ効果を発揮する

吸入ステロイド薬などの吸入薬を正しく使えば、喘息の患者さんの9割以上で症状は改善されます。 治療を受けているのにコントロールがよくないという場合は、まず吸入薬が処方通りに正しい方法で使われているかの確認が必要です。 実は、吸入薬を使っている患者さんの半数以上が正しく吸入できていません。これでは使っていないのと同じことです。 そのため、新しいガイドラインでは、吸入指導についての項目が新たに加えられています。 患者さん自身も、吸入薬の使い方でよくわからないことがあれば、薬剤師に確認したり、薬と一緒に処方された説明書を見直ししたりして、 確実に正しく使えるようにしましょう。


■対応はどう変わる?

喘息は慢性の病気で、自覚症状がないときにも気管支には炎症がくすぶっています。 吸入ステロイド薬の普及により、喘息のコントロールはこの30年ほどで飛躍的に改善しました。 しかし、今でもなお、「吸入ステロイド薬を基本とする標準的な治療」が行われていない例もあります。 患者さんの中にも、吸入薬より飲み薬のほうが効果の高い治療だと思っている人が多く、また、慢性の病気であるにもかかわらず 自覚症状がなくなると治療をやめてしまう人が少なくありません。 喘息という病気に対する理解や、吸入薬を中心とする標準的な治療のさらなる普及が望まれます。