気胸

肺が縮んで呼吸が苦しくなったり、胸や背中に痛みが起こる「気胸」は、一般に再発しやすい病気です。
治療法として、以前から行なわれてきた「胸腔鏡手術」に、さまざまな工夫が加えられ、再発が少なくなってきています。


■「気胸」とは?

胸腔内に空気がたまり、肺が膨らまなくなる病気

何らかの原因で肺の組織の一部が弱くなり、肺に孔が開くと、中の空気が漏れ出て胸腔にたまり、 肺が膨らむことができなくなります。その結果、肺の呼吸運動が妨げられます。 この状態を『気胸』といいます。 気胸は事故など、何らかの外的原因で起こることもありますが、多くの場合、肺の表面に風船状に膨らんだ 「背のう胞」ができ、それが突然破れて起こります。 気胸は、痩せている若い男性に多い病気ですが、最近は、高齢者や女性にも増える傾向が見られます。 気胸を起こす患者数は、再発を含めて全国で年間1万人以上といわれています。


●気胸の主な症状

呼吸困難、胸痛、背中の痛みなど

肺が縮んで十分に呼吸ができなくなるために起こる「呼吸困難」や、 「胸痛」「背中の痛み」などが代表的な症状です。 胸痛や背中の痛みに加え、酸欠によって動悸を感じることから、心臓の病気と間違われることもあります。 軽い場合には、肩こりや筋肉痛と間違えることもあります。


●気胸の種類

▼原発性自然気胸
痩せていて胸板の薄い、背の高い男性に多いタイプです。「ブラ」あるいは「ブレブ」 と呼ばれる背のう胞が破れることで起こります。

▼続発性自然気胸
高齢者や女性によく見られるタイプです。何らかの病気があり、その症状として 気胸が起こります。高齢者の場合は、多くが主に喫煙の影響などで肺の組織が壊れる 「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」が原因で起こります。 女性の場合には、子宮内膜症が原因で、月経に伴って気胸が起こることがあります。

●ストレス、疲労と気胸

気胸には、ストレスも関係していると考えられています。 一般に、「受験などで重圧を感じたとき」「疲労状態や睡眠不足が続いたとき」など、 心身にストレスがかかったときに発症する傾向があるので、再発を防ぐためには、 疲労や睡眠不足を避けることも大切です。


■気胸の検査・診断

気胸が疑われる場合には、「胸部エックス線撮影」を行ないます。 それで肺の縮んだ状態が確認されると、気胸と診断されます。 肺のう胞の位置や大きさを調べるため、「CT検査」も行なわれます。 また、胸腔に造影剤を注入し、エックス線撮影をする「胸腔造影検査」が行なわれることもあります。


■気胸の治療

漏れ出た空気を抜いたり、手術を行なう

気胸と診断された場合は、次のような治療が行なわれます。 基本的な治療内容は、初めてか再発かによって異なりますが、原因による違いはありません。

◆初めての場合は胸腔ドレナージなど

▼経過観察
肺の縮み方が軽度の場合は、1~2週間に1回通院し、エックス線検査で肺の状態を 調べながら、肺が元の状態に戻るのを待ちます。患者は、体に無理のない生活を送りながら、 日常的に深呼吸するようにします。順調な場合には、自然に孔が塞がり、肺が膨らんで 元の状態に戻ります。

▼胸腔ドレナージ
肺の縮み方が中等度から高度の場合には、胸壁と肺の間に「持続吸引器」の管を入れ、 胸腔にたまった空気を抜き取り、肺が膨らむのを促します。管は、局所麻酔で側胸部に 直径1cm程の孔を開けて胸腔に通します。この方法では数日から1週間ほどの入院が必要です。 最近では、携帯用のドレナージセットを使う方法もあります。この方法では、 1週間に1回ほど通院すればよく、体に負担のかかる運動などを避ければ、 通勤、通学も可能です。

●再発した場合には手術が必要

気胸が再発した場合には、手術療法が行なわれます。手術では、すでに破れている肺のう胞や、 まだ破れていない肺のう胞を、周辺の組織ごと切除し、その部分を縫合したり、 レーザーで焼灼するなどの方法で塞ぎます。 手術には、「胸腔鏡手術」「開胸手術」があります。 最近は、体への負担が少ない胸腔鏡手術が主流となっています。

胸腔鏡手術では、全身麻酔をして、直系1cmほどの孔を側胸部に開け、 胸腔鏡や手術用具を挿入し、モニターで肺を観察しながら手術を行ないます。 一般の胸腔鏡では、視野は先端についたカメラの正面に限られるため、隠れた肺のう胞を発見できないことがあり、 手術後に再発することがよくありました。しかし、最近は、再発を起こしにくくするため、 さまざまな工夫がされています。

その1つが、新しく開発された「フレキシブル胸腔鏡」です。 この胸腔鏡は、医師の操作で先端部分を自在に動かすことができ、肺をさまざまな角度から観察できます。 そのため、肺のう胞の見逃しが少なくなり、再発率が低下しました。 また、特殊な「メッシュシート」の使用も再発防止に高い効果をあげています。 肺のう胞を切除して孔を塞いだ後、メッシュシートを、その周辺を覆うように貼り付けます。 メッシュシートは1ヶ月ほどで組織に吸収され、肺の表面を厚くします。 その結果、手術した部分の周辺に新たな肺のう胞ができても、破れにくく、再発しにくくなります。 この方法は、最近広まりつつあります。


●手術が適さない場合の「癒着療法」

再発した場合の治療法として、「癒着療法」があります。 これは、管を使って癒着剤を注入して肺と胸壁を強制的に癒着させ、肺が縮まないようにするものです。 しかし、この治療を行なっても、再発することがあり、再発した場合には、胸腔鏡手術を行なうのが 難しいという短所があります。そのため、合併症がある人や、脳梗塞の後遺症がある高齢者など、 手術を受けられない患者に限って行なわれる治療法と考えられます。