結核

治療の難しい多耐性結核。新しい治療薬も使えるようになり、効果が期待されています。


■結核の症状

結核は肺に起こる感染症。咳や血痰などが起きる

結核は、「結核菌」に感染して起こる感染症です。 "結核は過去の病気”と考える人もいるかもしれませんが、現在でも、日本で毎年2000人以上が結核で亡くなっており、決して過去の病気ではありません。 結核菌に感染している人は、やk2000万人と推定されています。感染者は特に70~80歳代の高齢者に多く、70歳代で約40%、80歳代で約70%の人が 結核菌に感染していると考えられています(下グラフ参照)。

結核


●感染から発病へ

結核菌に感染したからといって、そのすべての人が結核を発病するわけではありません。 通常は、免疫の働きによって結核菌が抑え込まれるため、発病はしません。 また、感染しているだけでは、他の人に感染させることもありません。 何らかの理由で免疫の働きが低下すると、結核菌の増殖を抑えきれなくなり、感染者が発病に至ることがあります。 感染者が発病するのは、生涯でおよそ1~2割といわれています。 結核を発病すると、肺の炎症が起こり、咳や痰などの症状が現れます。 さらに進行すると、広範囲に肺の組織が壊され、命に関わることもあります。 結核の患者さんが咳や痰とともに結核菌を吐き出し、この結核菌が空中に漂っていることがあります。 それを吸い込んでも、通常結核菌は肺から押し出され、感染は起こりません。 しかし、肺の奥まで結核菌を吸い込むと、感染が起こることがあります。

感染から発病へ


●主な症状

結核を発病して初めに起こる症状は、咳、痰、微熱、体のだるさなどです。 初期症状は風邪の症状と似ているため、風邪だと思って放っておくことが少なくありません。 進行すると、血痰息切れが起こります。 高齢者の場合は、急に体重が減少するのが特徴です。 このような症状が出るころには、病気が進行しているので、早く治療を受けることが大切です。 初期症状が「2週間以上続く」「いったんよくなっても繰り返す」、血痰、息切れ、体重減少などがある場合は、結核を始め、 風邪以外の病気を疑って、医療機関を受診してください。 医療機関では、胸部エックス線検査喀痰検査で発病の有無を診断します。 胸部エックス線検査を受けられるような内科や、呼吸器内科を受診するとよいでしょう。

感染から発病へ


●発病しやすい人

次のような人は、結核を発病しやすいとされます。

▼高齢者
日本では結核患者の半数以上が70歳以上の高齢者です。すでに感染している人のうち、加齢などで免疫の働きが低下しているケースが多いと考えられます。

▼乳幼児
免疫の働きが未熟なため、感染や発病を起こしやすいとされます。

▼喫煙者
喫煙は、感染や発病を起こしやすいことが報告されています。

▼痩せすぎ
栄養状態が悪いと、発病しやすくなります。

▼持病を持っている人
糖尿病で血糖コントロールが悪い」 「腎臓病で透析療法を受けている」 「胃を切除した」などがあると、発病しやすくなります。

▼薬の使用
抗癌剤、ステロイドホルモン剤、リウマチで使われる注射薬などを使用している場合は、発病しやすいといわれています。

以上に当てはまらなくても、結核を発病することがあります。特に若い年代では、これまで感染者のとの接触がなく、 結核に対する免疫を持っていない人が多いため、発病者が現れると、感染が拡大して集団感染が起こりやすいといえます。


■結核の治療

3~4種類の薬の併用療法を6~9が月間続ける

●薬物療法が基本

結核の治療は、飲み薬による「薬物治療」が基本になります。 作用の異なる3~4種類の薬を併用し、体内の結核菌を除去します。 咳やくしゃみの飛沫中の細菌量が多く、他の人に感染させる恐れがある場合は、入院して治療を受けますが、そうでなければ通院での治療が可能です。 治療は6~9か月間続けます。


●多剤耐性菌とは?

通常の結核は、6か月間毎日きちんと薬を服用すれば治すことができます。 しかし、稀に治療の柱となる2種類の薬に対する耐性(抵抗力)を持った結核菌が現れることがあります。 このような薬の効かない結核菌が「多剤耐性菌」です。 多くが、医師の指示通りに薬を飲まなかったり、勝手に薬を中断したことにより、結核菌が変化して多剤耐性菌が出現したと考えられます。 また、多剤耐性菌を持った患者さんから感染し、最初から多剤耐性菌であるケース(日本では発病者全体の1%以下)もあります。 最近は、確実に患者さんに薬を服用してもらったり、薬の中断を防ぐために、医療機関と保健所が目を配っているので、 国内での多剤耐性菌の新規発生は稀です。多くは海外で感染した人が、多剤耐性菌を国内に持ち込んだものと考えられています。


●多剤耐性菌の治療

多剤耐性菌結核の治療は難しく、命に関わることがあります。しかし、2014年7月、40年ぶりに結核の新薬が健康保険の適用になりました。 それは、デラマニドという飲み薬で、この薬を含む併用療法のほうが、含まない併用療法より、多剤耐性菌を体内から除去する効果が高いということがわかりました。 しかし、治療には複数の薬を使うため、デラマニド単独の効果がわかりにくいこと、実用化から日が浅いことなどから、 十分にわかっていないこともあります。今の段階(2015年/1月)でいえるのは、新薬には、これまでの薬より「食欲不振」「体重減少」 などの副作用が少ないという印象があることです。今後、さらに情報を収集・分析して、現在、実用化が進められている他の新薬と併せて、 多剤耐性菌の治療に役立てたり、治療期間の短縮を可能にすることが期待されています。


■結核を予防するには?

日常生活では、「十分な睡眠」「適度な運動」「バランスのとれた食事」などを実践し、免疫の働きが低下しないようにしてください。 タバコを吸わないこと、無理なダイエットをしないことも大切です。 密閉された空間では、発病者が吐き出した結核菌が少なくとも2~3時間は漂っていると考えられます。 実際に一部のインターネットカフェ、サウナなどで感染が広がったケースもあるため、密閉された空間への長時間の滞在は控えるようにしましょう。 また、乳幼児には、必ず予防のためのワクチンのBCG接種を受けさせてください。 生後6ヵ月から1年以内に受けることが推奨されており、その間であれば、集団接種や個別接種を無料で受けることができます。