心不全
高齢者を中心に、『心不全』が急増しています。心不全は命に関わる病気です。 心不全という言葉を聞いたことはあっても、どういう病気かは知らない。 あるいは、心臓が止まって死亡することを指すと思っている人も多いようです。 そのため、日本循環器学会と日本心不全学会は2017年に 「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」という定義を発表しました。
●「心臓が悪い」とは?
心臓は収縮と拡張を繰り返すことで、血液を全身に循環させるポンプの役割を果たしています。 心不全では、心臓が十分に収縮できない収縮不全や、十分に拡張できない拡張不全が起こり、 心臓のポンプとしての役割が低下し、血液の循環が悪くなる状態をいいます。 心不全が起こると、肺の中や全身の静脈に血液がうっ滞し(うっ血)、十分な血液が供給されなくなった様々な臓器が酸素不足・栄養不足に陥ります。 何とか血液循環を保とうと働く心臓には、過剰な負担がかかり、心臓を動かす筋肉(心筋)が肥大したり(心肥大)、拍動が増えたりして、 ますます心臓の働きが低下してしまいます。また、心臓に溜まる血液が増え、心臓が大きくなる心拡大も現れます。 その結果、心臓への負担が増して、心不全がますます悪化するという悪循環が起こってきます。
●心不全の現状
心不全は高齢者に多く、社会の高齢化に伴って急激に増加しています。 心不全の原因は多岐にわたり、どんな心臓病も、それによって心臓の機能が低下すれば、心不全が起こります。 急激に心臓の機能が低下する急性心不全の原因の代表が、急性心筋梗塞です。 ウィルスなどの感染による急性心筋症も急性心不全の原因となります。 一方、徐々に心臓の機能が低下する慢性心不全の原因で多いのは、 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、 高血圧、心臓弁膜症、心筋症などです。 そのほか、不整脈、甲状腺機能亢進症や腎不全などの病気が、心不全を招くこともあります。 また、慢性心不全の患者さんの症状が急に悪化するのを強制増悪といい、急性心不全として扱います。 急性増悪の主な誘因には、服薬の中断、塩分や水分の摂り過ぎ、高血圧、風邪などの感染症、 疲労やストレスなどがあります。 心臓の働きが低下してもなかなか自覚はできません。比較的気付きやすい症状が、うっ血による体のむくみや息切れです。 心臓から送り出す血液が減るため、疲れやすいなどの症状も現れます。 息切れは、初めは動いたときに現れ、重症になると安静時でも苦しくなります。 就寝中に息苦しくなったら、急性増悪が疑われます。
■心不全の症状
息切れやむくみが代表的な症状
肺や全身のうっ血が起こると、次のような症状が現れます。
- ▼肺のうっ血で起こる症状
- 血液が肺に溜まるため、息切れが起こってきます。 初めは体を動かすと息切れする程度ですが、進行すると安静にしていても息が切れるようになります。 呼吸が速くなったり、ゼーゼーすることもあります。 横になっていると血液が肺に流れ込んで息苦しくなり、上半身を起こすと呼吸が楽になる「起座呼吸」も特徴的な症状です。 就寝して2~3時間後に、突然息苦しくなって目が覚めることもあります。 肺のうっ血が悪化すると、「肺水腫」が起こることもあります。
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【肺水腫】
血液に含まれる水分が、血液の外にしみだして肺の中に溜まった状態のことです。 肺水腫が起こると、聴診器からバリバリ、ブツブツという呼吸音が聞こえたり、ピンク色の痰が出ることがあります。 下写真のようにエックス線画像で見ると、健康な人の肺は空気が多いので黒っぽく写りますが、 肺水腫のある人の肺は水分が溜まっているために、白っぽくなります。 - ▼全身のうっ血で起こる症状
- 心臓に戻る血液が全身にとどまるため、くるぶしの周りや足の甲、脛などにむくみが起こります。 うっ血により、おなか(主にみぞおちの右側辺り)の膨満感や食欲不振が起こったり、右の肋骨のあたりが張って重く感じる場合もあります。 頸動脈が膨れたり、肝臓が異常に大きくなる「肝腫大」など、自分では気づきにくい症状が現れることもあります。
- ▼心拍出量の低下で起こる症状
- 心拍出量とは、心臓から送り出される血液の量のことです。心不全になると心拍出量が減少します。 そのため、疲れやすい、手足が冷たい、低血圧、冷や汗、酸素不足で皮膚が青黒くなる(チアノーゼ)、尿量が減るなどの症状が起こることがあります。
■心不全の原因
原因は心臓病だけではない
どんな心臓病でも心臓の働きが低下すれば、最終的には心不全になります。 その中でも大きな原因となるのが、 心筋梗塞、 狭心症、心筋症などです。 ただし、心臓病がなくても、 高血圧、 糖尿病、 脂質異常症、 肥満・メタボリックシンドロームなどは心不全に繋がります。 また、加齢も大きく影響することがわかっています。 これらのうち、心不全の原因として最も多いのは心筋梗塞で、次いで多いのが高血圧です。 心不全の原因となる心臓病や生活習慣病がある人は、それらの治療をしっかりと行い、心不全を予防していくことが重要です。
■心不全の進行
悪化と回復を繰り返しながら心不全は進行する
心不全の進行とともに、体の機能は長年の間に少しずつ低下していき、ある日、呼吸困難などの強い症状が急に現れ、心不全と診断されるのが一般的です。 心不全と診断されても、多くの場合はいったん回復します。しかし、その後、悪化と回復を繰り返しながら徐々に進行していくことが多いのです。 心不全は完治が難しく、それが原因で亡くなることも少なくありません(下図グラフ参照)。 徐々に進行して亡くなるところは癌と似ています。心不全が癌と大きく異なるのは、悪化と回復を繰り返したり、 急に悪化して突然死に至るケースが珍しくないことです。 心不全は、経過の予測が難しいのです。 しかし、心不全の完治は難しくても、治療によって急な悪化を防ぎ、進行を遅らせることはできます。 それによって何十年も問題なく生活している人もいます。 適切な治療を受け心不全とうまく付き合っていくことが大切です。
■心不全の治療
急性心不全では、入院して、酸素吸入や点滴などで改善を図ります。 慢性心不全では、治療できる病気が原因であれば、まずその治療を行うのが原則です。 高血圧などを併せ持つ場合には、その治療や、食事・運動などの生活習慣の改善も欠かせません。 心不全の治療は症状や血液検査、心電図検査などで診断がつけば始められますが、原因を調べ、確定診断するには心エコーが必要です。 心不全そのものに対する治療法としては、薬物療法と非薬物療法があります。 中心となるのは薬物療法で、重症の場合には、併せて、心臓の拍動を助ける機器による治療なども検討します。 悪化を予防するセルフケアも大切です。 こうした治療で改善しない場合や、心機能が著しく低下した場合の治療には、補助人工心臓や心臓移植などがあります。
【関連項目】:『心不全の治療』