メタボリックシンドローム
(内臓脂肪症候群)

メタボリックシンドロームは、 日本人における死因の1/3(悪性腫瘍とほぼ同じ)を占める心血管系疾患の発症の原因として肥満を中心に捉えた概念で、 内臓脂肪型肥満から生じる糖質や脂質の代謝の変化が、 「高血糖」 「高血圧」 「脂質異常症」のうち2つ以上を合併した状態で、 病的な異常状態ではないが、完全に正常でもない状態をいいます。 高血糖や高血圧はそれぞれ単独でもリスクを高める要因ですが、これらが多数重積すると相乗的に 「動脈硬化性疾患」の発生頻度が高まるため、 リスク重積状態を「より早期に把握」する必要があります。


■メタボリックシンドロームの定義

近年、過食による栄養過多や生活習慣の変化に伴う運動不足によって、脳血管障害や冠動脈疾患が増加しており、 動脈硬化性疾患の中でも、これらの生活習慣要因が強く影響している 糖尿病・脂質異常症・高血圧などの危険因子が集積した病態が特に問題となっています。 そのような状況を背景にして、2005年に『メタボリックシンドローム』の診断基準が策定されました。 「メタボリックシンドローム」は、日本語で「内臓脂肪症候群」と訳され、

「内臓脂肪の蓄積とそれを基盤にしたインスリン抵抗性および糖代謝異常、脂質異常、高血圧を複数合併した動脈硬化症の危険病態」

と定義されています。(3つのうち1つだけが当てはまる場合は「予備軍」です。)

「内臓脂肪型肥満」は動脈硬化の三大危険因子 「高血糖症(糖尿病)・高脂血症(脂質異常症)・高血圧症」などの生活習慣病と密接に関連しています。 高血糖症(糖尿病)・高脂血症(脂質異常症)・高血圧症は、単独でも狭心症・心筋梗塞・脳卒中の発症頻度を健康な人の2~3倍増加させますが、 これらのリスクが集積することによって、それぞれが軽度であっても、動脈硬化性疾患の発症頻度が数倍増加してしまいます。 メタボリックシンドロームは、生命に関わる病気につながる、非常に危険な状態なのです。 あるデータによると、メタボリックシンドロームの危険因子を持っていない人の 「狭心症・心筋梗塞」発症率を1とした場合、 危険因子を2個持っている人は5.8倍、4個持っている人は35.8倍、発症率が高いそうです。 そのため、肥満をベースにした生活習慣病の合併を早期に診断することが心血管系疾患の予防にとって重要になります。 従来、このように危険因子が重積した症例に対し、それぞれのリスクに対して複数の薬剤を使った治療がなされている場合がありました。 メタボリックシンドロームという疾病概念が確立されたことによって、 内臓脂肪蓄積が存在する場合には、まず内臓脂肪蓄積を減少させる生活様式の改善を積極的に行う意義が明確になったと考えられます。


■メタボリックシンドロームの原因

肥満はメタボリックシンドロームの大敵

「過食」「運動不足」の生活を送っていると、体に脂肪が蓄積し次第に肥満化していきます。 そして、メタボリックシンドロームのおおもとは「肥満」です。 肥満は皮下のすぐ下に脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」と 腸の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」の2つに大別され、 「内臓脂肪型肥満」がメタボリックシンドロームや生活習慣病の元凶となります。

脂肪を構成している「脂肪細胞」には、体内で余ったエネルギーを蓄える働きがあります。 また、「アディポサイトカイン(生理活性物質)」と呼ばれる、 体のさまざまな機能を調整する物質を作り出す働きも持っています。 ところが、内臓脂肪が過剰に蓄積すると、このアディポサイトカインの分泌に異常が生じて、 脂肪組織からさまざまな動脈硬化危険因子が分泌され、 その結果、さまざまな機能に影響が及んで、脂質異常症や高血糖症、高血圧症などを引き起こします。

例えば、アディポサイトカインの代表的なものに「レプチン」と呼ばれるアディポサイトカインがあります。 レプチンは、正常な状態では摂食抑制作用および体重減少作用をするホルモンですが、 肥満になるとレプチンが作用しないような状態になることが知られています。 すなわち、肥満者では「高レプチン血症」にもかかわらず摂食抑制・体重減少が起こりません。 レプチンは血管障害の動脈硬化の発症に関与している可能性も指摘されています。

また、内臓脂肪型肥満になると「インスリン抵抗性」が生じます。 インスリン抵抗性になると食後の高血糖を引き起こし、糖尿病も発症します。 さらに高トリグリセライド血症(中性脂肪過多)、低HDL血症(善玉コレステロール低下)、 高LDL血症(悪玉コレステロール過多)などの脂質異常症をもたらし、 動脈硬化の原因ともなります。

アディポサイトカインには、血栓を作りやすくする悪玉の物質や、血管の弾力性を保つ善玉の物質などがありますが、 内臓脂肪が溜まると、悪玉の物質が増えて、善玉の物質が減り、血管が損傷されてしまいます。 こうして、内臓脂肪の蓄積は、直接的にも間接的にも動脈硬化を進めることになるのです。


●メタボリックシンドロームの三大危険因子

高血糖、高脂血、高血圧はいずれも血管にダメージを与え、動脈硬化を引き起こす原因となり、メタボリックシンドロームの温床になります。 これらは単独で見たときに軽症であったとしても、複数が重なって起これば血管への負担はとても大きくなるので、 メタボリックシンドロームの判定には、内臓脂肪型肥満に加えてこれらの要因が重なっていないかを検査して確認することが大切です。

高血糖
血液中のブドウ糖が増えすぎた状態が「高血糖」です。 血糖値が上がると、膵臓はそれに合わせてインスリンを多量に分泌するため負担がかかり、次第に機能が衰えてしまいます。 高血糖状態が続くと糖尿病になる可能性があります。

高脂血
血液中に溶けている脂質(コレステロール)が必要以上に多い場合をいいます。 高脂血が続くと血管の内壁にコレステロールが蓄積して血管が狭くなり、もろくなります。

高血圧
血圧が正常範囲を超えて高いまま持続している状態です。 高い圧力に対抗しようとして血管の壁が厚くなり、結果として血管が狭くなってしまいます。