狭心症・心筋梗塞

心臓病は現在、日本人の死亡原因の第2位ですが、その大半は狭心症』や『心筋梗塞です。 狭心症や心筋梗塞の症状というと、前触れのない、”締め付けられるような胸の痛み”が一般的です。 痛みは数十秒から数分にわたって続き、胸の奥に圧迫感や締め付けられる感じを覚えます(狭心症)。 また、首や肩、上腕、背中など、一見心臓とは関係のなさそうな部位にも、痛みが起こることがあります。 前触れとして、左肩に強い肩こりを覚えることもあります。 狭心症は、心筋に酸素と栄養素を運ぶ冠動脈がスムーズに流れなくなることで、心筋に血液が十分に供給されなくなった状態です。 症状や発生頻度が一定の安定狭心症と症状が強くなっていく不安定狭心症、 発生状況によって労作性狭心症安静時狭心症に分かれます。 高血圧糖尿病脂質異常症喫煙肥満ストレスなどが原因とされます。 治療は、症状が起こったら、なるべく安静にし、ニトログリセリンなどの錠剤を持っている場合は速やかに服用します。 水分を摂ることも大切です。


■「狭心症・心筋梗塞」とは?

心臓は「心筋」と呼ばれる筋肉でできており、健康な人では1日に約10万回拍動しています。 心臓には、全身に血液を送り出すポンプの役割があり、そのためには心筋にも酸素と栄養が必要になります。 この心筋にそれを供給しているのが、心臓を冠のように取り巻く「冠動脈」という血管です。 「狭心症」は心臓に栄養を送る「冠動脈」の内腔が狭くなり、血液の流れが悪くなって、心筋が一時的に酸素不足に陥ることで起こります。 冠動脈の一部が狭くなって、その先の心筋に十分な血液が行かなくなると、心筋は酸素や栄養が足りなくなって働きが低下してしまいます。 このような血液不足の状態が一時的に起こるのが「狭心症」で、発作が起こると、「胸の痛み」などの症状が現れます。 一方、冠動脈が完全に詰まって血流が途絶えると、心筋の一部が壊死してしまいます。これが「心筋梗塞」です。 寒い場所では、肌が白くなることがあります。これは、寒さで体温が失われないように血管が収縮するためです。 同様に、寒い場所では心臓の血管も収縮するため、狭心症や心筋梗塞も起こりやすくなります。 特に12月から3月にかけては、心筋梗塞などで亡くなる人が多い時期です。 寒さは狭心症の発作の引き金になりやすいだけに、冬季は特に注意が必要です。 心臓病は現在、日本人の死亡原因の第2位ですが、その大半は心筋梗塞や狭心症です。


■狭心症・心筋梗塞の症状

通常、冠動脈の内腔が75%以上まで狭窄すると、症状が現れてきます。 狭心症や心筋梗塞の症状というと、”締め付けられるような胸の痛み”が一般的ですが、 首や肩、上腕、背中など、一見心臓とは関係のなさそうな部位にも、痛みが起こることがあります。 「狭心症」の代表的な症状は、胸の辺りが押さえつけられるような「圧迫感」や「重圧感」、 締め付けられるような「絞扼感」を伴う「胸痛」です。また、息苦しさなどが起こります。 症状の感じ方は個人差が大きく、「動悸」「息苦しさ」「肩こり、歯の痛み」程度の人や「ほとんど感じない」という人もいます。 ”階段を少し上っただけで息切れがする”といった症状で、病気に気付くこともあります。 また「左胸が痛む」と思う人も多いのですが、痛むのは胸の中心付近です。 左胸に痛みがある場合は、まず狭心症ではありません。

痛みは胸だけではなく、あごやのど、左肩、腕、背中、胃、みぞおち、歯などに現れたり、腕を伝って指先にまで広がることがあります。 これらの痛みは数分から15分程度で治まるのが一般的で、それよりも長く続くような場合や 冷や汗が出るほど激しく痛んだりする場合は「心筋梗塞」が疑われます。 また、一度痛みが治まっても再び発作が起こるときは、心臓の血管が詰まりかけていることもあります。 発作を起こす回数が増したり、起こす間隔が短くなった時は、心筋梗塞を起こす危険性が高いという警告です。 そのサインを見逃さずに受診することが大切です。 狭心症の症状は、一般的には5分程度で治まり、30分以上続く場合には、心筋梗塞の可能性があります。

狭心症の種類(狭心症の症状の現れ方)には、「労作時狭心症」と「安静時狭心症」があります。 労作時狭心症は、坂道を上がったり、早足で歩いたりなど、体を動かしたときに症状が現れるタイプで、 安静時狭心症は、運動と関係なく、安静時に発作が起こる狭心症で、日本人の狭心症の約半数はこのタイプです。 治療は原因や経過から「安定時狭心症(血管の内腔が狭くなるタイプ)」「不安定時狭心症(血栓ができるタイプ)」 「冠攣縮性狭心症」の3つのタイプに分けて考えることが多いようです。

●胸以外の部位が痛む「放散痛」

前記のように、胸以外の部位に痛みを感じることもあります。これを「放散痛」といいます。 みぞおち辺りの上腹部や肩、上腕、背中、歯などにも痛みが出ることもあります。 放散痛は、狭くなったり詰まったりした血管が伸びている方向に生じる傾向があります。 例えば、「右冠動脈」に狭窄がある場合は上腹部に、「回旋枝」の場合は背中に出やすくなります。 痛みが「点」ではなく「面」で生じるのも特徴です。例えば歯の場合、虫歯ならその箇所だけが 痛むことが多いのですが、心臓病の「放散痛」の場合は、痛みが胸からのどを通って、 歯まで及んでいるかのように感じられます。不安感を伴う重苦しさ、圧迫感として感じることが多いようです。 「放散痛」が起こる人はそれほど多くありませんが、なかには「放散痛」しか起こらない人もいるので注意が必要です。


■狭心症発作の起こる仕組みとそのタイプ

狭心症発作が起こる仕組みには、次の3つのタイプがあります。

▼血管の内腔が狭くなるタイプ
冠動脈の血管壁の最も内側を覆う層を「内皮」といいます。 動脈硬化によって血管が傷んでいると、 内皮の下にコレステロールなどが溜まり、 「粥腫(アテローム)」と呼ばれる動脈硬化巣ができます。 粥腫は徐々に血管の内腔に盛り上がってきて、内腔が狭くなります。 階段や坂を上るなど、少し強い動作を行うと、筋肉が大量の血液を必要とするため、心臓はより強く、より速く拍動します。 その分、心筋にも多くの血液が必要になりますが、血管の内腔が狭く、必要な量の血液が確保できないために、 心筋が一時的に血流不足(虚血)になって発作が起こります。労作時狭心症に多いタイプです。 発作が安定していれば、すぐに心筋梗塞に移行する危険性は低いと考えられます。

▼血栓ができるタイプ
動脈硬化が進行して、何かの拍子に粥腫を覆っている内皮が破れると、そこに血小板が集まって、「血栓」と呼ばれる血の塊ができます。 それにより、冠動脈の内腔はますます狭くなり、血栓の大きさによっては、血管を完全に詰まらせてしまいます。 そのため、心筋に酸素や栄養が送られなくなり、心筋の細胞が壊死して、心筋梗塞を引き起こすこともある、非常に危険なタイプです。

▼血管が痙攣するタイプ(冠れん縮性狭心症)
冠動脈が突然痙攣を起こして、血管の内腔が狭くなります。 発作は安静時に起こりやすく、心筋梗塞に移行することも少なくありません。

●労作性狭心症(労作時狭心症)

◆症状と特徴

体を激しく動かしたときに起こる狭心症です。 階段の上り下りや、坂道を上がったり、走ったり、速足で歩くこと、重い荷物を持ち上げることなど、体を動かしたときに症状が現れるタイプです。

◆原因

その原因には、血管の老化、食生活の乱れ、運動不足などが関係して起こる「動脈硬化」があります。 体を動かすと、全身の筋肉は酸素を多く必要とします。そのため、全身の血流をよくするために心臓も活発に動きます。 心臓が活発に動くためには、冠動脈から大量の血液が供給される必要があります。 しかし、冠動脈が動脈硬化などによって狭まっていると、心筋に十分な血液が流れず狭心症の発作が起こってしまうのです。 高脂質・高エネルギー量の食生活や運動不足が続くと、血液中にコレステロールを多く含む悪玉の「LDL」が増えます。 血管壁が加齢などでもろくなり、傷つくと、LDLが血管壁に入り込みます。 すると、白血球の一種である「マクロファージ」がこれを異物と判断して取り込み、「アテローム(粥種)」を形成します。 アテロームが大きくなると、血管の内腔が狭くなり血液が十分に流れなくなります。これが「動脈硬化」です。

体を動かすと、全身に血液を送り出すために、心筋はより多くの酸素を必要とします。 しかし、動脈硬化で冠動脈が狭くなっていると、心筋に十分な血液が送られません。 すると、心筋は酸素不足に陥り、「狭心症」の発作が起こるのです。 また、アテロームを覆う膜が傷ついて破れると、修復するために血小板が集まります。 血小板が固まって血栓(血の固まり)をつくり、冠動脈を塞ぐと、「心筋梗塞」が起こります。 初期のうちは、午前中によく起こります。「急に体重が増えたわけでもなく、極端に運動不足でもないのに、 階段を上っただけで息切れがする」という場合は要注意です。

◆治療

まずは安静にして動かないことです。水分補給とニトログリセリンの服用を行い、症状が改善されない場合は病院へ搬送してもらいます。 発症から6時間以内に適切な治療が行われれば、回復の可能性は高まります。 血栓溶解薬を使用するか、もしくは経皮的冠動脈形成術(PCI)などの手術で血行を促進させます。


■安静時狭心症

◆症状と特徴

運動と関係なく、安静時に発作が起こる狭心症で、日本人の狭心症の約半数はこのタイプとされます。 狭心症の中でも、体を動かしていない時に起こるものです。早朝によく発生し、寝ている間に起こることもあります。 自覚症状は、労作性狭心症と同様に、数分間で消える胸の圧迫感、首が締め付けられるような感覚や背部痛などです。 症状が出た時の状況、持続時間、回数などは、医師が狭心症のタイプを判別する際の重要な材料になります。 可能な限り記録して、診察の際に医師に伝えましょう。 安静時狭心症は、冠動脈が部分的に痙攣して、血管の内径が狭くなり、血流が悪くなることによって起こります。 動脈が痙攣する現象のことをスパスム(攣縮)と呼びます。

◆原因

「安静時狭心症」は、主に冠動脈が痙攣して細くなり、血液の流れが悪くなることで起こります(冠れん縮性狭心症)。 健康な血管では、血管壁の内側を覆う内皮から一酸化窒素が分泌され、血管を拡張させています。 ところが、加齢や高血圧などが原因で内皮が傷つくと、一酸化窒素の分泌が減り、 内皮の下にある平滑筋が収縮しやすくなります。それと同時に、自律神経から分泌される「アセチルコリン」が、 平滑筋を刺激して、血管を強く収縮させてしまいます。 このようにして、血管が過剰に収縮することで、痙攣が起こるとされています。 安静時狭心症は、夜、睡眠中に起こりやすいという特徴があります。 特に明け方の3~5時くらいに起こりやすくなります。 また、朝起きて冷たい空気に当たったときや、冷水で顔を洗ったときなどに起こることもあります。

狭心症から移行して心筋梗塞を起こすのは、主に動脈硬化が原因の労作時狭心症です。 安静時狭心症で血管が痙攣するすること自体では、血管が完全に詰まって心筋梗塞に繋がることはあまりありません。 しかし、血管の痙攣が長く続くと 「心室細動」という危険な「不整脈」を引き起こすことがあります。 心室細動では、心臓の心室が痙攣して、心臓から血液が送り出されなくなり、突然死の原因となります。 お年寄りや糖尿病がある人では、狭心症の症状が現れない場合もあります。 健康診断などで定期的に検査を受け、狭心症が見つかったらきちんと治療を受けることが大切です。

◆治療

狭心症の原因となる冠危険因子を是正し、薬物療法を行います。 肝動脈のスパスムが原因となる狭心症の場合には、特に カルシウム拮抗薬が有効です。 経皮的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス術などの手術も行われます。

●冠れん縮性狭心症

冠れん縮性狭心症は、動脈硬化でなく、冠動脈が激しく痙攣して強く収縮する狭心症で、 内腔が狭くなったり、閉塞したりして、血液の供給量が減少して(心筋虚血状態)発作が起こるタイプです。 痙攣を繰り返すうちに、粥腫や血栓ができやすくなり、心筋梗塞に移行するケースも少なくありません。 冠攣縮性狭心症は、深夜から早朝にかけて起こったり、安静時に起こることが多い狭心症で、 心筋梗塞を引き起こすこともありますが、薬による治療で心筋梗塞を予防できます。


■心筋梗塞への進行

不安定狭心症は、心筋梗塞を起こす危険性が特に高い

狭心症がある人は、症状の現れ方によっては、心筋梗塞に注意しなければなりません。 例えば「これまでよりも強い症状が現れている」「症状が長く続く」という場合や、 「軽い動作をしただけで症状が現れるようになった」「症状が頻繁に現れるようになった」という場合です。 「初めて症状が出てから1ヶ月以内に再び症状が出た」場合にも注意が必要です。 狭心症の症状がこのような現れ方をする場合には、「不安定性狭心症」の可能性があります。 心筋梗塞に移行する危険性が特に高い狭心症です。 狭心症がある人の冠動脈は動脈硬化を起こし、コレステロールなどが溜まった膨らみができていますが、 この膨らみが安定していれば、すぐに心筋梗塞を起こす危険性はほとんどありません。 しかし、不安定性狭心症の場合はコレステロールなどが多かったり、膜が薄くて破れやすくなっています。 そのため、不安定性狭心症は心筋梗塞を起こしやすいのです。不安定性狭心症の症状が現れていたら、すぐに医療機関を受診しましょう。

「胸痛が長時間続く」「特定の動作をすると毎回同じ場所が痛む」ときは、すぐに受診する必要があります。 また、自覚症状がない人でも「家族歴のほかにも危険因子がある」「高血圧、糖尿病、高脂血症など、 生活習慣病の危険因子が複数ある」などの場合は、一度検査を受けたほうがよいでしょう。 心筋梗塞は、発症すると完全に回復することは難しく、命に関わることも少なくありません。 狭心症の段階で、早めに治療を受けましょう。


■その他

●中年の女性に多い微小血管性狭心症

狭心症のような胸痛が起こるが、検査で冠動脈の狭窄や痙攣が見つからない人の中に、「微小血管性狭心症」があることが知られています。 中年の女性に多く、胸痛は安静時に起こることも、労作時に起こることもあります。 画像検査では見えない細い血管に狭窄や痙攣が起こるもので、診断には専門医の受診が望まれます。 近年、このタイプの狭心症に血管内皮機能の異常があることがわかってきて、血管内皮機能を調べる検査で、ある程度診断がつくこともあります。 速効性硝酸薬が効きにくい人もいますが、カルシウム拮抗薬やニコランジルなどで症状の軽減を図ります。 一般的に命には関わりませんが、半年~1年に1度の経過観察は大切です。 似た胸痛があっても血管内皮機能に異常がない場合や、症状が長時間持続する場合は、むしろ抗不安薬が役立つことが多いでしょう。