狭心症の薬物療法②薬の使い方
心臓の筋肉に血液を供給している「冠動脈」の内腔が狭くなって、胸痛などの発作を起こす「狭心症」。 狭心症の『薬物療法』では、起こった発作を鎮めるための薬と、発作を予防するための薬が使われます。 タイプに応じた薬を使って、発作の再発を予防し、心筋梗塞を起こさないように血管を守っていきましょう。
■狭心症の薬の使い方
●狭心症の発作が起こっときには?
- ▼狭心症の発作が起こっときには?
- 狭心症のある人は、速効性の硝酸薬を常に携帯し、発作が起きたらすぐに使います ニトログリセリンの舌下錠は、発作が起きたらすぐに舌の下に入れます。 数分経っても発作が治まらなければ追加します。スプレー剤の場合は、息を止めて舌下に噴霧します。 5分経っても効果が不十分なら、1回だけ追加します。硝酸イソソルビドの錠剤も、発作時には舌下で使います。 その際、錠剤を噛み砕いたほうが吸収が早まります。
- ▼使うときに注意することは?
- 急に血圧が下がってふらついたりすることがあるので、安全のために座って使うようにしてください。 めまいが起きたり、気分が悪くなったりしたときは、横になって少し足を高くした方が早く回復します。
●器質性狭心症で労作時に発作が起こる場合は?
- ▼どのような薬が用いられるのか?
- 労作時の速効性硝酸薬のほか、発作予防の中心となるのがβ遮断薬です。 原因が冠動脈の狭窄で、運動した時にしか起こらない人なら、β遮断薬だけで抑えられることもあります。 ステントを入れにくい細い血管の狭窄にも有効です。β遮断薬だけで発作が抑えられなければ、 持続性硝酸薬を併用します。労作性狭心症では、血中濃度が日中の活動時に高くなり、睡眠時に下がるように用います。 器質性狭心症では、血栓予防のためにアスピリンの併用もよく行われます。 LDLコレステロール値が高い人は、スタチンも有効です。
- ▼器質性狭心症でも、労作時以外に発作が起こるときは、薬の使い方が違う?
- 運動時に加えて安静時にも発作が起こるようになったら、狭心症の悪化が考えられ、不安定狭心症も疑われます。 冠動脈が合併していて運動時にも安静時にも発作が起こるなら、冠攣縮を抑える薬が必要かもしれません。
●冠攣縮性狭心症で、就寝中に発作が起こる場合は?
- ▼冠攣縮性狭心症で、就寝中に発作が起こる場合は?
- 発作時に速効性硝酸薬を使うのは器質性狭心症と同様ですが、発作予防には、カルシウム拮抗薬が基本になります。 冠動脈の狭窄もある人では、カルシウム拮抗薬と少なめの骨のβ遮断薬の併用が効果的です。
- ▼就寝中に発作が起こる場合の使い方は?
- 冠攣縮は、特に深夜や早朝に起こる人が多いものです。カルシウム拮抗薬を飲んでいても発作が起こるようなら、 発作が起こりやすい時間帯に薬の血中濃度が高くなるように、調節が必要かもしれません。 例えば、夕食後に飲んでいた薬を寝る前に飲むようにすると、うまく抑えられることもあります。 効果が不十分なら、持続性硝酸薬を、夜間から朝方を中心に作用するようなタイミングで、併用します。
●糖尿病があり、あまり胸痛が起こらない場合は?
- ▼糖尿病があり、あまり胸痛が起こらない場合は?
- 糖尿病のために神経が障害されて、発作が起きても胸痛などをあまり感じない「無症候性心筋虚血」の場合は、 速効性の硝酸薬を使う機会は少ないわけですが、気付きにくいだけに、わかった時には冠動脈の狭窄が進んでいて、 カテーテル治療などが必要なケースが少なくありません。薬物療法では、心臓や血管の負担を軽減する目的で、 β遮断薬をはじめ、カルシウム拮抗薬、持続性硝酸薬などを使います。血栓予防のためのスタチンもよく用いられます。 糖尿病のある人は、早期発見のために、健康診断として運動負荷心電図検査を受けることが勧められます。
●カテーテル治療を受けてステントを入れた場合は?
- ▼血栓予防のための薬はどのように使うのか?
- ステント留置を受けたら、血栓予防のために抗血小板薬の服用が必要です。 治療後の一定期間は、アスピリンと、より作用が強力なクロピドグレルやチクロビジンなど、2種類を併用します。
- ▼いつまで使い続ける必要があるのか?
- 従来、通常のステントなら3ヶ月間ほど、薬剤溶出ステントなら1年間ほど2剤を併用し、その後はアスピリンだけを使うと されてきました。最近、日本では、薬剤溶出ステントでも6か月間使えばよいというデータも出ており、少し短めになりつつ あります。冠動脈の状態によっても異なるので、カテーテル治療の9ヶ月後には冠動脈造影検査をし、状態がよければ、 以後アスピリンだけにするという方法も取られています。
- ▼他の薬はいらなくなる?
- 冠攣縮を合併している人では、狭窄部をステントで広げても、冠攣縮は治りません。 ステントを入れた周囲や他の部分、別に血管に痙攣が起こるなら、カルシウム拮抗薬を使います。 新たな狭窄を防ぐために、動脈硬化を防ぐ治療も大切です。
●狭心症の薬を使っているときに注意することは?
- ▼狭心症の薬を使っているときに注意することは?
- 狭心症を予防する薬は、使うタイミングが重要なことがよくあります。薬を使うときは、医師から指示された時間をきちんと 守ってください。指示通りに使っても発作が起こる場合や、血圧が下がり過ぎて体がだるいといった場合には、 医師に伝えて使い方を調節してもらいましょう。
- ▼血栓予防の薬を使っているときは?
- 副作用で出血しやすくなるため、胃の内視鏡検査を受けるときなどは、事前に伝える必要があります。 ただし、組織を採取したりすると出血が心配だからと、薬の服用を自己判断で中止するのは大変危険です。 かつては胃の生検を行うときに抗血小板薬や抗凝固薬を休薬していましたが、それによる脳梗塞などの事故が多いため、 今は消化器内視鏡のガイドラインでも、通常の検査などでの休薬は不要とされています。
- ▼日常生活で心掛けることは?
- 血管内皮の働きが障害されると、血栓ができやすく、また収縮が起こりやすくなります。 血管内皮機能の改善には、禁煙や、運動、食事など、生活習慣の改善が大切です。 併せて、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの治療をしっかり行いましょう。
■その他
●中年の女性に多い微小血管性狭心症
狭心症のような胸痛が起こるが、検査で冠動脈の狭窄や痙攣が見つからない人の中に、「微小血管性狭心症」 があることが近年知られています。中年の女性に多く、胸痛は安静時に起こることも、労作時に起こることもあります。 画像検査では見えない細い血管に狭窄や痙攣が起こるもので、診断には専門医の受診が望まれます。 最近、このタイプの狭心症に血管内皮機能の異常があることがわかってきて、血管内皮機能を調べる検査で、 ある程度診断がつくこともあります。速効性硝酸薬が効きにくい人もいますが、カルシウム拮抗薬やニコランジルなどで 症状の軽減を図ります。一般的に命には関わりませんが、半年~1年に1度の経過観察は大切です。 似た胸痛があっても血管内皮機能に異常がない場合や、症状が長時間持続する場合は、むしろ抗不安薬が役立つことが多いでしょう。