狭心症・心筋梗塞の治療③カテーテル治療とバイパス手術

狭心症』と診断された場合、まず行われるのは薬物療法です。 軽度の狭心症なら、それでコントロールができることが多いのですが、重度の狭心症では、十分な治療効果が得られないことがあります。 そのような場合には、カテーテル治療やバイパス手術など、心臓の冠動脈に対する直接的な治療が行われます。


■重度の場合の治療法

カテーテル治療やバイパス手術が行われる

重度の狭心症の治療法は「冠動脈を広げる方法(カテーテル治療)」「血液の迂回路を作る方法(バイパス手術)」の2つがあります。 カテーテル治療やバイパス手術が検討されるのは、次のような場合です。 一つは、薬をしっかり服用していても、発作が抑えられない場合です。 もう一つは「不安定狭心症」の場合です。 これまでより症状が「強い」「長く続く」「軽い動作で起こる」「頻繁に起こる」ときや、 「初めて症状が出てから1ヶ月以内に再び症状が出た」ときは不安定狭心症の可能性があります。


●カテーテル治療

カテーテルを用いて、冠動脈にステントを留置する

カテーテル治療で現在主に行われているのは、ステント療法という方法です。 ステントは金網製の小さな筒です。カテーテルを使ってステントを冠動脈の狭窄部まで送り込み、広げて留置します。 ステントが血管の壁を支えるのです。

◆ステント療法の特徴

治療時間は1時間から1時間30分程度で、入院期間は2~5日程度です。狭心症の程度や、狭窄の場所によっては、 日帰りで治療できる場合もあります。費用は総額150万円ほどなので、健康保険の自己負担が3割なら50万円程度になります。 高額療養費制度が適用された場合には、15~20万円程度の負担になります。 ただ、ステントを入れた部分が、再び狭くなってくることがあります。 ただ、ステントは体にとって異物なので、それを覆うようにして動脈の組織が増殖してくるのです。 これを防ぐため、現在はステントに組織の増殖を防ぐ薬を塗った「薬剤溶出型ステント」も使われています。 このステントを使った場合、ステントを入れた部分が再狭窄する可能性は、3~5%に抑えられます。 ステントを入れた部分以外の場所で動脈硬化が進行し、再発が起こることもあります。 榊原記念病院のデータでは、ステント治療を受け、その後15年間で治療した部位と違う場所に再発が起きた人が、30%ほどいました。 また、ステントには血液の塊(血栓)が付きやすいという問題もあります。 そのため、ステント療法を受けた人は、血栓を作りにくくする薬を長期間服用する必要があります。 再発の危険性を解消するため、新しいカテーテル治療の開発研究も進められています。


◆カテーテル治療②

カテーテル治療では、冠動脈の狭窄部を押し広げるのではなく、削り取る治療法も行われています。

▼ロータブレーター
ダイヤモンド粒子を付けたドリルをカテーテルの先端に装着し、高速で回転させて、 冠動脈の狭窄部を削り取ります。狭窄部のアテロームが石灰化して硬くなっている場合に適しています。

▼DCA
刃を内蔵した器具を使い、冠動脈の狭窄部を削り取ります。 左冠動脈の根元部分など、主に太い部分に対して行われます。 再狭窄しにくいという長所がありますが、冠動脈が曲がっている部分や石灰化して硬くなった部分には適していません。

これらの治療法は、医師の高度な技術が必要なので、どの医療機関でも受けられるというわけではありません。 特にロータブレーターに関しては、一定の基準を満たした施設でのみ治療を受けることができます。


●バイパス手術

新たに血管をつなぎ、血液の迂回路を作る

冠動脈に狭窄部がある場合に、冠動脈の根元がわから狭窄部の先まで新たに血管をつなぎ、血液の迂回路を作るのが バイパス手術です。それによって、心臓の筋肉に十分に血液を送れるようになります。 この治療には、患者さんの心臓とは別の場所にある健康な血管が使われます。

◆バイパス手術の特徴

手術にかかる時間は5時間程度で、2週間程度の入院が必要です。胸の骨を切りますが、それが完全にくっつくまでには 2~3ヶ月かかります。費用は総額300万円ほどで、健康保険の自己負担が3割の場合には、100万円程度です。 高額医療費制度が適用された場合、15~30万円程度の負担になります。 患者さんの体に与える負担が大きい治療ですが、3~5ヶ所の狭窄を一度に治療することができます。 また、特に「内胸動脈」をバイパスに使用した場合、その後に狭心症や心筋梗塞を再発する心配はほとんどありません。

◇治療後の注意

一度狭心症の治療を受けても、冠動脈の別の部分に動脈硬化が起こる可能性はあります。 治療後、特に症状がなくても、日常生活の中で危険因子を減らし、定期的に受診しましょう。



●治療の選択

狭窄の場所や数、年齢、持病などから判断する

どちらの治療を選択するかは、次のような点を考慮し、総合的に判断します。

▼狭窄の場所
冠動脈の根元に近い部分が狭窄している場合、そこが詰まると心臓の広い範囲に影響が及んでしまいます。 そこで、確実に血流を確保できるバイパス手術が向いています。

▼狭窄の数
狭窄部分が3ヶ所以上ある場合には、一度に複数個所の治療ができるバイパス手術が向いています。

▼年齢
75歳以上の人の場合、多くは体への負担が軽いカテーテル治療が選択されます。

▼持病
「糖尿病がある」「透析療法を受けている」という人は、動脈の状態が悪くなっていることが多いので、 バイパス手術が向いています。一方、「脳卒中を起こしたことがある」「肺や肝臓の病気がある」という場合は、 身体への負担が軽いカテーテル治療が適しています。

どちらの治療にも、それぞれ長所と短所があります。これをよく理解したうえで、患者さんのライフスタイルなども考慮し、 総合的に判断するとよいでしょう。どちらの治療を選択したとしても、再発を予防することは大切です。 狭心症はもともと動脈硬化を起こしやすい人が発病する病気なので、生活習慣を改善し、「心臓リハビリテーション」 をしっかり行っていきましょう。



●その他

◆新しいカテーテル治療とは?

血管の中で自然に溶けるステントの開発が進められています。「生体吸収性スキャフォールド」と呼ばれるステントで、 素材は手術で使われる「生体吸収糸」です。血管に入れると、2年くらいで吸収されてしまいます。 血管は、6~8ヵ月間支えていれば、広がったままの状態を保つことがわかっているので、ステントが吸収されても 再狭窄が起こることはほとんどありません。数年後には、このステントが治療に使えるようになる可能性があります。