内臓脂肪と生活習慣病

内臓脂肪が蓄積すると、中性脂肪が増えたり、内臓脂肪から分泌される物質に異常が起こったりし、 「動脈硬化性疾患」の危険因子である、 「脂質異常症」 「糖尿病」 「高血圧」 などの「生活習慣病」が起こりやすくなります。


■メタボリックシンドロームの危険性

危険因子が重なると、心臓病による死亡率が高まる

日本には、「メタボリックシンドローム」と診断される人が1000万人以上いるといわれています。 さらに、内臓脂肪の蓄積に加え、血中脂質や血圧、血糖のどれか1つに異常がある ”予備軍”を含めると、2000万人以上に上るとされます。 日本で行われたある調査では、 「心筋梗塞」「脳卒中」などの動脈硬化性疾患の危険因子である 「肥満高血糖高血圧脂質異常症」のうち、1~2個を持つ人は、持っていない人に比べ、 心臓病による死亡率が約3.5倍、3~4個だと約8倍でした。 これらの危険因子の大本には、内臓脂肪の蓄積があります。


●内臓脂肪と生活習慣病

内臓脂肪が血中脂質の量やインスリンの働きに影響を及ぼす

内臓脂肪が溜まり過ぎると、血中脂質や血糖、血圧に異常が起きて、「脂質異常症・糖尿病・高血圧」などの生活習慣病が引き起こされます。

◆血中脂質に異常が起こる仕組み

内臓脂肪には、大量の「中性脂肪」が溜められており、必要に応じて血液中に放出されます。 内臓脂肪が増えると、おのずと血液中の中性脂肪の量も増えてきます。 また、中性脂肪が増えると、血液中のコレステロールを回収する”善玉”の「HDLコレステロール」が減ることがわかっています。 これらの結果、血中脂質のバランスが崩れ、脂質異常症を招きやすくなります。

【関連項目】:『内臓脂肪と高脂血症』

◆血糖が増える仕組み

内臓脂肪は、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の働きを抑える物質(TNF-α)や、 インスリンの働きを高める物 質「アディポネクチン」を分泌しています。 内臓脂肪が増えると、TNF-αが増え、アディポネクチンが減ります。 そのため、血液中の糖(血糖)がうまく使われず、血液中に溜まって、 糖尿病を招きやすくなります。 また、血糖値が少し高めの”糖尿病予備軍”の段階から、動脈硬化は進むことがわかっています。

【関連項目】:『内臓脂肪と糖尿病』

◆血圧が上がる仕組み

内臓脂肪が増えると、内臓脂肪で作られている血圧を上げる物質「アンジオテンシノーゲン」が増えます。 また、内臓脂肪の蓄積でインスリンの働きが低下すると、血液中のナトリウムの排泄が阻害されて血液の量が増え、 併せて交感神経が刺激されて血管が収縮します。これらの結果、血圧が上がります。

【関連項目】:『内臓脂肪と高血圧』


このような生活習慣病を重ねて持っているほど、動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞や脳卒中発症の危険性が高まります。


●”ちょっと高め”から要注意

メタボリックシンドロームの段階から予防策を取ることが大切

内臓脂肪が蓄積した状態だと、血圧や血糖値、血中脂質の各数値が”ちょっと高め”でも、 内臓脂肪から分泌される、血管や血液に影響を与える物質 「アディポサイトカイン」によって、 動脈硬化が進んでしまいます。 すると、血圧や血糖、血中脂質にさらに異常が生じ、動脈硬化がますます進みます。 そのため、メタボリックシンドロームの判定基準は、高血圧など、個々の生活習慣病の基準値よりも厳しくなっているのです。

メタボリックシンドロームをできるだけ早く見つけ、改善することで、動脈硬化の進行を抑えて心筋梗塞や脳卒中を防ぐために、 2008年4月から「特定健診」が始まっています。


●その他

糖尿病の場合、予備軍でも動脈硬化は始まっている

糖尿病は主に、10時間以上絶食してから測る「空腹時血糖値」と、空腹時にブドウ糖液を飲んでから2時間後に測る 「ブドウ糖負荷後2時間値」、ヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合を示す「HbA1c」の3つで判定されます。 糖尿病の場合、”予備軍”である境界型の段階からすでに動脈硬化は始まっています。 また糖尿病は、進行すると、神経障害や網膜症、腎症を合併するようになります。 空腹時血糖値で正常型と判断されても、ブドウ糖負荷試験を行うと、境界型や糖尿病型と判定される人は多くいます。 特にメタボリックシンドロームや予備軍の人にその傾向が強くみられます。 当てはまる人は、一度、ブドウ糖負荷試験を受けることをお勧めします。