アディポネクチン
(動脈硬化を防ぐ生理活性物質)
『アディポネクチン』は、脂肪細胞から出てくる「生理活性物質」の1つで、別名「長寿ホルモン」とも呼ばれ、 アディポネクチンの多い人ほど長生きするという調査結果が出ています。
■アディポネクチンとは?
脳梗塞や心筋梗塞などの病気を起こしにくくする効果がある
『アディポネクチン』は、1996年に、メタボ研究の第一人者である大阪大学医学部分子制御内科の 松澤佑次教授(当時)の研究グループによって発見されたホルモンで、脂肪細胞から分泌されます。 アディポは「脂肪」、ネクチンは「くっつく」という意味です。 このアディポネクチンは、標準な体格の人の血液中には多く存在し、体の中で血液中を流れて全身を巡り、 血管の傷ついているところを見つけると素早く入り込み修復します。 「脂肪細胞」というと、かつては「エネルギーの貯蔵庫」としての役割しかないと考えられていました。 ところが、肥満と病気の関係についての研究が進むなかで、脂肪細胞がさまざまな働きを持つ「生理活性物質」(アディポサイトカイン) を作り出していることがわかってきました。生理活性物質は、100種類以上あるといわれ、 「アディポネクチン」も脂肪細胞から分泌される生理活性物質の1つです。 脂肪細胞が分泌する物質には、体にいい働きをする善玉物質と悪い働きをする悪玉物質があり、善玉物質の代表がアディポネクチンです。 アディポネクチンは長寿者の血液中に多いことから、長寿ホルモンとも呼ばれています。
アディポネクチンは、血管壁を修復する、細胞接着分子を減らす、酸化LDLの取り込みを抑えるなどの作用によって動脈硬化を予防して、 「脳梗塞や心筋梗塞」などの病気を起こしにくくする効果「抗動脈硬化作用」があるといわれています。 また、インスリンを活性化させて、血糖をコントロールする働き「抗糖尿病作用」もあります。 それに加え、「抗肥満作用」を併せ持つ分子であることが多くの研究者により明らかにされ、 「メタボリック・シンドローム対策」 の中心的存在として注目されています。 アディポサイトカインの一つであるアディポネクチンは、前記のように抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗炎症作用、抗肥満作用 を併せ持つ分子であることが多くの研究者により明らかにされ、「メタボリック・シンドローム対策」の中心的存在として注目されています。 そのほか、「抗炎症作用」「高血圧の予防」「癌の予防」「脂肪肝の予防」などが期待でき、専門家の間で今最も注目を集めています。
しかし、アディポネクチンは、脂肪細胞で作られるホルモンですが、 アディポネクチンは、内臓脂肪と相関し、内臓脂肪が増えれば血液中のアディポネクチンは減少します。 内臓脂肪が多くなり肥満になるとアディポネクチンの分泌が減り、健康や寿命に影響します。 内臓脂肪のレベルは、1~10が標準、10~15がやや過剰、15~17.5以上が過剰です。 心筋梗塞などの冠動脈疾患の患者では、アディポネクチンが低い群ほど死亡率が高くなります。 また糖尿病患者でもこの数値が低く、インスリン感受性が低いことも報告されていますし、動脈硬化も高率に発現するようです。
●アディポネクチンの働きⅠ「動脈硬化を防ぐ」
「動脈硬化」にはいくつかタイプがありますが、一般には「粥状動脈硬化」を指します。
血管壁の内部に「アテローム」という柔らかい塊ができるものです。
まず、高血圧や高脂血症、喫煙などが原因で血管壁に傷などができると、
全身にコレステロールを運ぶ”悪玉”の「LDL」が、血管壁の「内皮細胞」の下に入り込みます。
すると、LDLは何らかの要因で酸化され、「酸化LDL」に変わります。
一方、白血球の一種である「単球」が、血管壁の表面にある「細胞接着分子」と呼ばれる
接着剤のような役割をする分子に捕らえられて、内皮細胞の下に入り込みます。
すると単球は「マクロファージ」という細胞に変わり、酸化LDLを取り込みます。
こうしてコレステロールをたくさん取り込んだマクロファージを「泡沫細胞」といいます。
この泡沫細胞などがたまって、「アテローム」ができます。
「アディポネクチン」は、これらの過程のさまざまな場面で、動脈硬化が進展しないように活躍しており、
その働きには次のようなものがあります。
- ▼血管壁を修復する
- 「アディポネクチン」は、常に血管壁のパトロールを行い、傷などを見つけたら、それをきれいに修復します。 血管壁の傷からLDLが入り込んでしまうのを防ぐことで、動脈硬化の芽を摘みます。 また、血管壁の「中膜」を構成する「平滑筋細胞」が、傷ついた「内膜」を修復しようとして増殖し、 内膜に進入してくることも動脈硬化を進める要因の一つです。 アディポネクチンには、この平滑筋細胞が増殖するのを防ぐ働きもあります。
- ▼細胞接着分子を減らす
- 単球を捕らえる細胞接着分子は、血液中のLDLの量が過剰になると増えるといわれます。 「アディポネクチン」は、この細胞接着分子ができるのを抑えて、単球が血管壁の中に入り込むのを防いでいます。
- ▼酸化LDLの取り込みを抑える
- 「アディポネクチン」は、マクロファージが酸化LDLを取り込むのを抑え、アテロームができるのを防ぎます。
アディポネクチンは、これらの働きによって、血管内のあちこちで起こる動脈硬化の火種を”ぼや”の段階でどんどん消し、 大火になるのを防いでくれます。ですから、血管内の”消防隊”といわれています。
●アディポネクチンの働きⅡ「インスリンを活性化させる」
「アディポネクチン」には、血糖をコントロールする働きもあります。
血液中の糖は、身体中の筋肉などに取り込まれて、エネルギー源として利用されます。
余った糖は、脂肪細胞に蓄えられます。糖が、筋肉や脂肪細胞に取り込まれるときに
働くのが、「インスリン」というホルモンです。インスリンが活発に働いていれば、
糖がどんどん筋肉や脂肪細胞に取り込まれるので、血液中の糖は減ります。
ところが、悪玉の生理活性物質である「TNF-α」は、このインスリンの働きを低下させ、
「インスリン抵抗性」を生じさせます。そのため、糖が取り込まれにくく、なかなか
血糖が下がらなくなります。この悪玉であるTNF-αの働きを阻止し、
インスリンの働きをよくしてくれる強い味方が、善玉のアディポネクチンなのです。
さらに、アディポネクチンは、血管壁を柔軟にして、血管が広がりやすくすることで、血圧を下げることもわかってきています。
血糖や血圧が高いと、動脈硬化が促進されてしまいます。
アディポネクチンは、動脈硬化の進行を直接防ぐだけではなく、動脈硬化の危険因子を減らすことで、
間接的にも動脈硬化を防いでいます。
●内臓脂肪が増えるとアディポネクチンは減る
「アディポネクチン」が、いくら動脈硬化を防ぐ「善玉の生理活性物質」 であるといっても、「悪玉の生理活性物質」がそれ以上に強力であれば、負けてしまいます。 アディポネクチンがどの程度の力を持っているかは、人それぞれの体質もありますが、 一般には、「肥満」と深く関わっています。
- ▼皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満
- 肥満には、皮膚の下の脂肪が多い「皮下脂肪型肥満」 と内臓の周りに脂肪が多い「内臓脂肪型肥満」があります。 以前から、皮下脂肪型肥満が病気とはあまり関係がないのに対し、 内臓脂肪型肥満は病気と深い相関関係があることが指摘されていました。 同じ体重、同じ身長でも、腹部が太っている人は、血糖や血圧、血中脂質の値が高く、 脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患になりやすいのです。 そして、皮下脂肪と内臓脂肪ではどのような違いがあるのかを調べていくうちに 発見されたのが「アディポネクチン」です。
- ▼内臓脂肪が増えると悪玉が増える
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血液中の生理活性物質を調べてみると、内臓脂肪型肥満の人では、
TNF-αなどの悪玉が増えていることがわかっています。
一方、善玉であるアディポネクチンは、少なくなっています。
悪玉が増えて、善玉が減るのですから、動脈硬化は進む一方です。
内臓脂肪が増えるのなら、そこから分泌されるアディポネクチンも増えそうなもの ですが、実際には逆に減っています。この理由はまだわかっていませんが、 増えた悪玉が脂肪細胞に働きかけて、アディポネクチンの分泌を減らしている のではないかといわれています。
また、皮下脂肪型肥満の人では、こうした生理活性物質の量や比率の大きな変化は ありません。その理由はまだ明確ではありませんが、脂肪のある位置に関係する のではないかと考えられています。 皮下脂肪から分泌された生理活性物質は、静脈を通って心臓へと向かいます。 内臓脂肪から分泌されたものは、一度肝臓に入ってから、静脈、心臓へと流れます。 肝臓は栄養素の代謝や血液循環の調節などをしている体内の巨大な「化学工場」 ですから、このことが悪玉の増加、善玉の減少に関わっていると考えられます。 - ▼メタボリックシンドロームとの関係
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最近、内臓脂肪がたまりすぎているために、血中脂質、血圧、血糖の値が少し高い
という状態をあわせもった「メタボリックシンドローム」という病態が注目されています。
メタボリックシンドロームは、動脈硬化が飛躍的に進行しやすく、
脳梗塞や心筋梗塞などをおこしやすい、非常に危険な状態です。
内臓脂肪型肥満の場合に、高血圧などの動脈硬化の危険因子が集まりやすくなるのは、 血栓を作りやすくする「PAI - 1」の分泌が増える一方で、 動脈硬化を抑える「アディポネクチン」の分泌が減るため、 直接的に動脈硬化の危険性が高まるからです。 また、内臓脂肪がたまると生理活性物質の分泌に異常が起こり、これが高血圧や 高血糖、高脂血症の原因となり、間接的にも動脈硬化の危険性が高まります。
●アディポネクチンを増やすには・・・
血液中のアディポネクチンの濃度は、通常、5~10μg程度です。
これが4μg/ml以下に減ると、狭心症や心筋梗塞などの病気にかかりやすくなるといわれています。
一般的にいえば、アディポネクチンの濃度は男性が低く、女性が高くなっています。
ただし女性でも、閉経後は低下してくるので注意が必要です。
では、アディポネクチンを増やし、命に関わる病気から身を守るためにはどうしたらよいのか?
- ▼内臓脂肪”減”でアディポネクチン”増”
- 善玉の生理活性物質が少なく、悪玉が多い状態は、内臓脂肪がたまっていることが 原因で起きています。したがって、内臓脂肪を減らすことが肝心です。 内臓脂肪が減れば、悪玉の生理活性物質は減って、善玉のアディポネクチン が増えてきます。
- ▼食事と運動で内臓脂肪を減らそう!!
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内臓脂肪を減らすポイントは、食事と運動です。食事は、甘いものや脂肪分を減らして
野菜やきのこ類などを多くしたり、総摂取エネルギー量を減らしましょう。
栄養をバランスよく摂り、規則正しい食生活に改善することが大事です。
ウォーキングなどの適度な運動は、内臓脂肪を減らすのに役立ちます。 運動する時間を作るのが難しい場合は、日常生活で身体動かすことを心がけましょう。 通勤時に1駅分歩いたり、エレベーターではなく階段を利用すると、 ちょっとした運動でも効果があります。
内臓脂肪量の変化は、おへその高さの腹囲に反映されます。 毎日体重を測定したり、腹囲を測るようにするとよい励みになります。