心不全の治療

心不全は、 進行の程度によってステージA~Dの4段階に分けられます(⇒参照)。 ステージAとBは、心不全の予備軍に当たる段階で、心不全の発症を予防する治療が行われます。 一方、ステージCに進むと、呼吸困難などの症状が現れ、心不全と診断されます。 今のところ心不全を根本的に治す治療法はなく、ステージCやDに進んだ場合は、”さらなる進行を防いで命を守る”ことを目的に治療に取り組みます。 心不全の治療の目的は、進行を防いで命を守ることです。進行を防ぐための様々な治療法をご紹介します。


■ステージCからは心不全の治療が必要

ステージCとDの治療には、ステージAとBでも取り組む生活習慣の改善のほかに、薬物治療、手術、緩和ケアなどがあります。 ステージCでは、生活習慣の改善と薬物療法が治療の基本です。必要に応じて手術も行われます。 ステージCの段階から緩和ケアが行われることもあります。 ステージDに進行した場合は、それまで使っていた薬の種類を見直したり、補助人工心臓や心臓移植などの手術、緩和ケアなどが行われます。 心不全が進行しても、できる治療はあります。それによって心臓の収縮機能を高めたり、負担を減らし、弱った心臓を少しでも良い状態に戻して、 維持することが可能です。ステージCやDに至っても、決して治療をあきらめないことが大切です。


■心不全の薬物療法

心不全の薬物療法では、主に、心臓を保護する薬、むくみなどの症状を抑える薬が使われます。 心臓を保護する薬には3つのタイプがあり、むくみなどの症状を抑える薬としては尿量を増やす薬が用いられています(下図参照)。 また、従来の薬とは異なる仕組みで心不全を改善する薬の、実用化に向けた取り組みも進んでいます。 薬物療法によって、心不全が悪化して入院したり死亡するリスクが低下することがわかっています。 すぐに効果を実感できなくても、命を守るための治療だと理解して、根気よく取り組むことが大切です。

▼実用化が期待される薬
心不全の新しい薬として代表的なものにイバブラジンやARNI(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬)があります。 イバブラジンは、心臓の収縮や血圧に影響を及ぼさずに心拍数を減らして、心臓の負担を軽くします。 ARNIは、尿量を増やす作用と血管を広げる作用によって心臓の負担を軽くします。

心不全の主な薬


■心不全の手術

心不全が進むと、生活習慣の改善と薬物療法だけでは、進行を抑えるのが難しくなります。 その場合は、次のような医療機器を体内に埋め込む手術や、心臓移植が行われます。

▼CRT(心臓再同期法)
心臓の中にある左右の心室は、通常は同時に収縮します。この心室全体の収縮のタイミングがずれると、心臓は血液をうまく送り出せなくなります。 CRTは、心臓に電気刺激を与え、心室が収縮するタイミングのずれを調整して、心臓のポンプとしての働きを助ける治療法です。

▼ICD(植込み型除細動器
ICDは、命に関わる不整脈が起こったときに、 心臓に自動的に電気ショックを与えて、拍動のリズムを正常化する機器です。 電気刺激により、拍動を補う働きも持っています。心臓の働きを常時監視し、命に関わる不整脈の発生時には、 速やかに作動し、心臓の動きを正常な状態に戻します。

▼補助人工心臓
補助人工心臓は、重症の心不全に陥った心臓を助けて、血液を全身に送り出すポンプの働きをします。 本体を体の外に置く「体外設置型」と体内に埋め込む「植込み型」があります。

▼心臓移植
CRT、ICDなどによる治療を行っても命を守るのが困難になった場合は、補助人工心臓以外に、心臓移植も検討されます。

■心不全の運動療法

従来は、心不全に陥ったら安静にするのがよいと考えられていました。 しかし、体を動かさないでいると、運動能力が低下して日常生活での動作にも支障が生じ、心不全の症状が悪化しやすいことがわかってきました。 現在は、”弱った心臓のリハビリテーション”として適度な運動をすることが勧められています(運動療法)。 運動療法を行うことで、運動能力が向上して心不全の症状が軽くなり、楽に動けるようになる、生活の質が改善するなどの効果が期待できます。 また、心不全の悪化による入院や死亡リスクの低下などの効果があることもわかっています。