心不全の予防

心不全には4つのステージがあります。 早いステージのうちから対策に取り組めば、心不全は予防できます。


■心不全の進行は4つの「ステージ」に分けられる

心不全は、最終的には命に関わりうる病気ですが、そこに至るまでには長い経過があります。 「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」では、心不全の進行が、A~Dの4つのステージに分けられています。

▼ステージA
心不全の発症の危険因子がある段階

▼ステージB
心臓の働きに異常が現れてきた段階

▼ステージC
心不全の症状が現れてきた段階

▼ステージD
治療が難しいほど心不全が悪化した段階

ステージAやBでは、自覚症状のないまま心臓の機能がゆっくり低下していきます。 そして、ある日急に、呼吸困難などの強い症状が現れます。ここからがステージCです。 その後、悪化と回復を繰り返しながら、徐々に心臓の働きが低下し、ステージDへと進行していきます(下図参照)。 厳密には、症状が現れるステージCからが本格的な心不全で、AとBは心不全の予備軍ともいえる段階です。

心不全の4つのステージ


■ステージA・Bなら心不全を予防できる

ステージAでは、 高血圧糖尿病脂質異常症 など心不全の危険因子となる病気の治療を行います。 高血圧や糖尿病がある人は、気付かないうちにステージBに進んでいる可能性があります。 油断しないようにしましょう。心臓の検査を受けることを勧められる場合もあります。 ステージBでは、 不整脈心筋梗塞 心臓弁膜症、心筋症などの心臓病を治療して心不全の発症を抑えます。 特に、心不全の最大の原因である心筋梗塞が起こったことがある場合は、自覚症状(下図参照)に注意し、定期的に心臓の検査を受けましょう。


●生活習慣の改善

減塩、肥満解消禁煙、 節酒、適度な運動ストレス軽減 などに取り組みます。ポイントは食事と運動です。食事ではまず減塩に取り組みます。 塩分を摂り過ぎると、血液の量が増え、心臓にかかる負担が大きくなります。 また、肥満解消のために、食べ過ぎに気を付けましょう。 運動には、心臓の働きを改善する効果が期待できます。 ウォーキングなどの有酸素運動が勧められます。


■自覚症状をチェックして、心不全のの発症に早く気付く

ステージCへと進行して心不全を発症したとしても、早く症状に気付くことが重要です。 自分でわかる代表的な症状が息切れやむくみです。体重増加、食欲不振、腹部膨満感、疲れやすい、手足が冷たい、低血圧なども自分で気付くことができます。 これらの自覚症状があれば、早目に医療機関を受診し、検査を受けましょう。


■心不全を見つけるための検査

心電図、胸部エックス線、心エコー(心臓超音波検査)などの検査や、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)を調べる血液検査が行われます。 まず心電図検査と胸部エックス線検査で心臓に異常がないかどうかを調べ、そのあとで心エコー検査を行ったり、 BMPの値を調べ、心不全かどうかを確認します。 心拡大、肺のうっ血や肺を囲む膜の間に溜まった「胸水」などは、胸部エックス線検査でわかります。 なかでも心エコーは最も重要な検査です。心不全の診断のほか、重症度や治療効果を見ることができ、心不全の原因となっている病気の診断もつけられます。 BNPとは、心室から分泌されるホルモンです。心臓に長時間負担がかかると分泌されるため、血中濃度から、心臓への負荷の程度がわかります。 問診で心不全をチェックする方法もあります。「横になっていると楽ですか?」「着替えが一人でできますか?」 「健康な人と同じ速度で2階まで上がっても大丈夫ですか?」「雑巾がけはできますか?」などの、 日常生活での身体活動に関する質問に対して、患者さんは「はい」「つらい」などで答えていきます。 その答えから、心臓や肺の働きの程度を推測することができるのです。


【「拡張不全」タイプの心不全が増えている】
かつては心不全の中心は、心臓が十分に収縮しない「収縮不全」タイプでした。 しかし最近、心臓が十分に拡張しない「拡張不全」タイプの心不全が増えています。 正常な心臓は血液が入ってくると風船のように膨らみますが、拡張不全の心臓は心臓の筋肉が硬くなり、十分に拡張できなかったり、 拡張に時間がかかったりします。そのために、心臓が血液を十分に取り込めなくなるのです。 収縮不全タイプは心筋梗塞を発症した人に多く起こりますが、拡張不全タイプは心筋梗塞を発症したことがない人や、 発症しても軽度だった人に多いため、心筋梗塞が起こったことがなくても油断はできません。 拡張不全タイプの心不全は、特に高齢者、女性、高血圧や糖尿病、心房細動のある人に多いと考えられています。