心不全の緩和ケア

心不全の治療における緩和ケアの必要性がガイドラインに明記され、近年、注目されています。


■心不全の緩和ケアは治療とともに始める

緩和ケアは、癌に対して行われるものとしてよく知られていますが、最近は、心不全のような循環器の病気など、 生命を脅かすあらゆる病気に対して行われるようになっています。 ”緩和ケアは終末期に対して行われるもの”というのは誤解です。 患者さんと家族の生活の質を改善させることを目的に、治療と並行して行われます。 心不全が進むと、呼吸困難、むくみ、全身の倦怠感、痛み、さらには食欲不振、便秘など、さまざまな症状が現れます。 これらの症状が、患者さんの生活の質を低下させます。 特に多くの患者さんに見られる症状が「呼吸困難」です。全身の倦怠感や不安感などとも関連して起こるため、 心不全の治療だけで改善するのは難しい症状でもあります。 身体的な苦痛以外にも、病気に対する不安や恐怖、家族のことや将来への心配に伴う心理的な苦痛もあります。 こうした悩みから、抑うつ症状が現れることもあります。 抑うつ症状があると生活の質が低下するだけでなく、心不全の予後に悪影響を及ぼすことがわかっています。 心不全の緩和ケアでは、こうした様々な苦痛に治療の初期から対処して、患者さんと家族の生活の質を改善していきます。


■「チーム医療」で患者さんと家族を支える

心不全が悪化するにつれて様々な問題が現れます。そのため、心不全の治療や緩和ケアには、医師や看護師だけでなく、薬剤師、臨床心理士、 理学療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士などさまざまな分野の医療スタッフが関わります。 例えば、悪心や嘔吐などの症状に対しては医師が薬物療法を行い、食欲不振に対しては管理栄養士が適切な食事の摂り方のサポートをし、 抑うつ症状に対しては臨床心理士などが関わって問題を解決していきます。 心不全の治療では、こうした様々な分野の医療スタッフが連携・協働して治療やケアに当たるチーム医療が大変重要です。 それぞれの分野の医療スタッフが、専門性を発揮しながら連携して取り組むことで、適切な治療や緩和ケアを提供できます。 各分野の専門家がチームにいるので患者さんや家族は、不安やわからないことがあれば気軽に相談できます。 治療でわからないことは医師に、リハビリのことは理学療法士に聞きます。 薬に関する疑問については薬剤師に、食事について知りたい場合は管理栄養士に相談できます。 また、日本心不全学会が公開している心不全手帳を活用すれば、普段の生活で、どんなことに気を付ければよいかがわかります。 心不全手帳には、医療スタッフが書き込む連携のためのページもあります。 記載されたコメントを読んで医療スタッフ同士で情報を共有し、より良い緩和ケアに繋げていきます。


■治療方針は事前に共有しておくことが大切

心不全の多くは、長期にわたって悪化と回復を繰り返しながら少しずつ進行していきます。 その一方で、心不全が急激に進行したために、治療や緩和ケアのことなどについて、患者さんが自分で判断したり、伝えたりできなくなる場合があります。 もしもの時に備えて、患者さんや家族、医療スタッフらが事前に話し合い、治療方針についての患者さんの考えを全員で共有しておくことが大切です。 このような準備をするのが「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」です。 アドバンス・ケア・プランニングでは、患者さんの価値観や考え方、希望する治療や緩和ケア、受けたくない治療や緩和ケアなどについてよく話し合います。 病状や予測される進行、治療法とそのメリット・デメリットなどについては医師に確認しておきましょう。 患者さんが意思を伝えられなくなったときに、変わって伝える人も話し合って選んでおきます。何人いても構いません。 チーム医療なので、話し合った内容は医療スタッフ全員で共有し、誰でも対応できるようにしておきます。 どんなときにも自分の希望に沿った治療や緩和ケアを受けるため、心不全と診断された段階で早めにアドバンス・ケア・プランニングに取り組むことをお勧めします。