COPDの治療
薬やリハビリなどで息苦しさを抑える
いったん『COPD(慢性閉塞性肺疾患)』を起こすと、壊れた肺胞は元に戻りません。 治療の目的は、COPDの進行を遅らせたり、症状を軽くしたりすることで、軽症から重症までの進行度に応じて、さまざまな治療が行われます。 「禁煙」と「インフルエンザワクチンの接種」は、 病気の程度にかかわらず、すべての患者さんが行います。さらに、病状に応じて「呼吸器リハビリテーション」を行います。 「薬」は、症状が重くなるにつれて増やしていきます。重症化した場合には「酸素療法」も行います。 COPDは、そのままにしておくと、呼吸困難から筋力が低下して、寝たきりになることもあります。 COPDは今のところ完治させるのは難しい病気ですが、「薬物療法」や「呼吸法」 「運動・食事などの生活習慣の改善」によって、症状を和らげ、悪化を防ぐことが可能です。 日常生活の行動能力を高め、生活の質を落とさないために、積極的に治療に取り込みましょう。
■COPDの治療の進め方
治療の目的は生活の質を落とさないこと
「40歳以上で喫煙歴がある」「咳や痰が毎日続く」「同年代の人に比べて息切れしやすい」 「粉塵を吸い込む環境で働いていた」など、COPDが疑われる場合は、まずかかりつけ医に相談しましょう。 かかりつけ医から専門的な医療機関の紹介を受けて、そこで診断が確定したら、治療を開始します。 治療は、専門医から情報を得て、かかりつけ医の指導のもとで行うのが一般的で、治療の内容は以下の通りです。
- ▼COPDの理解
- この病気はどうして起こるのか、どういう経過をたどるのか、また、どういう治療法があるのかなどを、 患者が正確に知ることが治療の第一歩となります。
- ▼禁煙
- COPDの原因となるタバコをやめることは、最も重要な治療といえます。 COPDの患者の約95%は喫煙歴がある人です。このことから、気管支や肺胞に炎症が起こる最も明らかな要因として、 タバコが挙げられています。タバコを吸い続けると肺の機能は低下し続け、 やめれば、その時点から喫煙による機能の低下は止まり、年齢相応の緩やかな低下に近くなります。 治療のためには、まず禁煙することが必要です。節煙では効果はありません。 少しよくなったからといってまた喫煙すると、症状が悪化するので、”完全禁煙”を続けます。 「今更遅い」などと思わずに、気付いた時点で、タバコをやめることが大切です。
- ▼インフルエンザワクチンの接種
- COPDの患者さんは、増悪を起こしやすく、しかも、増悪は1回起こすと繰り返しやすいので、生命にかかわる危険が生じます。 そのため、風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染症にかからないように注意が必要です。 「インフルエンザワクチン」と、肺炎の原因になることが多い肺炎球菌に対する「肺炎球菌ワクチン」 の両方を接種することが勧められます。
- ▼呼吸リハビリテーション
- COPDの患者さんは、息切れを避けようとして活動量が低下し、生活の質が下がる傾向があります。 そこで、医師や理学療法士の指導を受け、呼吸リハビリテーションを行います。中心になるのは「運動療法」です。 持久力を上げるには「ウォーキング」、筋力を上げるためには「筋力トレーニング」が有効です。 筋力がつくと、少ない酸素量で体を動かす能力が高まり、体を楽に動かせるようになります。 ただし、脈が速くならないように注意する必要があるので、自己判断では行わず、 医師や理学療法士と相談しながら行うことが大切です。 また、ふだんの生活でできるだけ息切れを起こさないための呼吸の仕方や、息苦しくなったときの呼吸の整え方を 習得する「呼吸トレーニング」もあります。その一つが、「口すぼめ呼吸」です。
- ▼薬
- 主に、気管支を拡張する「気管支拡張薬」が使われます。 吸入するタイプが多く、短時間作用型と長時間作用型があります。 例えば、軽症では、短時間作用型を必要な時に使い、中等症以上では、長時間作用型を定期的に使います。 重症になると、増悪を抑制するために「吸入ステロイド薬」を併用します。 これらを症状や重症度に合わせて使い分けます。最近は、長時間作用型の気管支拡張薬と吸入ステロイド薬の「合剤」も使われています。
- 【関連項目】:『COPDの薬物療法』
- ▼酸素療法
- 重症になると、肺から空気中の酸素を十分に取り込めないので、機械を使って高濃度の酸素を供給し、呼吸を補助します。 自宅に「酸素濃縮器」を据え置き、鼻からチューブで酸素を送り込みます。 最近では、カートで持ち運ぶほか、肩にかけたり、背負ったりして携帯できるタイプがあるので重症の患者さんでも 外出できるようになりました。
■日常生活の工夫
息が苦しくなるような動作を行うときは、できるだけ負担の少ない姿勢をとりましょう。 例えば、「物を持ち上げるとき」「入浴時」「歩くとき」などには、前かがみにならないことが大切です。 また、こういった動作を行うときには、口すぼめ呼吸や横隔膜呼吸で呼吸するようにしましょう。 ポイントは、「動作は息を吐きながら行う」「リズムをつけて行う」ことです。 このような工夫によって、日常生活のなかでの息苦しさはある程度回避できます。 ただし、方法が正しいかどうかを、意思や看護師、理学療法士などに確認しながら行うことが大切です。
- 【荷物を持つとき・物を持ち上げるとき】
- ▼荷物は手に持たず、リュックサックを背負って両手を上げたほうが呼吸が楽になる。
- ▼物を持ち上げるときには、上半身をかがめると苦しくなるので、上体を起こしたまま、 息を吸いながらひざを曲げ、息を吐きながら持ち上げる。
- ▼物は手を延ばした先に持たないで、体に引き付けて持つ。
- ▼トイレは、和式よりも洋式のほうが呼吸が楽。また、便秘になると、お腹にガスがたまって 横隔膜を下から押し上げ、呼吸が苦しくなるので、食生活や運動で便秘にならないようにする。
- 【入浴時】
- ▼お風呂では胸まで湯につかると苦しくなるので、へその辺りまで浸かる半身浴がお勧め。
- ▼湯船の中に椅子を置くと胸までつからず、湯船の出入りのときも楽。
- ▼洗髪は前かがみで行わず、シャワーを使用する。
- ▼入浴中は血行が増え、酸素の消費量も多くなるので、口すぼめ呼吸や横隔膜呼吸をするとよい。