COPD(慢性閉塞性肺疾患)の薬物療法①

■COPDの治療薬

作用の違いを知り、症状にあわせて使い分ける

COPDの治療薬は、空気の通り道を広げる目的で使われます。 薬には作用時間の短いタイプや長いタイプ、重症の患者に向くものなどがあります。 それぞれの薬の作用や効用について医師から説明を受け、正しく使うことが大切です。 COPDの治療の中心になるのが気管支拡張薬です。 狭くなっている気管支の内腔を広げて、空気の通りをよくする作用があります。 主に吸入薬が用いられ、作用時間が約6時間の「短時間作用型」と、 約12時間(1日2回吸入)あるいは約24時間(1日1回吸入)の「長時間作用型」に大きく分けられます。 それぞれの薬の特徴は以下の通りです。


▼短時間作用型抗コリン薬(SAMA)、短時間作用型β2刺激薬(SABA)
気管支を拡張する作用は抗コリン薬のほうが強力ですが、β2刺激薬の方が効果が速やかに現れます。 ただ、どちらも効果は長く続かないので、病状が一過性の人以外は、長時間作用型の薬を基本に、 息切れが強く起こるようなときに短時間作用型を追加する形で使います。 気管支の太い部分を拡張させる働きがあります。

▼長時間作用型抗コリン薬(LAMA)
24時間型のチオトロピウムはCOPDの治療に最も広く使われている薬です。2012年11月にグリコピロニウムという 新しい薬が登場して選択肢が増えましたが、発売後1年間は、1度に2週間分しか処方できません。 気管支の太い部分を拡張させる働きがあります。

▼長時間作用型β2刺激薬(LABA)
従来、12時間型のサルメテロールが使われてきましたが、2011年からインダカテロールという24時間型の薬が使えるようになり、 12年に登場したホルモテロールは12時間型ながら即効性もあるのが特徴です。 日本では貼り薬のツロプテロールもよく使われますが、作用の点ではやはり吸入薬には及びません。 気管支の細い部分を拡張させる働きがあります。

▼テオフィリン徐放薬
気管支を拡張させる、夜間、夜明けの咳き込みなどの発作予防などの働きがあります。 作用が長く続く徐放薬が内服で使われ、夜間の咳の発作を防ぐのに有用です。 通常、LAMAやLABAと併用します。

▼その他の薬
吸入ステロイド薬には気道のむくみを軽減して呼吸を楽にする効果があり、COPDの薬としてはβ2刺激薬との配合剤が あります。そのほか、痰が多いときに喀痰調整薬を使ったり、感染を伴う増悪などに抗菌薬を使うこともあります。

軽症の場合は、必要に応じて作用時間の短い(2~3時間)β2刺激薬と抗コリン薬のいずれかあるいは両方を使い、 中等症以上になったら、短時間作用のβ2刺激薬に、長時間作用するβ2刺激薬抗コリン薬を併用します。 息切れがひどく、入退院を繰り返すような場合には、さらに吸入ステロイド薬の追加を考慮します。 改善が見られず、苦しさが続くときには必要に応じてテオフィリン薬を追加します。

◆改善の目安

COPDの経過の予測は、以下の項目を指標に判断されます。 全てがバランスよく改善するように治療を進めます。

  • 標準体重の維持
  • 気道の閉塞度(肺機能)
  • 息切れの度合い
  • 歩くことができる距離

●気管支拡張薬の効果は?使えばCOPDが治る?

▼気管支拡張薬には、どの程度の効果が期待できるか?
気管支拡張薬を使えば、呼吸が楽になって、息苦しさのために体を動かすことがつらかった人も、楽に動けるようになります。 ただし、COPDの薬は、残念ながら、どれも病気を根本から治すというものではありません。 息切れなどの症状を改善し、増悪が起こらないように治療を続けていくことになります。

▼息苦しくなければ、気管支拡張薬は不要?
COPDは何十年もかかって進行する病気なので、患者さんは”体を動かすと苦しくなる”状態に慣れてしまって 息苦しくないよう、あまり動かずに生活しがちです。しかし、安静はCOPDという病気を悪化させます。 必要な人は薬を使って、体を動かしても苦しくならないようにし、運動量を上げることが大切なのです。 自覚的な息切れの感覚だけを目安に治療するのは危険です。

●どうなったら薬を使わなければならない?

▼COPDとわかったら、薬を毎日使うのか?
症状が一過性であれば、喫煙者なら禁煙し、運動を十分に行えば、必要な時に短時間作用型の気管支拡張薬を使う程度で よいでしょう。しかし、症状が持続していたり、息切れがして動けなくなってきたときは、やはり長時間作用型の 気管支拡張薬を継続して使うべきでしょう。COPDの薬物療法では、症状に応じて薬が使い分けられます。

▼症状がない場合は?
呼吸機能検査でCOPDに該当しても、筋力トレーニングなどの運動が息切れせずにできるなら、薬は不要です。 ただ、COPDと言われた人は、半年に1回くらいは検査を受けて、呼吸機能が低下していないか、合併症(併存症)が 出ていないかをチェックすることをお勧めします。

●COPDの薬にはどんな副作用があるのか?

抗コリン薬では口の渇きが代表的で、LAMAは前立腺肥大症の人が使うと尿の出が悪くなることがあります。 β2刺激薬では動悸や頻脈が起こることがあり、LABAでは脚や手がつるという人もいます。 テオフィリン徐放薬はムカムカしたり、胃食道逆流症が起こりやすくなったりします。 吸入ステロイド薬では声枯れが起こることがあります。副作用がない薬はないので、薬で得られる効果に対して、 副作用が許容範囲かどうかを検討することになります。

▼副作用が出たら使えなくなる?
例えば、前立腺肥大症があってもLAMAを使った方がよいと考えられる場合には、副作用を抑えるための前立腺肥大症の薬を 併用しながらLAMAを使うということもよくあります。危険な不整脈が生じたり、脚がつって激痛が起きたりすれば、 薬の使用をやめざるを得ませんが、許容範囲であれば、効果が期待できる薬を使える方法を探ります。

●どうして何種類も吸入薬を使わなくてはならない?

一つの薬を多量に使うと副作用が出やすいので、分散するという意味合いもあります。 また、同じ気管支拡張薬でも、抗コリン薬とβ2刺激薬では、狭くなった気道に働きかける作用がそれぞれ異なっていて、 併せて用いることで相乗効果が期待できるからです。

▼吸入ステロイド薬はどうなると必要?
一般には、気管支拡張薬を各種組み合わせて使っても症状が持続していたり、増悪を繰り返す場合です。 最近の研究では、COPDの中にもさまざまなタイプがあることがわかってきて、気管支喘息とかかわりがあるタイプの場合には、 より早期から使った方がよいのではないかと考えられています。気管支喘息の既往のある人やアレルギー体質がある、 風邪をひくとのどがヒューヒューなるという人は医師に伝えたほうがいいでしょう。