脳卒中後の回復期のリハビリテーション

以前は、脳卒中後の週末などの休日には、リハビリテーションも休むのが一般的でしたが、 最近では、休みなく毎日行うことが勧められています。 退院後に自分で身の回りのことができるように、訓練を続けましょう。


■回復期のリハビリテーションとは?

休日なしで効果を引き出す

全身状態が安定している回復期には、自立して生活できる能力を身に付ける事を目標に、 リハビリテーションが集中的に行われます。また、『回復期リハビリテーション』は、 一般に、リハビリテーション専門の医療機関などに入院して行われます。 現在、健康保険が適用される期間は発症から180日ですが、医師がさらなる必要性を認めると、期間が延長されます。
また、リハビリテーションは、休みなく、高密度・高強度に行ったほうが大きな効果が得られることがわかってきました。 訓練日数が週5日の場合と週7日の場合を比較すると、週7日のほうが退院時の日常生活能力が高く、 6ヶ月経過後もより高く維持されていました。

◆訓練を病棟での生活にも活かす

患者は入院中、多くの時間を病棟で過ごします。 訓練室で身に付けた能力を、毎日の病棟生活の中で活かすことが重要です。 例えば、着替えの訓練を行ったら、病棟で着替えるときに、できるだけ自分で行います。 手を使ったり歩いたり、就寝時間以外は積極的に体を動かすことが、高密度・高強度のリハビリテーションにつながります。

◆スタッフ全員で情報を共有する

回復期には、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーなど、 患者にかかわるスタッフが定期的にミーティングを行います。 ミーティングでは、患者にかかわるさまざまな事柄について話し合い、全てのスタッフが情報を共有するようにします。 情報が共有されることで、「リハビリテーションの内容や進め方を修正する」などがスムーズに行われるようになり、 より効率のよいリハビリテーションが可能となります。

◆目標を1つづつ達成していく

思うように訓練が進まずにイライラしたり、将来に不安を感じたりして、積極的に訓練に取り組めないこともあります。 そんなときは、自分の今の気持ちを家族やスタッフに話しましょう。人に話すことで、気持ちの整理がつき、 前向きな気持ちになることもあります。そして例えば、「トイレまで歩く」「食事の最終時間の5分間は自分で食べる」など、 目標を設定して、1つづつ達成しながら、リハビリテーションに取り組むことが勧められます。


●回復期リハビリテーションの内容

手の小さな動きを繰り返したり、ペダルをこいで汗を流したりする

回復期リハビリテーションで行われる訓練は、主に「理学療法」「作業療法」「言語聴覚療法」に大別され、 それぞれ次のような内容が含まれます。

▼理学療法
主に歩行を中心とした、移動に関係する機能を高めます。歩行訓練や階段の上り下りなどのほか、 腹筋運動など筋力を強化する運動や、「エルゴメータ」などの訓練器具でペダルをこいで心肺機能を高める訓練、 体の柔軟性を高めるためのストレッチングなどが行われます。 よりスムーズに歩けるように、麻痺している側の腕を振ったり、腰をまわす訓練が行われることもあります。

▼作業療法
食事や着替え、入浴、家事など、日常生活でのさまざまな動作をうまく行えるように、 具体的な作業を行いながら体の機能を高めます。「小さなものをつかみ、離す」 「箸で細かいものをつまむ」などの動作を繰り返し行う手の訓練や、実際に衣服を脱いだり着たりする訓練など、 さまざまなものがあります。麻痺した側の手の機能が順調に回復して、十分に使えるようになることもありますし、 麻痺していない側の手の機能を高めて、麻痺のある側の手の代わりに使えるようにすることもあります。

▼言語聴覚療法
「失語症」や「嚥下障害」に対する訓練などです。「聞く、話す、読む、書く」など言葉に関する障害には、 さまざまなタイプがあり、症状の出方にも個人差があります。そのため最初に、言葉に関する機能の検査や評価を行い、 患者に合わせた方法で訓練が行われます。訓練によって、脳に新たなネットワークが作られ、 障害を受けた機能が回復することが期待できます。嚥下訓練は、急性期に引き続いて障害の状況を 十分に評価しながら、段階的に行われます。

◆「半側空間無視」のリハビリテーション

たとえば右の脳が障害されると、目は見えていても、視野の半分には注意が向かなくなり、 「左側に置いてある食事を残す」「本のページの左側を読み飛ばす」「左側の障害物をよけられない」 などの症状が起こることがあります。このような症状を「半側空間無視」といいます。 これに対するリハビリテーションは、主に回復期に行われます。たとえば、読む本のページの左側に赤く印をつけたり、 視界を左に傾ける「プリズム眼鏡」を使ったりして、注意が左に向くようにします。


●維持期のリハビリテーション

生活を楽しみながら体を動かし、機能低下を防ぐ

回復期リハビリテーションを終えて、自宅で生活するようになると、体を動かすことが少なくなり、 訓練で高めた機能が低下することがよくあります。自宅での生活においても、積極的に体を動かす習慣を 身に付けてください。体を動かすためには、通院や、通所、訪問サービスなどを利用するのもよい方法です。
また、例えば、旅行に出かけるなど、積極的に社会に参加して、生きがいのある生活を送ることも大切です。 これまでの生活で好きだったことを思い出し、再び生活を楽しめるように工夫しましょう。