脳梗塞の対処法③~心臓にも原因有り~
『脳梗塞』は、心臓の異常である「心房細動」が原因になることもあります。 気付きにくいうえに脳梗塞が重症化しやすい、重大なリスクです。
■心臓の病気による脳梗塞
心房細動が原因で心臓に血栓ができ、脳に運ばれて詰まる
脳梗塞には、動脈硬化によって起こるものと、心臓の病気が原因で起こるものがあります。 心臓の病気が原因で起こる脳梗塞を「心原性脳塞栓症」といい、その多くは「心房細動」 という不整脈の一種によって起こります。心房細動が起こると、心臓が細かく震えて脈が乱れ、心臓の中の血液がよどみます。 血液はよどむと固まりやすくなるため、心臓の中に血栓ができます。血栓の多くは心臓の左側の「左心房」にでき、 「左心室」から頸動脈を通って脳の血管に流れていきます。そして、脳の血管に詰り脳梗塞を引き起こします。 不整脈にはさまざまな種類がありますが、最も一般的な、脈が突然乱れる「期外収縮」は脳梗塞の原因にはなりません。 不整脈があるといわれたら、心房細動かどうかよく確認しておくことが大切です。
●3つの特徴
高齢化による増加傾向や、無症状による気付きにくさなど
心房細動による脳梗塞には、次の3つの特徴があります。
- ①増加傾向にある
- 心房細動の発症率は高齢になるほど高まり、65歳以上の10人に1人は心房細動があるといわれます。 日本では高齢化が急速に進んでおり、並行して心房細動も増えています。 また、脳梗塞で入院する患者さんの20~25%が心房細動を合併しており、脳梗塞の4~5人に1人は心房細動が原因と推測できます。 加齢のほか、 「高血圧」 「糖尿病」 「メタボリックシンドローム」 「慢性腎臓病」 「喫煙」なども、心房細動を起こす危険因子になるので注意が必要です。
- ②重症になりやすい
-
動脈硬化による脳梗塞では、
動脈硬化の進行に伴って血管の内部は徐々に狭くなっていくので、その間に血液を迂回させるバイパスとなる血管が作られます。
そのため、血管が詰まっても、当面はバイパスの血管を血液が流れるので、ある程度の血流は保たれます。
血栓も比較的小さいことがほとんどです。
一方、心房細動による脳梗塞の場合は、突然血栓が詰まるため、バイパスとなる血管が作られていません。 さらに、心臓にできる血栓はサイズが大きいことが多く、より太い血管に詰まります。 そのため、その先の組織への血流が完全に断たれて脳が広範囲に障害されてしまい、死亡率が高くなり、 寝たきりなどの重い後遺症を残すことも多くなります。 - ③見逃されやすい
-
心房細動は、心電図検査で発見されます。正常な人も心電図は、規則正しく脈を打っていますが、心房細動の人では
脈の感覚が不規則で、細かい波が現れるなどの特徴があります。心房細動には、「持続性心房細動」と
「発作性心房細動」の2種類があります。持続性心房細動の場合は、いつ心電図検査を行っても発見できます。
これに対し、発作性心房細動は短期間で治まるため、心電図検査を行っても見逃されることが多くなります。
しかし、両者の脳梗塞を起こすリスクに差はありません。
24時間連続で心電図を記録する「ホルター心電図」の使用で、発作性心房細動の発見率を高めるといわれますが、 それでも発見できない場合があります。心房細動に伴って、「不快感」「動悸」「めまい」などの症状が現れることもあります。 その間に心電図をとれば発見できる可能性がありますが、特に症状のない人も多く、そのことも見逃されやすい要因の一つ になっています。
●心臓の血栓を防ぐために
血液を固まりにくくする、抗凝固薬の服用を続ける
心房細動による脳梗塞を防ぐためには、心臓に血栓ができるのを予防することが必要です。
同じ血栓の予防でも、動脈硬化の場合は「抗血小板薬」が用いられますが、
心房細動には「抗凝固薬」という薬が用いられます。
抗凝固薬には、長く使われている「ワルファリン」以外に、「ダビガトラン」「リバーロキサバン」「アピキサバン」
といった、最近登場した新しい薬もあります。
ワルファリンには、脳梗塞の発症を1/3に減らす効果がありますが、毎回血液検査を受けて用量を調整したり、
一部の食品や他の薬が作用に影響するなどの使いにくさもあります。
例えば、納豆は食べられませんし、緑黄色野菜も制限する必要があります。
併用するとワルファリンの作用を強めたり、あるいは弱めたりする相互作用のある薬も数多くあります。
また、出血のリスクも高まるので、脳出血を起こす可能性もあります。
一方、新しい凝固薬は用量を調整する必要がなく、特別に制限なく食事を摂ることができます。
ごく一部の薬を除けば相互作用もなく、脳出血の危険性はワルファリンよりも低いのです。
新しい抗凝固薬は、ワルファリンに比べると利便性や安全性が高いといえますが、ワルファリンを使い慣れていて、
問題がなければ、あえて変える必要はないでしょう。また、新しい薬はワルファリンより薬価が高いという面もあります。
◆抗凝固薬が必要な人とは?
心房細動による脳梗塞の既往がない場合は、心房細動以外に「心不全」「高血圧」「75歳以上」「糖尿病」
のうち2つ以上あると、抗凝固薬は、1つでもあれば服用した方がよいといわれています。
一方、心房細動があり、脳梗塞やTIAを起こしたことがある場合は、必ず抗凝固薬を服用します。
心房細動の治療法には、不整脈を抑える薬の服用や、根治の可能性のある「カテーテルアブレーション」などがあります。
しかし、心房細動が絶対に再発しないという保証はないため、心房細動の治療後も、
抗凝固薬を服用し続けていくことが重要です。