脳梗塞の対処法②~進歩する治療法~

脳梗塞の治療は、この10年で大きく進歩しています。 特に、発症直後に「t-PA」という薬が使えれば、後遺症を軽減することができます。


■脳梗塞の治療

脳の血管に詰まった血栓を溶かす薬がある

脳梗塞を発症すると、脳の血流が途絶えるために脳が徐々に壊死していきます。脳が壊死するのを防ぐためには、 脳梗塞が発症したら、直ちに治療を開始することが重要です。特に、この10年ほどの間に「t-PA」 という薬が普及して、脳梗塞の治療に用いられるようになってきました。 t-PAには、脳の血管に詰まっている血栓を溶かす作用があります。t-PAは静脈に点滴する薬で、t-PAを投与することによって、 脳の血管を詰まらせている血栓が溶けて血管が再開通するので、その先の脳の組織に再び血液が流れていくようになります t-PAで脳の血流を再開することができれば、脳が壊死するのを防いだり、脳死の範囲を小さくとどめることができます。


●t-PA治療の条件

発症からの時間や、脳出血のリスクの有無が関わる

t-PAによる治療を受けるためには、いくつかの条件があります。

◆発症から4時間半以内であること

t-PAは、脳梗塞を発症してから4時間半以内に投与しないと効果が期待できません。入院直後には画像検査などを行うため、 少なくともそれに1時間かかるとすると、発症後3時間以内に専門の医療機関に入院する必要があります。 脳梗塞の発症後、脳は徐々に壊死していきます。4時間半以内にt-PAで血流を再開できれば、まだ壊死していない組織を救えますが、 4時間半を過ぎると困難になります。また、脳梗塞で詰まった血管は徐々にもろくなっていくため、時間を過ぎて投与すると、 血流再開時に脳出血を起こすリスクが高まります。以前は発症後3時間以内の投与とされていましたが、ヨーロッパの臨床試験で 有効性と安全性が確認されたことで、日本でも2012年9月から4時間半以内に延長されました。

◆脳出血のリスクがないこと

「過去に脳梗塞を起こしたことがある」「脳梗塞の範囲が広い」「大手術を受けたばかり」「出血しやすい」「血圧が非常に高い」 という場合は、脳出血の危険性が高く、t-PAを使用できません。出血しやすいとされているのは、「血小板が少ない」 「重篤な肝臓病がある」「ワルファリンを服用している」などの場合です。 実際にt-PAを用いることができる患者さんは、全体の10%に過ぎません。その最大の原因は時間に間に合わないことですが、 4時間半以内に伸びたことで、治療を受けられる患者さんが30%以上増えたとのデータもあります。 また、t-PA治療を受けた場合は、受けられなかった場合に比べて、後遺症を残さずに回復したり、 わずかな後遺症は残るものの自立できる患者さんが約30%増えたというデータもあります。


●その他の治療法

カテーテルを用いて、血栓を回収する方法もある

特に注目されているのが「血管内治療」です。脚の付け根の血管から脳の血管にカテーテルを埋め込み、 カテーテルの先端に取り付けた「デバイス」という装置で血栓を除去します。 血管内治療は、脳梗塞の発症から8時間以内に行うことができれば、効果が維持できるとされています。 例えば、t-PAでの血流再開がうまくいかなければ、直ちに血管内治療を試みることができます。 また、太い血管に詰まった血栓は、t-PAでは溶けにくいため血管内治療ほうが有効性は高いといわれています。 血管内治療を行うことのできる医療機関はまだ限られていますが、専門医が次第に増えており、今後が期待されている治療法です。


●再発を予防するために

危険因子をしっかり管理し、薬物療法を続けることが大切

脳梗塞は、治療後1年間に4~5%の人が再発するといわれ、5年間では4~5人に1人が再発するといわれています。 脳梗塞の危険因子を厳格に管理し、血栓ができるのを防ぐ薬を飲むことで再発を減らせます。 薬には「抗血小板薬」「抗凝固剤薬」があり、動脈硬化が原因の場合は抗血小板薬を使います。 抗血小板薬には、主に「アスピリン」「クロピドグレル」「シロスタゾール」の3種類があり、 それぞれ特徴が異なるので、担当医と相談してて適した薬を選びましょう。 これらに共通するのが出血しやすくなることで、最も深刻なのが脳出血です。予防のために、血圧をしっかり管理します。 また、服薬をやめると再発の危険性が高くなるので、飲み続けることが大切です。