脳卒中後の急性期のリハビリテーション

脳卒中を起こした場合、治療のために入院した医療機関で、リハビリテーションも並行して行われ、 早い場合には、発症した当日に「座る訓練」が、発症1週間後に「立つ訓練」が行われることもあります。


■急性期のリハビリテーションとは?

座位や立位をを保つことなどを目指す

『急性期リハビリテーション』では、人間の最も基本的な動作である「座る・立つ」ことや、 生きていくうえでの基本的な営みである「食事」「排泄」ができるようになることを目指します。 「座る・立つ」は、次の「回復期リハビリテーション」の土台となるものです。 通常、1~2週間程度の訓練で、長時間座っていられたり、立てるようになると、回復期リハビリテーションへ進みます。 また、「廃用症候群」の予防も、急性期リハビリテーションの大きな目的です。 廃用症候群とは、使わないことによって起こる機能低下の総称で、主に次のようなものがあげられます。

▼筋萎縮
筋肉が萎縮し、筋力が低下する。
▼骨萎縮(骨粗鬆症)
骨がもろく弱くなる。
▼関節拘縮
関節が固まって、動かしにくくなる。特に麻痺した側に強く現れる。
▼褥瘡
いわゆる”床ずれ”のことで、マットレスなどに接触している部位が長時間圧迫されることなどにより、 皮膚の組織に壊死が起こる。
▼知的能力低下
刺激が乏しい状態が続くと、知的能力や意欲が低下する。
▼心肺機能低下
心臓や肺の働きが低下し、疲れやすくなる。

●急性期のリハビリテーションの進め方

急性期のリハビリテーションは、安全かつ段階的に進めていく

脳卒中を発症した直後の急性期は、全身状態が不安定で、さまざまな合併症が起こりやすい時期です。 このような時期にリハビリテーションを行うことに不安を感じる人もいるかもしれません。 しかし、慣れたスタッフが状態をきちんとモニターしながら、リハビリテーションを安全かつ段階的に進めれば、 合併症の危険性が増すことは、ほとんどないことがわかっています。

急性期に安全にリハビリテーションを行うために、医師は、
「患者の脳卒中のタイプや程度、過去の病歴などを把握する」
「訓練の前には患者の意識レベルを確認する」
「訓練の最中も必要に応じて血圧や脈拍、血液中の酸素などの状態をモニターする」
ことなどを行います。また、脳卒中に詳しい専門的なスタッフが携わることも重要で、 最近は、「脳卒中ユニット」が注目されています。 これは、神経内科、脳神経外科、リハビリテーション科などの専門医や看護師、 リハビリテーションのスタッフである理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、 社会的な問題をサポートする医療ソーシャルワーカーなどが、専門のチームを組んで、 脳卒中患者の治療やリハビリテーションなどにあたるものです。

このような脳卒中ユニットによる医療には、
「患者の自立度が高まる」
「入院期間が短くなる」
「早期死亡率が低下する」
などの効果があることが、さまざまな調査で明らかになってきました。 脳卒中ユニットによる医療を行う医療機関は、現在のところまだそれほど多くはありませんが、徐々に増えつつあります。

◆障害の程度などを評価する

急性期リハビリテーションの期間中には、麻痺がある側の運動機能や、麻痺がない側の筋力、言語機能など、 さまざまな機能が適宜評価され、回復期リハビリテーションに進む際にも評価が行われます。 これらの評価をもとに、「将来どの程度手を使えるようになるか」「歩けるようになるか」など、 回復をある程度予測することが可能です。その予測から、回復期リハビリテーションの目標が設定されたり、プログラムが作られます。


●急性期リハビリテーションの内容

早い場合は、入院当日に座位訓練を行うこともある

急性期には、主に次のような内容のリハビリテーションが行われます。

▼関節可動域訓練
理学療法士や作業療法士などが、肩関節、肘、手首、股関節、膝、足首など患者の四肢を動かし、 関節が固まるのを防ぐ。特に、麻痺のある側の手足は自分で動かすことができず、固まりやすいので、 痛みに気をつけながら十分に動かす。最初は、医師が付き添い、血圧などをモニターしながら行い、 発症した当日から行う。

▼座位訓練
理学療法士の介助で体を起こして、ベッドの端に腰掛けるように座り、 最初は倒れたり、体が傾いたりしやすいので、理学療法士が支えて座位を保つ。 また、医師が付き添い、心電図などをモニターする。 意識がはっきりしていて、全身状態が安定している場合は、発症した当日から行われ、 少しボーっとしていたり血圧が不安定な場合は様子を見るが、多くの場合、数日から1週間以内には始められる。 早い時期から座ることで、筋萎縮を防ぐと同時に、上体を起こすことに慣れて、 立ちくらみが起こらないようにする。

▼嚥下訓練
まず、飲み込みの状態を調べる検査が行われる。 ベッドの背中部分を起こして上体を傾けるなど、飲み込みやすい姿勢で、 造影剤を含むとろみのついた模擬食品を食べてもらい、飲み込む様子をエックス線で撮影。 一口から始め、慣れてきたら量を増やしたり、性状の違う食品を食べたりして、 安全に飲み込める姿勢や食品の性状などを調べ、そのうえで、患者に適した方法や食品で、 飲み込む訓練が言語聴覚士によって行われる。 訓練を開始する時期は、障害の程度によって異なり、 食べ物などが器官に入って「誤嚥性肺炎」を起こす危険性が高い場合には、嚥下訓練は行われない。

▼立位訓練
麻痺が起きた側の足に装具を付け、体重をかけて、立位を保つ訓練を行う。 腕の重みで肩関節がずれる「亜脱臼」を起こさないように、腕にも装具をつけ、 理学療法士が、患者の腹部につけたベルトを持って体を支える。 最初のうちは、医師が付き添い、心電図などをモニターする早い場合には、発症後1週間から行う。。 早い時期から立つことによって、筋力を強化し、体のバランスをうまくとれるようにする。

●その他

▼排尿機能
脳卒中で膀胱の筋肉にも麻痺が起こると、膀胱が弛緩して、たまった尿を押し出すことができなくなります。 そのため、膀胱に「バルーンカテーテル」という管を留置し、管から体外に尿が出てくるようにします。 しかし、この状態を長く続けると、排尿の機能が低下するので、最近は、できるだけ早い時期に、 一定の時間ごとに管を入れ、導尿したら管を抜く「間欠的導尿」に切り替えることが勧められています。 これによって、膀胱が多量の尿で伸びた状態と、空になって縮んだ状態が繰り返され、 膀胱の筋肉が収縮する機能が戻ってきます。さらに、尿意を感じられるようになり、 座位訓練がある程度進んだら、「ポータブルトイレ」などで排尿する訓練が行われます。