心房細動

50歳以上になって不整脈が急に現れたら、「心房細動」の疑い大で、放置すれば脳梗塞などを効率で招きます。 心房細動は、脈が突然速くも遅くもなり、胸のドキドキや息苦しさ、食後の圧迫感などの重大サインが現れます。

■心房細動とは?

●電気信号の異常で、心房が興奮する

高齢化が急速に進む日本において、今激増しているタイプの不整脈があります。 その不整脈が起こると、最悪の場合は、脳の血管に血栓が詰まる脳梗塞を引き起こして命を落としたり、 重い後遺症に悩まされたりする危険が大きいのです。 ミスタープロ野球、長嶋茂雄さんの脳梗塞を引き起こしたともされている「心房細動」という不整脈について、 ここから詳しく述べていくことにしましょう。

心房細動は、心臓の拍動(心臓が周期的に収縮運動をすること。ポンプ作用とも呼ばれる) を担う電気信号に異常が現れることで発生します。その仕組みを解説しましょう。 私たちの心臓の内部は、右心房・右心室・左心房・左心室という4つの部屋に分かれています。 全身の細胞から、静脈によって二酸化炭素などを回収し、心臓に戻ってきた血液は、右心房から右心室へと運ばれ、肺に送られます。 そして、肺で酸素を取り込んだ血液は左心房に送られ、左心室から動脈によって全身の細胞へと送り出されます。 こうした心臓の働きに不可欠なのが、拍動です。 心臓の拍動を担っているのは、前に述べたように電気信号に他なりません。 右心房の上部にある洞結節という特殊な心筋の塊で電気信号が発生し、心房から心室へと伝わることによって、 心臓の拍動は規則正しいリズムを刻むのです。しかし、人によっては電気信号が、心房の中でぐるぐる回転したり、 心房以外の場所で発生したりすることがあります。このように、電気信号の異常で心房が興奮し、 拍動が不規則になる状態が、心房細動です。


●2日以上続いたら危険

先にも述べたように、心房細動が恐ろしいのは、脳梗塞を引き起こすことです。 心房細動が起こると、心房が不規則に細かく動くため、心臓は規則正しい収縮ができなくなります。 その結果、心房に溜まった血液がよどみ、心房の端にある「心耳」という袋状の部分で、特に血流が悪くなって、血栓ができます。 そして、その血栓が血流に乗って脳へ運ばれると、脳梗塞の一種である心原性脳塞栓症を引き起こすのです。 心房細動が原因の脳梗塞は、朝の起床時に起こりやすく、心房細動が2日以上続いた場合、 高い確率で心房に血栓ができやすくなることがわかっています。 実際に、心房細動の人は、健康な人に比べて脳梗塞を引き起こす危険度が約5倍も高いと言われています。 さらに、心房細動は、心不全を引き起こす危険も大きいのです。 心房細動が起こると、規則正しく心臓が拍動しているときに比べて、全身に送られる血液量が約20%減ります。 すると、心臓は必要以上に拍動しようとします。その結果、心臓は疲弊し、全身に送られる血液量がますます減ってしまうのです。 このように、全身に必要な血液量が送られなくなった状態を、心不全といいます。 心不全を招くと、息苦しくなったり、足にむくみが出たり、肺に水が溜まったり、ショック症状が起こったりして、 最悪の場合は死に至ります。問題は、心房細動が起こっても心臓の異常に気付かない人が多いこと。 そのため、無自覚のうちに脳梗塞や心不全を引き起こし、突然死を招くことになるのです。


●年齢が上がるほど多く、患者数は100万人

では、心房細動はなぜ起こるのでしょうか。主な原因としては、心房が速く収縮する心房粗動や心房頻拍、高血圧や心臓弁膜症 などが挙げられます。他にも、飲酒や急激な運動、過労、不眠、強すぎるストレスが心房細動の原因になる場合があります。 心房細動は、50代を境に起こりやすくなり、60代から目立って増え始めます。 報告では、60代で約3%、70代で約5%、80代で約10%と、年を取るにつれて心房細動の人が多くなっているのです。 中高年になって急に現れる不整脈の、代表ともいえるのではないでしょうか。 高齢者が心房細動を起こしやすいのは、老化によて心臓が弱くなったり、高血圧にかかる人が増えたりするからでしょう。 高齢化が急速に進むわが国では、現在、心房細動の患者数が約100万人と推計されており、心房細動の恐ろしさは決して 他人事ではないのです。

■心房細動のサイン

●安静時の胸痛や呼吸困難も重大サイン

不整脈の一種である心房細動は、心臓の心房に伝わる電気信号が乱れ、拍動が不規則になる病気です。 心房細動が起こると、脈が乱れて、胸がドキドキする動悸や胸痛などの症状が現れます。 しかし、こういった症状に気付かない人も多く、ある報告によれば、心房細動が起こっても約50%の人が自覚症状を訴えないそうです。 前述したように、心房細動を放置すると、脳梗塞や心不全を招いて突然死を引き起こす危険があります。 そのため、自覚症状を見逃さないように、常に注意を払うことが必要です。

では、どのようにすれば、自分の不整脈や心臓の異常が、心房細動によるものかどうかを見分けられるのでしょうか。 もちろん、病院で検査を受け、医師の診断を仰ぐのが一番ですが、おおよそ自分で判断することもできます。 まず、心房細動が起こって心臓の拍動が不規則になると、強い胸のドキドキや息切れが起こります。 心拍数は一般的に多くなり、毎分200回ぐらいになる人もいます(健康な人は毎分60~80回。100回以上で頻脈)。 ただし、まれに毎分60回以下になることもあり(除脈)、心拍数の変化は人によってそれぞれです。 頻脈や除脈が現れると、「何となく脈がおかしい」という違和感を覚えます。 同時に強い胸のドキドキや息切れが起こるようなら、心房細動の疑いが大きいでしょう。

次に、胸痛が起こる人もいます。胸痛は狭心症でも起こりますが、狭心症の場合、安静にしていれば楽になります。 心房細動の場合は、安静にしていても痛みが治まらないことが大きな特徴といえるでしょう。 胸痛だけでなく、「胸にもやもやとした違和感がある」といった不快感、「胸が苦しくて呼吸がしにくい」といった呼吸困難な症状も、 心房細動の重大なサインです。さらに、心房細動になるとトイレが近くなる人が少なくありません。 これは、心房細動によって心臓から分泌される利尿ホルモンの影響です。2時間以内に6回以上もトイレに行くようなら、 心房細動の疑いがあるでしょう。

しかし、こういった自覚症状があっても、何度か繰り返すうちに慣れてしまい、 気付かなくなることがあります。その場合は、特に心房細動が現れやすい運動中や食後・飲酒後に胸の圧迫感がないかどうか 注意してください。 心房細動を起こす危険性が特に高い人は、脳梗塞を起こしたことのある人、心不全のある人、高血圧や糖尿病のある人、 75歳以上の人です。いずれかに該当し、自覚症状に心当たりのある人は、病院への受診を勧めます。 また、自覚症状がなくても、健康診断で心電図に異常が見つかった場合は、心臓の精密検査を受けてください。