高齢者の不眠症

高齢になると、夜中に何度も目が覚めたり、朝早くに目が覚めることが多くなって、日常生活に支障を来たすことも少なくありません。 不眠症を”年のせい”とあきらめず、自分の睡眠の特徴をよく知って、適切に対処しましょう。


■高齢者の不眠の問題

高齢者の3人に1人が不眠の問題を抱えている

現在高齢者の不眠の問題が増加し、およそ3人に1人が不眠の問題を抱えているという報告も なされています。高齢者の不眠の症状には、2つのタイプがあり、ひとつは「中途覚醒」、 つまり睡眠中に途中で目が覚めてしまい眠れなくなるタイプです。 もうひとつは「早朝覚醒」、つまり朝早くまだ夜も十分に明けないうちに目が覚めてしまうタイプです。 厚生労働省が行った睡眠に関する調査でも、入眠障害を訴える人の割合に、年齢による差異はありませんでしたが、 中途覚醒や早朝覚醒を訴える割合は、年齢が上がるほど増加するという結果が出ています。


■高齢者の不眠の原因

睡眠の構造の変化や、体内時計のずれなど

加齢によって起こる不眠不眠の原因には、次のようなものが考えられます。

▼睡眠が浅くなる
睡眠には「レム睡眠」「ノンレム睡眠」があり、 健康な睡眠では、およそ90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されます。 レム睡眠は、浅い眠りの状態で、夢を見るのはこのときが多く、主に体を休める役割があります。 ノンレム睡眠は、深い眠りの状態で、体を休めることにくわえて脳を休める働きがあります。 ノンレム睡眠には3つの段階があり、順番に脳波が緩やかになり、眠りが深くなっていきます。 ところが、加齢と共に、最も深い眠りであるノンレム睡眠の第3段階が減り始め、 70歳代では第3段階目の最も深い眠りがほとんどなくなってしまいます。 眠りが浅くなるため、中途覚醒を起こしやすくなります。 また、体温が下がってくると眠くなるのですが、加齢に伴い運動量が減ることなどによって、 昼夜の体温の差が小さくなることも、眠りが浅くなることに関連していると考えられます。

▼体内時計がずれる
高齢者の不眠の原因の一つには、ひとつには脳の老化によって、 生体が持っている「覚醒~睡眠のリズム(体内時計)」が乱れることがあげられます。 人間の体には「昼間行動して夜眠る」というリズムがあり、これを司っているのが脳の視床下部にある 「体内時計」です。1日は24時間ですが、体内時計はそれとは少し異なる周期でリズムを刻んでおり、 朝、太陽の光を浴びることや、社会生活の規範などによって、24時間周期に調整されます。 調整が行われた14~16時間後に、脳の松果体から「メラトニン」というホルモンが分泌され、 それによって眠くなることがわかっています。 メラトニンの分泌は、光の豊富な昼間は少なく、逆に光の少ない夜間は増加するというリズムをもっています。 このメラトニン分泌の増減のリズムが、そのまま覚醒と睡眠のリズムを作り出しているのです。 ところが、老化が進むとメラトニンの分泌は若いときのおよそ半分にまで減少し、 夜間でさえもメラトニンの分泌が十分なされずに減少してしまいます。 そのため、寝つきがよくなかったり(入眠障害)、途中で目が覚めたり(中途覚醒)、 あるいは夜明け前のまだ暗いうちに目が覚めたり(早朝覚醒)して、体内時計が前にずれやすくなり、 体内時計のずれが大きくなると、早朝に目が覚めてしまうことが習慣になってしまいます。

▼生活環境の変化
高齢期の場合、退職や子供の自立などによる、生活環境の変化が、不眠を招くこともあります。 また、以前より運動量が減り、肉体的な疲労が少ないと、必要な睡眠時間も減ります。 必要な睡眠時間より長く寝床にいると、眠りが浅くなって、途中で目が覚めたり、 早朝に目が覚めやすくなったりします。

▼病気の影響による不眠
前立腺肥大などで夜間頻尿があったり、痛みを伴う病気などがある場合には中途覚醒を起こしやすくなります。 「鬱病」の場合には、不眠症が重症化しやすいので注意が必要です。 また、鬱病では、早朝覚醒を起こしやすく、睡眠薬が効きにくいという特徴もあります。 また、脚がむずむずする「むずむず脚症候群」や、脚がピクピクする「周期性四肢運動障害」などの病気が、 高齢者の不眠の原因になっている場合もあります。

こうして高齢者は十分な持続した睡眠をとることができず、 そのため日中に眠くなったり、あるいは睡眠薬に頼ったりということになってしまいます。