不眠症の治療
不眠症と診断されたら、まずは睡眠衛生指導から
2013年に作られた「診療ガイドライン」では、不眠症の治療の際、初めから睡眠薬を使うのではなく、 まずは「睡眠衛生指導」を行うことが明記されました。 睡眠衛生指導で改善しない場合は、「睡眠薬」を使用し、同時に「認知行動療法」が行われる場合もあります。
■睡眠衛生指導
「睡眠衛生指導は、快適な眠りを阻害する状況を減らす治療法で、これまでの生活習慣を見直すことから始めます。 具体的には、「寝室を暗くして、静かにする」「眠る4時間ぐらい前からカフェインを多く含む食品は摂取しない」 「眠れない時は一旦寝床から出て、眠くなってから寝床に就く」などが挙げられます。 「ぬるめの湯に入浴する」「軽めの運動をする」ことも勧められます。 体温が下がるときに眠気を感じるため、入浴や運動で体温を少し上げ、その後体温が下がるタイミングで寝床に就くと、眠りやすくなります。 また、眠る前に明るい光を浴びると、眠気の妨げになります。 夕方以降は、テレビの視聴や携帯電話などディスプレーの付いた機器の使用をなるべく避け、 使用する場合は、画面の輝度を下げて少し暗くするなどの工夫をするといいでしょう。
■不眠症の治療
睡眠薬の使用と生活習慣の見直しで改善する
●睡眠薬の使用
不眠の症状が強く現れ、睡眠時間がとても短くなるタイプの不眠症には、「睡眠薬」による治療が効果的です。 ストレスを感じやすい、働き盛りや若い世代に多く見られる不眠症に対して行われます。 しかし、高齢者の不眠症では、多くの場合、症状はより緩やかに現れます。 実際には、同年代の人に比べて睡眠時間はそれほど短くないにもかかわらず、本人が不眠を訴えるケースが多く、 これは、適切ではない睡眠習慣が背景にあって不眠症が起こっていると考えられます。 こうした不眠症に対しては、特に睡眠に関する生活習慣の見直しが大切になってきます。
●生活習慣の見直し
1つ目は早寝で、眠れそうにない時間から無理に眠ろうとしないようにします。 睡眠と覚醒、またそれを支える体のリズムは、体内時計によって調整されています。 個人差はあるものの、夜7時から9時半くらいの時間帯が、一日で最も脳の温度が高く、睡眠に入りにくい時間だということがわかっています。 この時間を「睡眠禁止ゾーン」といい、不眠症に悩む高齢者では、この時間帯に寝床に入ったり、睡眠薬を飲んでいるケースが少なくありません。 睡眠禁止ゾーンの時間帯に寝床に入るのを避け、寝る2時間前までに入浴しストレッチや照明の明るさの調整などで、 心身をリラックスさせると、質の良い睡眠に入りやすくなります。 寝床に入る時刻を毎日一定にし、眠気を十分に感じてから寝るようにしましょう。
2つ目に、眠れなくても長時間寝床にいてしまう長寝にも気を付けます。 高齢者の場合、必要以上に長く寝床にいることで、”眠れない”という緊張が起こり、不眠の悪循環に陥っている人も少なくありません。 必要な睡眠時間をとれているのに中途覚醒や早朝覚醒が起こり、”重症の不眠かも”と思い込んでいるケースが多く見られます。 眠気を感じてから、適切な時間帯に寝床に入ることが重要です。
3つ目は昼寝への注意です。不眠症のある人では長い昼寝をとっていることが少なくありませんが、 長過ぎる昼寝は夜の眠気を妨げる原因になります。
■認知行動療法
睡眠についての誤った考え方や行動パターンを改善することで眠りを改善しようという治療法が「認知行動療法」です。 その中でも、「睡眠日誌」を付けて、「睡眠制限法」を行う方法が、高い効果を上げています。 睡眠日誌は、「不眠症問診票」の記入欄によく眠れた時間帯や、うとうとしていた時間帯など、毎日の眠りの状態を記録します。 さらに、何時から何時まで布団の中にいたかを記します。 毎日記録することで、自分の睡眠の様子を客観的に見ることができます。
【睡眠制限法】
「睡眠制限法」は、睡眠日誌を基に、寝床で眠れずにいる時間やうととしている時間を減らし、寝床に就いている時間を制限するものです。 夜早めに寝床に就いても、すぐには寝付けなかったり、目覚めたのちも、長く寝床に就いていたりすると、 眠れないという感覚が強まって、不眠に悩むことになりがちです。 睡眠制限法を行うと、睡眠時間は少なくなりますが、ぐっすり眠れる時間が増え、”寝床は眠れる”という感覚が心と体の両方から身に付きます。 日誌をつけるのが面倒な場合は、毎日の就寝時間、起床時間、睡眠の質を簡単に書き留めておくだけでも、自分の睡眠の状態を把握されます。 このような睡眠衛生指導や認知行動療法だけで症状が改善する患者さんも、少なくありません。
■医療機関の受診
不眠に悩んでいる場合は、まずかかりつけの医師に相談し、 それでも症状が改善しない場合は、日本睡眠学会の認定医か、認定医のいる専門の医療機関を受診してください。 日本睡眠学会のホームページで認定医のいる医療機関を探せます。 国際的に診断に用いられる不眠症問診票を使って、不眠症の可能性があるかどうか自分でチェックすることもできます。