海馬の衰えが原因の不眠症の改善
『不眠症』の意外な原因は、脳の奥深くにある記憶装置『海馬』の衰えで、 海馬の衰えは「物忘れ」や「鬱」まで招くことがあります。
■不眠症と海馬の関係
睡眠と深く関わる海馬
私たちは不眠になって睡眠が不足すると、気分が悪くなったり、イライラしたり、怒りっぽくなったりします。 また、注意力が散漫になったり、物忘れをしたりすることも増えてきます。 このように、睡眠は脳の働きに大きな影響を与えています。 特に睡眠は、脳にある「海馬」という器官と極めて密接にかかわっているといってもいいでしょう。 海馬とは、直径1cm、長さ5cmくらいのU字型をした、脳の奥深くにある小さな器官です。 海馬には、脳に伝えられたさまざまな情報を収集し、それを統合したり、取捨選択したりする働きがあり、 海馬が衰えると、物忘れや認知症といった記憶障害を引き起こすことがわかっています。 そして、最近になって、記憶を担う海馬の働きと睡眠との間には、密接な関係のあることが明らかになりました。
私たちの睡眠中に、脳は決して休んでいるわけではありません。 特に「レム睡眠(夢を見ているときの浅い眠り)」の状態のとき、脳は目覚めている場合と同じくらい、 活発に活動していることが明らかになっています。 そして、このレム睡眠の間に、海馬は一時的に蓄えた記憶(短期記憶)のうち、重要なものを大脳皮質に送り、 長く維持される記憶(長期記憶)に固定する作業を行います。 実際に、ネズミを使った実験では、ネズミにある訓練をさせてからレム睡眠を奪ったところ、訓練した記憶がうまく固定されないことがわかっています。 言い換えれば、海馬が正常に働いているときは、十分な睡眠がとれ、たくさんの情報を記憶することができます。 反対に、海馬が衰えているときは、睡眠も不十分で、記憶力や集中力も低下することになるのです。 実際に、お年寄りの睡眠の量が減り質も悪くなるのは、海馬の衰えが原因の一つと考えられています。
●海馬が衰える原因
ストレスが海馬を萎縮させる
海馬の衰える原因については、「加齢」による細胞の減少が上げられます。 また、最近の研究で、海馬を衰えさせる新たな原因がわかりました。 「強いストレス」を受け続けると海馬が萎縮してしまうのです。 このことは、ベトナム戦争から帰還した兵士の脳を調べた調査で、明らかになりました。 その調査では、ベトナム戦争で長く戦線に出ていたためにPTSD(心的外傷後ストレス障害)になった人の脳を調べました。 すると、海馬の体積が、健常者に比べて小さくなっていたのです。 強いストレスや不安が続くと、脳内で「セロトニン」という物質の分泌が減少します。 セロトニンは、脳内ホルモンの一種で、気分を落ち着かせながら体を活動的にする働きがあります。 セロトニンが脳に十分あれば、前向きで気力にあふれ、活発な行動ができるようになります。 反対に、セロトニンが脳内で不足すれば、精神の安定が崩れて悪化し、海馬はますますストレスを受けるようになり、衰えてくるのです。 ちなみに、セロトニンの分泌が悪くなると、睡眠導入作用のある脳内ホルモン「メラトニン」の分泌も悪くなります。 そうなると、ますます不眠に悩むことにつながるのです。
つまり、海馬の衰えを防ぎ、不眠や物忘れ、鬱を防ぐには、ストレスを回避することが肝心となります。 そのためには、脳内のセロトニンを増やす必要があるのです。
- 【関連項目】
- 『メラトニン』
- 『ストレス解消』