睡眠ホルモン「メラトニン」を増やす
■睡眠ホルモン「メラトニン」
メラトニンの不足が睡眠障害をもたらす
鬱の人や高齢者は、何故早朝覚醒や熟眠障害に悩まされるのでしょうか。 その主原因と考えられているのが、体内の「メラトニン」というホルモンの不足です。 メラトニンは、夕方から夜にかけて脳で作られ、全身の器官や組織に「休め」という信号を出すのが主な働き。 この働きによって、私たちは夜になれば眠くなるわけです。 私たちは睡眠中に、ノンレム睡眠という深い眠りとレム睡眠という浅い眠りを通常、4~5回ほど 繰り返しています。ノンレム睡眠は脳も体も休んでいる状態。レム睡眠は脳が活動している一方、 体が休んでいる状態で、よく夢を見ています。そして、朝方になるにつれて、レム睡眠が増えて眠りが浅くなり、 朝の適正な時間に起きるように、目覚めの準備に入るのです。
もし、メラトニンが不足すれば、この仕組みがうまく働きません。夜なのにレム睡眠が増えて、早朝に目が覚めたり、 夢ばかり見たり、熟睡感が得られなかったりするのです。それだけではありません。 私たち人間には、太陽が出ると活動を始めて、太陽が沈むと休眠するという生活のリズムがあります。 実は、このリズムも、メラトニンの働きによって生み出されているのです。 さらに、メラトニンは、睡眠中に癌細胞や病原菌などの有害な異物を排除したり、傷ついた細胞を修復したり、 動脈硬化などの重大原因になる活性酸素を消したりする体の働きを助けるということもわかってきました。 皆さんも、夜寝る前に疲れがたまっていても、翌朝目覚めたときに疲れがすっきり取れていたという経験があるでしょう。 これもメラトニンの働きの一つなのです。
【関連項目】:『メラトニン』
■睡眠ホルモン「メラトニン」を増やす
メラトニンは自分で増やせる
上記のように、メラトニンは、さまざまな重要な役割を担っています。 メラトニンが減れば、よく眠れなくなるだけでなく、大病を招き老化を早めてしまうのです。 鬱の人や高齢者は、メラトニンの分泌が著しく少ないことが、これまでの研究でわかっています。 米国コロンビア大学の調査によれば、自殺した人の脳には、自殺以外の原因で亡くなった人の脳に比べて、 メラトニンが約1/20しかありませんでした。自殺の大半は鬱によるものなので、鬱の人もメラトニンが激減していると考えられます。 60歳になると、メラトニンの分泌量が、思春期の2割程度まで減ることも明らかになっています。
これまでの説明で、早朝覚醒や熟眠障害などの不眠の解消には、メラトニン増やしが欠かせないことが おわかりいただけたでしょう。年を取ると共に、メラトニンの分泌量が低下するのは、ある程度はやむを得ません。 とはいっても、実は自分で努力すれば、メラトニンを増やすこともできるのです。 最近では、ある一定の運動や食事によって、メラトニンを簡単に増やせることがわかってきました。 そのカギを握っているのは、「セロトニン」という脳内ホルモン。 セロトニンは、メラトニンの原料となるため、メラトニンを増やすには、まず、セロトニンを増やす必要があるのです。 つまり、セロトニンを増やす運動や食事をすれば、メラトニンが増やせるというわけです。 その具体的な増やし方については、下記のような方法があります。
●朝の日光浴
メラトニンの原料となるのは前述したように、セロトニンという脳内ホルモンです。 そのため、メラトニンを増やすには、セロトニンを増やすことが重要なのです。 セロトニンは、体の働きを活発にさせる働きがあり、朝になると増えるのが特徴。 目覚めたときに、視覚を通じて、視交叉上核と呼ばれる脳の部位が日光を感知すると、 セロトニンを大量に分泌しはじめる仕組みになっています。そこで有効なのが「朝の日光浴」。 実際に、朝の日光浴は、不眠や鬱の治療にも活用されています。 まず、就寝中はできるだけ部屋を暗くして、光に当たらないようにします。 次に、朝起きたら、すぐにカーテンや雨戸を開けて、5分以上、朝日を目で感じましょう。 セロトニンを増やすには、3000ルクス以上の明るさが必要。 一般的な室内の照明は200ルクス前後しかないので、セロトニンを増やす効果はありません。 日光は、晴れているときであれば約2万ルクス、曇っているときでも約3000ルクスの明るさがあります。 ただし、窓から入ってくる日光は、天候や季節によっては、1000ルクス以下になってしまうこともあります。 そのため、なるべく屋外か窓辺に行き、目で朝日を感じるようにしましょう。
●リズム運動
セロトニンを増やすもう一つの方法は、同じ動作をテンポよく反復継続する「リズム運動」。 ある実験で踏み台昇降やサイクリングなどのリズム運動を行ったところ、セロトニンが増えたという報告もあります。 リズム運動にはさまざまな種類がありますが、お勧めしたいのが「水平足踏み」です。 水平足踏みは、その場に立ち、太ももを床と平行になるまで引き上げる動作を、片足ずつ交互に行う簡単な運動。 踏み台昇降は踏み台が、サイクリングは自転車が必要ですが、水平足踏みは必要とするものが何もありません。 誰もが、いつでも何処でも行えるのが大きな利点といえるでしょう。 水平足踏みは、好きなときに行ってかまいませんが、起床後に朝日を浴びながら行えば、効果が格段に大きくなります。 前述したように、朝日を合図にセロトニンの分泌量が急増するからです。 リズム運動を開始してから、脳がセロトニンを分泌するまでに5分以上かかるので、水平足踏みも5分以上続けましょう。
●食事・食品
セロトニンは、食事によっても増やすことができます。 セロトニンは、アミノ酸の一種である「トリプトファン」が原料。 そこで、牛乳や牛肉、バナナなどのトリプトファンが豊富な食品を積極的に摂るといいでしょう。 それに、砂糖や米に大量に含まれるブドウ糖、マグロやカツオに多いビタミンB6などの栄養も、 セロトニンを増やすのに役立ちます。 さらに、クルミ、オーツ麦、トウモロコシ、米、カイワレ、ショウガ、トマト、キュウリ、バナナなど メラトニンそのものを含む食品もあります。 こうした食品によって、メラトニンを補っても、不眠の解消が期待できるでしょう。
【関連項目】:『L-トリプトファン』
【タルトチェリー】
さらに、上記のような食品よりもメラトニンが断然多い食品があります。それが「タルトチェリー」というサクランボです。 タルトチェリーは、米国で盛んに栽培されているほか、ヨーロッパや中央アジアなどの温暖な地域で栽培されています。 日本産のサクランボよりも粒が大きく、赤みも強いのが特徴。タルトチェリーのメラトニンの含有量は、 今までの調査では、食品の中で最も多いことがわかっています。 2002年の米国テキサス大学の研究によれば、タルトチェリーには1g当たり平均8.5ngのメラトニンが含まれているそうです。 ちなみに、メラトニンが豊富といわれるクルミでも、その含有量は1g当たり2.5~4.5ng程度。 タルトチェリーのメラトニンの含有量が、いかに多いかがわかるでしょう。 タルトチェリーは、夏には日本でも生のものが手に入ります。不眠や時差ぼけの解消の効果を期待するのであれば、 10個程度を食べれば十分。この量を食べれば、血液中のメラトニン濃度が高まることがわかっています。 タルトチェリーを夕食後のデザートにすれば、安眠効果が得られるでしょう。 タルトチェリーのジュースやジャムも、日本で出回るようになってきました。 夏以外の時期は、こうしたタルトチェリーの加工食品を利用してもいいでしょう。 最近では、タルトチェリー入りのサプリメントも市販されています。 なお、メラトニンには副作用がないといわれていますが、念のため、妊娠中の人は控えた方がいいでしょう。