鬱と不眠
「眠れないのは不眠症のせいだ」と思い込んでいたら、実は「鬱病」が原因だったということも少なくありません。 鬱病による不眠の場合は、まず鬱病を治療することが大切です。
■不眠の原因が鬱病であることも少なくない
「不眠」で受診する人の約半数に、「鬱病」が関係しているとされています。 アメリカで一般住民約8000人を対象にした調査では、不眠症がないグループには鬱病を含む精神症状のある人が 約16%だったのに対して、不眠症があるグループでは約40%だったというデータもあります。 不眠は、鬱病のサインの一つです。軽い鬱症状では、不眠、全身倦怠感などの肉体的な症状だけで、 「憂鬱な気分」などの精神症状が現れないこともあります。こうした体の症状がある場合、 体の症状だけに注目してしまいがちですが、そこで鬱病が見逃されると、さらに悪化してしまうこともあります。 不眠がある場合は、早めに睡眠障害専門の外来や精神科などを受診して、きちんと原因を突き止め、 治療を受けることが大切です。
■症状
不眠や「やる気が出ない」などの症状が2週間以上続く
鬱病の場合、不眠に加え、不眠以外のさまざまな症状を伴うのが特徴です。 そして、こうした症状が2週間以上続くと、鬱病が疑われます。
●鬱病が原因の不眠のタイプ
- ▼早朝覚醒
- 通常起きる時刻よりも1~2時間早く目が覚め、それ以降眠れなくなります。
- ▼熟眠障害
- 朝起きたときに、よく眠れたという熟睡感が得られず、疲労感が取れません。
- ▼入眠障害
- 眠ろうとしてもなかなか寝付けません。比較的若い、鬱病の人に多く見られます。
●不眠以外の症状
- ▼やる気が起きない
- 意欲が低下して、仕事や家事ができなくなります。
- ▼物事を楽しめない
- これまで興味を持っていたことを楽しめなくなります。 高齢者では、孫がかわいいと感じられなくなることもあります。
- ▼食欲が低下する
- 食欲がなくなって、体重が減ってきます。
- ▼体の不調がある
- 「頭痛、めまい、胃の不快感、動悸」などの自律神経症状が現れます。
●日内変動がある
鬱病による症状は、1日のうちでも強さが変動します。特に、朝起きてから午前中は症状が重く、 夕方から夜にかけて軽くなる傾向があります。
■鬱と不眠の薬物療法
鬱病の治療が中心。必要に応じて睡眠薬を用いる。
鬱病に伴う不眠は、「睡眠薬」だけでは改善されません。治療は「抗鬱薬」を使って、 鬱病そのものを治し、補助的に睡眠薬を使います。
●抗鬱薬
鬱病の人では、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」と「ノルアドレナリン」の量が不足していること がわかっています。そこで、セロトニンの働きを促す「SSRI」や、セロトニンとノルアドレナリンの 療法に作用して働きを促す「SNRI」の2種類が主に使われます。 これらの薬では、「吐き気や食欲低下、便秘」などの副作用が起こることがあります。
●睡眠薬
抗鬱薬は、効果が現れるまでに、少なくとも10日から2週間程度はかかります。
そのため、不眠に対しては補助的に睡眠薬を使用します。
主に使われる睡眠薬には、「ベンゾジアゼピン系」と「非ベンゾジアゼピン系」があります。
作用時間が短いものと長いものがあり、不眠の程度やタイプ、患者の年齢、不眠に対する不安の有無などによって
使い分けられます。
睡眠薬の多くは「筋弛緩作用」があるため、高齢者ではふらつきや転倒に注意が必要です。
また、お酒と一緒に飲むと、薬を飲んでからのことを忘れる「記憶障害」が起こることがあるため、
絶対にお酒と一緒に飲んではいけません。
●自己判断で中止しない
不眠が改善されても、自己判断で抗鬱薬や睡眠薬を飲むのをやめてはいけません。 急に薬をやめると、症状が急激に悪化することがあります。 担当医と相談して、徐々に量を減らしながら、服用中止を目指していきます。
■鬱と不眠の認知療法
医師と話し合いながら、考え方を前向きに変えていく
鬱病の治療では、薬物療法に併せて「認知療法」が行われることがあります。 鬱病になると多くの場合、考え方が消極的になります。 例えば、コップに水が半分入っていても、鬱病の人は”半分空っぽ”と考えてしまいます。 そして、次第に”半分”が抜け落ちて、”全部空っぽ”と認知の偏りができてしまいます。 認知療法では、医師と話し合いながら、考え方の偏りを修正し、考え方を前向きにしていくことを目指します。
●日常生活の注意
日常生活では、お酒に注意が必要です。不眠を治そうとお酒に頼るのは絶対にいけません。 お酒を飲むと、一時的に気持ちが大きくなりますが、鬱病の治療にはなりません。 また、お酒を飲むと寝つきはよくなりますが、深い眠りを減らし、かえって睡眠の質を落とすため、 寝酒は厳禁です。
■その他
- ▼市販の睡眠薬
- 市販の睡眠薬は、「睡眠改善薬」と呼ばれるもので、医師が処方する睡眠薬とは成分が異なります。 風邪薬を飲むと眠気が起こることがありますが、これは「抗ヒスタミン作用」によるものです。 市販の睡眠改善薬は、この作用を利用して一時的な不眠を緩和するためのもので、 不眠症の治療薬ではありません。不眠症は医師が処方する薬による治療が必要です。