むずむず脚症候群

むずむず脚症候群は、脚がむずむずしたり、ほてったり、虫が這うような不快感が起こる症状で、 不快感は、皮膚ではなく、脚の内部に感じられるのが特徴です。 むずむず脚症候群は、「不眠症」の原因になることが多々あります。 この病気は日本人の2~3%に起こるとされ、中高年の女性に多いといわれています。 むずむず脚症候群で起こる不眠は、睡眠薬を服用しても解消されません。 治療では、症状を抑えて不眠を改善することが基本になります。 軽症の場合、多くは日常生活の改善で解消されます。症状が強い場合は、薬による治療を行います。 辛い症状が続く場合、早目に医療機関を受診して、適切な治療を受けましょう。


■「むずむず脚症候群」とは?

脚にむずむずする不快感があり、じっとしていられなくなる
不眠を引き起こす

脚の裏やふくらはぎ、太ももなどに不快感が起こってじっとしていられなくなる、 むずむずするなどの不快感が起こる病気を「レストレスレッグス症候群」といい、一般に「むずむず脚症候群」と呼ばれています。 その不快感は、「脚の中を虫が這うような感じがする」「痒い」「痛い」など、人によってさまざまに表現されます。 症状は、横になっているときや座っているときなど、じっとしているときに起こり、多くは夕方から夜にかけて強くなります。 立って歩いたり、足を動かすと症状が治まったりして楽になりますが、じっとしていると再び症状が現れます。
むずむず脚症候群がある人の割合は、日本では4%程度と推計されています。 海外の研究によると、むずむず脚症候群は、どの年代でも発症しますが、特に60~70歳代に多く、男性より女性に多く見られる傾向があります。 日本でも、この傾向は変わらないと考えられています。 むずむず脚症候群には、次のような4つの特徴があります。

▼脚の不快感が現れる
脚の内部や表面を虫が這うような感覚があったり、脚のほてりやかゆみ、痛みなどの症状が現れます。 特にむずむず脚症候群では、脚の内部がかゆいという特徴的な感覚が現れます。 これらの脚の不快感が現れると、脚を動かしたいという強い欲求が起こり、じっとしていられなくなります。 また、ほてりやかゆみ、痛みは、他の病気でも起こる症状のため、かつてむずむず脚症候群が知られていなかったころには、 皮膚炎や末梢神経障害、坐骨神経痛などと診断されて見過ごされてしまう場合もありました。

▼夕方から夜にかけて脚の不快感が起こる
一般に脚の不快感は、夕方から夜にかけて起こります。そのため、不眠を引き起こすことがあります。 不眠が続くと、精神的な負担となって不安感や抑うつなどの症状が現れることもあります。

▼動かない時に症状が現れる
脚の不快感は、同じ姿勢で座り続けているときや寝ているときなどの安静時に現れたり、強くなったりします。

▼脚を動かすことで不快な症状が軽減したり消失したりする
脚を動かしたり、軽く叩いたりすると、不快な症状が軽減したり、消失したりします。 これは、脚の不快感よりも強い刺激を与えることで、むずむず脚症候群の症状を感じにくくなるためと考えられています。

■むずむず脚症候群の原因

鉄不足や遺伝などによって、脳のドーパミンの伝達機能が低下

むずむず脚症候群が起こる原因は、現在のところはっきりとはわかっていませんが、脳の伝達物質である「ドーパミン」の機能障害 が関係しているとされています。ドーパミンは、運動に関する情報を伝達する働きがあり、この機能が低下すると考えられています。 また、鉄不足がむずむず脚症候群の原因になるともいわれています。 ドーパミンを作るのには「鉄」が必要なため、 鉄が不足するとドーパミンの量が減少してしまいます。


●むずむず脚症候群が起こりやすい人

むずむず脚症候群は、家族に発症した人がいると起こりやすいとされています。 40歳代以降の中高年に多く、男性と女性ではほぼ2対3の割合で女性に多く見られます。 患者さんのおよそ半数には、遺伝的な体質が関係していると考えられ、特に45歳以下で発症した場合にはその傾向が強いとされています。 そのほか、「鉄欠乏性貧血」や、ドーパミンが減少して起こる「パーキンソン病」透析療法を受けている「腎不全」「糖尿病」がある人などや、「妊娠中の女性」などで起こりやすい傾向にあります。


■むずむず脚症候群の診断

血液検査や終夜睡眠ポリグラフ検査を行う

むずむず脚症候群が疑われる場合は、睡眠障害の専門医や、睡眠障害の診療を行っている脳神経内科や精神科などを受診しましょう。 また、日本睡眠学会では、睡眠障害の専門医がいる医療機関などの認定を行っています。 むずむず脚症候群の診断は、問診で症状を確認するのに加えて、原因を調べるために血液検査を行います。 また、必要に応じて終夜睡眠ポリグラフ検査が行われる場合があります。

▼血液検査
むずむず脚症候群には、鉄不足が関わっていることがあるため、血液検査で血液中の鉄の濃度を調べます。

▼睡眠ポリグラフ検査
不眠の原因を調べるために行われる場合があります。 医療機関に一晩入院し、頭部や胸、脚など20ヵ所ほどにセンサーを付け、睡眠中の脳波や心拍数などを記録していきます。 この検査では、次に述べる周期性四肢運動障害の有無もわかります。 むずむず脚症候群の患者さんのおよそ4~6割に、周期性四肢運動障害があると考えられていることから、 周期性四肢運動障害の有無は診断の手掛かりになります。

▼周期性四肢運動障害
周期性四肢運動障害は、神経系の異常によって起こると考えられており、睡眠中、無意識のうちに一定の感覚で脚や、時には手がピクンと動きます。 こうした動きを1時間に15回以上繰り返す場合、周期性四肢運動障害と診断されます。 このような手脚の動きのたびに脳が覚醒してしまうので、睡眠が浅い状態になります。

●むずむず脚症候群の診断基準

  • 足にむずむずする不快感があったり、足を動かしたくてたまらなくなる。
  • 1の症状は、じっとしているときに起こる。
  • 1の症状は、足を動かすと治まったり軽くなる。
  • 1の症状は、夕方から夜間に起こる。

1~4全てに当てはまる場合に「むずむず脚症候群」と判定されます。

症状が最も現れやすいのが、夜、寝床に入っているときです。最初は時々起こる程度ですが、悪化すると毎日起こるようになります。 そして、夜だけでなく昼間でも、テレビを見ているとき、会議中、電車での移動中など、座ってじっとしていると症状が起こるようになっていきます。 不快感が腕や背中など全身に広がることもあります。


■「むずむず脚症候群」の治療

軽症の場合は日常生活の改善、重症の場合は薬物療法

むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害で起こる不眠は、脚の症状が起こることで睡眠が妨げるため、睡眠薬を服用しても解消されません。 治療では、症状を抑えて不眠を改善するのが基本になります。軽症の場合、多くは日常生活の改善で解消されます。 症状が強い場合は、薬による治療を行います。


●症状が軽い場合

症状が軽い場合は、まず日常生活の改善が大切です。 脚の症状でなかなか眠れないからと寝酒をすると、症状を悪化させるため、就寝前の飲酒は控えるようにします。 また、コーヒーや紅茶、緑茶類などに多く含まれるカフェインを摂りすぎると、症状を悪化させたり、睡眠に悪い影響を与えるので、 特に、症状が現れやすくなる夕方以降は摂取を控えるようにしましょう。 タバコに含まれるニコチンなどによっても起こりやすくなるので禁煙に努めましょう。 また、肉体疲労を伴う激しい運動をすると、症状が出やすくなります。運動は適度な範囲にとどめ、 運動後はマッサージやストレッチングをして筋肉をよくほぐしておくことが大切です。 シャワーなどの刺激で症状が軽減し、寝付きやすくなる場合があります。 熱いシャワーの方がよいか、冷たい方がよいかには個人差があります。


●症状が重い場合

症状が強く現れている場合や、日常生活の工夫だけでは十分な効果が得られない場合は、薬物療法を行います。1

▼鉄剤
鉄不足がむずむず脚症候群の原因となっている場合は、鉄剤を服用します。 また、鉄を多く含む食品を積極的に摂るように心がけます。

▼ドーパミン系製剤
ドーパミンの伝達機能を改善する働きがあります。飲み薬のプラミペキソールと、貼り薬のロチゴチンの2種類があります。 ドーパミン系製剤は、使い過ぎると、副作用が現れやすくなります。 プラミペキソールの場合、むずむず脚症候群の症状が脚だけでなく手に広がったり、胸のむかつき、吐き気などが現れる場合があります。 また、ロチゴチンの場合、貼った場所にかゆみなどが現れることがあります。 副作用を防ぐためにも、睡眠障害に詳しい専門医の指導の下で、適切な方法で使用することが重要です。

▼非ドーパミン系製剤
神経に直接作用して症状を和らげる働きがあります。飲み薬のガバペンチンエナカルビルを使用します。 非ドーパミン系製剤は、ドーパミン系製剤だけでは十分な治療効果が現れない場合や、痛みが強い場合に、ドーパミン系製剤と併用する場合もあります。 ただし、非ドーパミン系製剤は、腎機能が低下している場合は使えないことがあります。
【補足】

2010年1月、パーキンソン病の治療薬であるプラミペキソール(商品名:ビ・シフロール)が、むずむず足症候群の治療に有効であるとして、 効能追加&保険適用となりました。同系統の薬に現れやすい消化器への副作用が少ないのが特徴です。 続いて2012年4月には、国内で2つ目の治療薬として、ガバペンチンエナカルビル(商品名:レグナイト)が保険適用となりました。 レグナイト臨床試験を統括し、睡眠障害の医師として著名な井上雄一氏は「ビ・シフロールがむずむず脚症候群に伴う不眠や疼痛にも効果を示し、 レグナイトはむずむず脚症候群に高い頻度で伴う周期性四肢運動障害(PLMS)にも効きやすい」と話しています。 上記2剤に加えて、ロチゴチンが2012年12月にパーキンソン病と特発性むずむず脚症候群に対して製造販売承認を受けました。 こちらは1日1回、患部に貼り付けるだけで効果が24時間持続するというもので、昼にも症状が出る患者さんにとって有効な治療薬です。