不眠のタイプ | |||||
入眠障害 | 中途覚醒・早朝覚醒 | ||||
催眠作用の 持続時間 |
抗不安作用と 弛緩作用 |
催眠作用の 持続時間 |
抗不安作用と 弛緩作用 |
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体の状態 | 不眠に対する不安や こだわりが強くない人 |
短い | 弱い | 長い | 弱い |
お年寄り | |||||
不眠に対する不安や こだわりが強い人 |
短い | もつ | 長い | もつ | |
頭痛や肩こりがある人 |
睡眠薬の選び方
さまざまな理由から、よく眠れなくてで困っている人は少なくありません。 不眠症があると、『睡眠薬』を使った治療が必要になる場合があります。 睡眠薬というと、副作用を心配する人もいますが、不眠症のタイプや年齢などに合わせて適切に使用すれば、安全に治療することが可能です。 睡眠薬にはいろいろ種類があり、「不眠症のタイプ」「不眠に対する不安感の程度」などを考慮して薬が選ばれます。
■不眠症のタイプ
不眠が続いて生活に支障があれば、睡眠薬が用いられる
不眠の原因はさまざまで、眠りを妨げるような原因があったり、ストレスで眠れなくなったりすることが誰にでもあります。 しかし、不眠が続き、そのために心身の不調が生じて日中の生活の質が低下したり、支障が生じている場合は、 「不眠症」という病気として、治療が行われます。 最近では不眠は 高血圧や 糖尿病、 脂質異常症などのさまざまな病気や、社会生活に悪影響を及ぼすと考えられており、 積極的に治療すべきであると考えられています。
不眠には「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つがあります。
- ▼入眠障害
- 床に入ってから眠るまでの時間が長く、寝つきが悪い。
- ▼中途覚醒
- 寝ている間に何度も目が覚めて、再び寝付けない。
- ▼早朝覚醒
- 朝早くに目が覚めてしまい、再び寝付けない。
- ▼熟眠障害
- 睡眠時間は十分なのに、ぐっすり眠った気がしない。
治療では、睡眠を妨げている原因をできるだけ取り除き、不眠につながりやすい生活習慣の改善を図りながら、睡眠薬が用いられます。 従来、主に用いられてきた「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」に加え、近年は「メラトニン受容体作動薬」も用いられるようになっています。
不眠の背景に 「むずむず脚症候群」や 「睡眠時無呼吸症候群」 などの病気がある場合は、それらに対する治療が必要になる睡眠・覚醒のリズムが乱れた「概日リズム障害」では、 体に強い光を当てて体内時計の修正を図る「高照度光療法」が行われることもあります。
■睡眠薬の種類と特徴
現在、治療に使われている主な睡眠薬は、「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」「メラトニン受容体作動薬」 「オレキシン受容体拮抗薬」の4種類です。
- ▼ベンゾジアゼピン系の薬
- 不安やストレスで眠れない場合に有効です。
- ▼非ベンゾジアゼピン系の薬
- 主に寝つきが悪い場合に有効で、薬をやめるときに、やめやすいという特徴があります。
- ▼メラトニン受容体作動薬
- 「メラトニン受容体作動薬」は体内時計機構に作用する薬で、昼から夜へのスイッチを切り替えるように働きます。 不規則な生活や昼夜のメリハリがないために体内時計が乱れているタイプの不眠では、リズムの調整を助ける効果が期待できます。 一般に比較的軽症の不眠症に適し、特に高齢者など、ベンゾジアゼピン受容体作動薬で副作用が問題になるやすかった人にも使いやすい薬です。 ただし、抗不安作用がないため、不眠が長く続いて、眠ることに対する不安やこだわりが強くなっている人には、あまり、効果が期待できません。 また、ラメルテオンは1週間以上使い続けないと効果が現れないので、眠れない時に使う頓服には適しません。
- ▼オレキシン受容体拮抗薬
- オレキシン受容体へ阻害(拮抗)作用をあらわすことで、過剰に働いている覚醒システムを抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へ移行させることで、 睡眠障害(不眠症)を改善する効果をあらわします。 本剤は、服用開始から比較的早期に睡眠改善が期待できるとされ、また、反跳性不眠(睡眠薬を急に減量したり中断した場合に以前より強い不眠が出現すること) への懸念が少ないなどのメリットが考えられるとされます。
■睡眠治療薬『ベンゾジアゼピン受容体作用薬』
睡眠薬として広く使われてきた薬で、化学構造の違いから「「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」に分けられますが、 いずれも脳内でベンゾジアゼピン受容体に作用します。 まとめて「ベンゾジアゼピン受容体作用薬」といい、「ベンゾジアゼピン関連物質」と呼ばれたり、 「精神安定剤(抗不安薬)系の睡眠薬」と言われることもあります。
人間の睡眠の仕組みには、疲れたから眠る「恒常性維持機構」と、夜になると眠る「体内時計機構」があります。 ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、このうちの恒常性維持機構に働きかけるもので、脳が疲れて眠くなるような仕組みで眠りに導きます。 抗不安薬と同じ仲間の薬で、睡眠薬として使われる薬も、不安を和らげる抗不安作用や筋肉の緊張を緩める筋弛緩作用を併せ持っています。 ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、眠りを起こす脳部位(睡眠中枢)に作用して自然な眠気を起こす薬で、 かつてよく使われていた「バルビツール酸系」の睡眠薬のような、呼吸の抑制や、 薬の量を増やさないとだんだん効かなくなる耐性や、薬に対する依存性が生じにくく、安全性が高い薬です。 正しく服用すれば、安心して使うことができます。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬には、多くの種類がありますが、使い分け方は、主に作用時間の長さを示す「消失半減期」によって分けられ、 入眠障害には消失半減期の短いもの、中途覚醒や早朝覚醒には消失半減期の長いものなど、不眠のタイプによって使い分けられます。 また、併せ持つ抗不安作用や筋弛緩作用の強さの違いもあり、非ベンゾジアゼピン系の方が比較的弱めです。 不眠に伴う不安緊張が強い人では抗不安作用が有効ですが、筋弛緩作用も併せて強くなるため、それが副作用に繋がって使いにくいことがあります。 現在は、消失半減期が短く、筋弛緩作用が少ないゾルビデム、ゾビクロン、エグゾビクロンなどがよく使われています。 2012年に登場したエスゾピクロンは、ゾピクロンの活性の高い部分を抽出した薬で、服用後に感じる苦みがゾピクロンより少なく、中途覚醒にも有効とされています。
ベンゾジアゼピン受容体作用薬には、主に次の2つの働きがあります。 さまざまな種類があり、患者さんの不眠のタイプ、不眠に対する不安やこだわりの強さなどによって選択されます。
- ▼催眠作用
- 眠りを導く働きです。一般に、入眠障害に対しては催眠作用の持続時間が短い薬が適しています。 中途覚醒や早朝覚醒に対しては、催眠作用の持続時間が長い薬が適しています。
- ▼安定剤的作用
- 気分をほぐす抗不安作用と、筋肉をほぐす筋弛緩作用のことです。 一般に、不眠に対する不安やこだわりが強くない人や、お年寄りには、安定剤的作用が弱い薬が適しています。 不眠に対する不安やこだわりが強い人や、頭痛や肩こりがある人には、安定剤的作用を持つ薬が適しています。
熟眠障害は単独で起こることは少ないので、熟眠障害以外の症状に応じた薬が適宜選択されます。
■睡眠薬の選び方と使い分け
睡眠薬は、作用時間によって4種類に分けられ、「不眠のタイプ」に応じて使い分けられています。
- ▼超短時間作用型・短時間作用型
- 作用が2~4時間程度続くタイプです。「睡眠導入剤」「入眠薬」とも呼ばれ、寝つきの悪い「入眠障害」の治療に浴使われます。 作用時間が短いため、睡眠の始まりの部分だけに効き、翌朝まで作用を持ち越しません。
- ▼短時間作用型
- 作用が4~10時間程度続くタイプです。主に「中途覚醒」や「熟眠障害」の治療に使われます。 「入眠障害」の治療に使われる場合もあります。
- ▼中時間作用型・長時間作用型
- 10時間以上作用が続くタイプです。 穏やかにやや長く効く薬で、主に「熟眠障害」や、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」、朝早くに目が覚める「早朝覚醒」の治療に使われます。 不安やストレスを緩和する作用があります。この作用が日中にも得られるため、日常的に強い不安やストレスを感じている患者さんによく使われます。
また、睡眠薬は併せ持つ作用により2種類に分けられ、「不眠に伴う症状(不眠に対する不安感の程度)」によって使い分けます。
薬が作用するベンゾジアゼピン受容体のうち、ω1受容体は鎮静催眠作用に、ω2受容体は抗不安作用、筋弛緩作用に関わっていると考えられますが、
現在使われている睡眠薬の多くは、どちらの受容体にも作用するため、鎮静催眠作用と併せて抗不安作用、筋弛緩作用を持ちますが、
最近登場した「ω1受容体に選択的に作用する睡眠薬」は、ω2受容体への作用が弱く、抗不安作用、筋弛緩作用をあまり伴いません。
一般に、強い緊張や不安がある人、
肩こりなどを伴う人ではω2受容体への作用併せ持つ薬の方が効き、
そうでない人はω1受容体に選択的に作用する薬の方が副作用が出にくいようです。
具体的には、「また、眠れないのではないか」といった不眠に対する不安感が強い人には、抗不安作用のある薬が選択されます。
このタイプの睡眠薬には筋肉を弛緩させる作用もあるため、夜中にトイレに起きたときなどに、脱力して転びやすくなる可能性があります。
そこで、それほど不安感のない人や、お年寄りなど、足元のふらつきや転倒などの心配がある人には、眠気のみに働きかけるタイプの薬が使われます。
■不眠のタイプに応じた薬の用い方
不眠症には床についても、なかなか眠れない「入眠障害」、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」、朝早くに目が覚め、その後眠れない「早朝覚醒」と、 これらに伴う「熟眠障害」の4つのタイプがあり、複数のタイプが同時に起こることもあります。
- ▼入眠障害に使用する薬
- 入眠障害には、眠りに入るときだけに効き目がある、鎮静催眠作用の作用時間が短い薬を使います。 また、不眠に対する不安が強い人や、肩こりや頭痛がある人には、安定剤的効果のある薬を使います。 不眠に対する不安が強くない人や、夜中にトイレに行くときに転倒する危険性があるお年寄りなどには、安定剤的効果の弱い薬を使います。
- ▼中途覚醒・早朝覚醒に使用する薬
- 中途覚醒や早朝覚醒では、朝まで効果が持続するように、鎮静催眠作用の作用時間が長い薬を使います。 入眠障害と同じように、不安が強い人や、肩こり・頭痛などがある人には安定剤的効果のある薬を、不安がない人やお年寄りには安定剤的効果が弱い薬を使います。
- ▼熟眠障害に使用する薬
- 熟眠障害を伴う場合は、どのような症状が強いかを見極めたうえで、適切な薬が選択されます。
■睡眠薬の正しいやめ方
睡眠薬をやめる方法は2つあります。一つは薬の量を徐々に減らしていく「漸減法」、もう一つは服用する間隔を徐々に空けていく「隔日法」です。
この2つを組み合わせて行うこともありますが、多く用いられているのは漸減法です。
また、正しく服薬していても、急に中断すると、眠れないという問題が起きることがあります。
これは「反跳性不眠」といわれるもので、症状が休薬前よりも深刻になる場合があります。
また、睡眠薬をやめてから1、2週間は、「不安」「イライラ」「発汗」「震え」などの「退薬症状」が現れることもあります。
睡眠薬をやめるときは、医師の指導を受け、症状を見ながら、ゆっくり減らしていくことが大切です。
睡眠薬を使っている人のうち、睡眠衛生指導や認知行動療法の併用により、
薬が減る人が薬8割、8割のうち睡眠薬が全くいらなくなる人も約4割見られるという報告があります。
これらの方法により、たとえ薬をやめられなかったとしても、必要最小限の服用量にすることができます。
また、薬の量を減らしたために不眠症の症状が再発したとしても、服用量を元に戻せば、ぐっすり眠れるようになります。