超睡眠法序章『睡眠と脳力はコントロールできる』

今まで睡眠というと「ただ寝るだけ」と思っていたかもしれません。 しかし、脳内では睡眠中に記憶が整理され、昼間得た経験をきちんと身につかせるための大事な作業が行われています。 ですから、仕事のパフォーマンスを高めたいのであれば、睡眠時間を削るより、睡眠そのものの質を高めることに重点を置く必要があるのです。


■昼間の行動で変わる睡眠の質

◆「眠る」と「起きる」は常に連続している現象

睡眠の問題というと、よく時間の長さに重点が置かれることが多いと思います。
「なるべく睡眠時間を短くして仕事を充実させたい」
「寝不足なので、1日7時間寝られるようにしたい」
睡眠に関する相談でも、このように時間と関連するお悩みが多いのも事実です。 しかし、睡眠の問題はその長さを変えたからといってすぐに解決できるわけではありません。 「眠る」と「起きる」現象は別々だと思っている方がほとんどだと思いますが、実はこれは誤った考えです。 睡眠をコントロールするためには「眠る」と「起きる」は常に連続している現象であるということをまず、 認識しておく必要があります。 今まで睡眠といえば寝方を工夫するとか、「眠る」ことばかり焦点が当たりがちでした。 しかし、「眠る」と「起きる」は続いているわけですから、昼間の過ごし方を変えれば、睡眠を変えることも可能になります。 これまでにも「~時に就寝して~時に起床」など、さまざまな睡眠の方法が提唱されてきましたが、 悩みを解決できなかった人も少なくなかったはずです。それは「何時間眠ればいい」という発想にこだわり、 それを追いかけるうちに、結果的に睡眠の質を下げる行動を起こしてしまったからだと思います。

◆睡眠で自然とやる気を引き出す方法

このサイトをご覧になられる方は「もっとやる気を高めたい」「自分を成長させたい」と考えているはずです。 イメージトレーニングなどでやる気を引き出そうとする方も多いと思います。 しかし、無理にやる気を高めようとすると、いつか反動が出てしまう恐れもあります。 そこで、誰でもできる「睡眠のコントロール」を実践すれば、自然とやる気が湧いてきて、より充実した仕事ができるはずです。 当サイトでは、生活スタイルを大きく変えずに簡単な方法でよいサイクルを作っていきます。 大切なのは、自分で睡眠をマネジメントすることです。 「睡眠をコントロールする」と聞いても、どう操ればいいのかわからない人がほとんどだと思います。 そこで、まずはヒトの体が刻んでいるリズムなど、睡眠の基本的なメカニズムを学んでいきましょう。

【睡眠は「時間」よりも「質」が大切」】

睡眠は何時間眠ったかよりも、どれだけ質の良い睡眠ができたかが重要です。 まずは昼間の行動を変えるところから実践し、自分で睡眠をコントロールできるようにしていきましょう。 また、睡眠の基本的なメカニズムを知っておくのも大事なことです。


●脳内の”やる気”のメカニズム

◆人がやる気を出すシチュエーションとは?

睡眠コントロールにより、充実した時間が過ごせるようアプローチしていきますが、まず先に、やる気のメカニズムを 頭に入れておきましょう。例えば、あなたがある会社の営業マンで取引先の人を接待するとします。
①すでに付き合いのある相手と顔なじみの店に行く。
②すでに付き合いのある相手と、一度も行ったことのない店に行く。
③初対面の相手と、一度も行ったことのない店に行く。
この3つの中で、ヒトのやる気が一番高まるのはどれか?
正解は②の「半分はすでに経験済みだけど、残り半分は未知の領域」という状況です。 実は、ヒトは全く予想のつかない状況に直面すると、やる気が湧いてきません。 恋愛でも全く接点がなければデートに誘う気が起こらない・・・・・それと一緒です。 ある程度、「これをやったらこんな成果が得られる」というように、先が予想できないと、なかなか動く気になれないのです。

◆冒険するのは50%にしておく

しかし、ビジネスの世界では「未知の領域の取引先と、新規の事業を開拓する方がやる気が湧いてくる」と、 ③のような考え方が一番やる気が出ると考える人も多いと思います。 確かに未知の領域での仕事はテンションが高まります。しかし、それは「事業に失敗し、取引先を失うかもしれない」という 二重のリスクを恐れているからに他なりません。これは恐怖を克服するため脳が過剰な興奮状態に陥っているだけであり、 決してやる気が引き出されているわけではないのです。この状態だとそれなりの仕事をしただけで脳は頑張ったと勘違いをし、 「努力の割に成果が乏しい」という状況に陥ってしまうのです。 自分を奮い立たせるために、突然海外にボランティアへ行くとしましょう。 私たちは、一足飛びに違う自分になりたいという欲求がありますが、極端な変化は、逆に焦りを生んでしまうことがあります。 結論として、最もやる気が出るのは「50%はすでに知っている状況だけど、もう50%は未知の領域」というシチュエーションです。 100%知っている状況では行動もルーティンになりがちですが、半分ずつなら、既に得た経験を活かしながら 新しい課題に挑戦してゴールに向かうことができます。

【「50%の未知の領域」がやる気を生む!】

仕事の課題でも、最初はほとんど進まなかったのに、半分を過ぎたあたりからサクサク進み始めた経験はないでしょうか? 人間は経験することで、その先の課題や目標が具体的に形作られ、それに伴いやる気も出てくるのです。


●寝ている間に「経験」を脳内に根付かせる

◆「海馬」と「大脳」で物事を覚える作業を行う

「50%の経験、50%の未知」がやる気を最も引き出すシチュエーションであることを先述しましたが、この「50%の経験」は、 寝ている間に作られています。物事を覚えるのは起きているときに行う作業と考えがちですが、 実は眠っているときがメインの作業なのです。脳の中で記憶を司るのは「海馬」と「大脳」という部分です。 海馬は物事をすぐ覚えますが、忘れるのも早いのが特徴です。一方、大脳は覚えるまでに時間がかかりますが、 一度覚えたら長期間記憶しておくことができます。 物事を記憶するとき、まずは起きている間に海馬で覚えます。しかし、このままではすぐに忘れてしまい、記憶が定着しません。 そこで海馬から大脳に記憶を移す作業を行います。これを睡眠の最中に行うわけです。 この2段階のプロセスを経て、ヒトは物事を記憶するのです。 ヒトが睡眠時に物事を覚えるのは、寝ている間の脳は外部からの刺激(画像や物音など)がほとんどなく、 静かに集中できる環境にあるからです。この時、脳では覚えるために必要な神経を結び付け、情報伝達を混乱させる不要な神経を取り除く作業をしています。

◆睡眠で記憶を混乱させる無駄な神経を排除する

睡眠の質が良いと、神経をつなぐ通り道はより太くなります。通り道が太くなると、情報をスムーズに引き出しやすくなります。 その際、脳内の神経にある無駄な情報は排除してエネルギー効率を向上させています。 また、今まで結ばれていなかった神経同士がくっつくことで、新たな発想が生まれることもあります。 これが「ひらめき」であり、ひらめきが好調だと仕事においてもプラスにつながります。 仕事で結果が残せたのでさらにやる気が湧いてくるなど、さまざまなことが好循環で起こってきます。 ところが質の悪い睡眠が続いてしまったり、脳に効果的な睡眠が十分にとられていないと、神経をつなぐ作業が不十分になってしまいます。 こうなると記憶がうまく定着しなくなります。 脳内の情報が整理されるのは、睡眠あってこそなのです。最近は「朝活」などでスキルアップを図るビジネスマンも多いとおもいます。 起きている間に頑張ったら、必ず充実した睡眠を作りましょう。 スキルアップは質の高い睡眠とセットにすることで初めて実現するのです。

【必要な情報は睡眠中に生理されている】

何十万円もかけてセミナーなどに出席するビジネスマンもいますが、そこで学んだ知識や経験を脳内に根付かせるためには、 質の良い睡眠が必要です。効率よくスキルアップを図るコツは、睡眠にも重きを置くことなのです。


●「体内時計」で生活リズムを作る

◆人の体内は24時間ピッタリではない

ヒトの脳と体は、時間とともにリズムを刻んでいます。そのリズムには規則性があり、好調な時間帯には仕事がはかどり、 落ち込んだら活動できず、眠くなります。このリズムは生体リズムと呼ばれ、私たちの1日の流れを作っています。 このリズムは生体リズムと呼ばれ、私たちの1日の流れを作っています。人は疲れると眠れなくなりますが、 昼間働いている人が昼寝をしても、それほど長時間は眠れません。逆にあまり疲れていなくても、 普段寝ている時間帯になると眠くなるのは、ヒトが生体リズムに沿って生きている証しなのです。 生物の体内に備わっている、時を刻む仕組みを「体内時計」といいます。 人によってその長さは異なりますが、約24~25時間の周期で刻まれています。 時間の長さは動物の種類によって異なり、例えばラットなどは約23時間で推移しています。 寄って単純に計算すると、人間は1日1時間ずつ生活のリズムがずれて遅寝遅起きになり、夜行性のラットは1日1時間ずつ 生活のサイクルが早まり、活動する時間が短くなります。しかし生物の体内には24時間周期で活動できるよう、 リセットする機能が備わっています。例えば人の場合、起床後に光を見ると、1日のスタートが1時間早まり 体内時計がリセットされるので、毎日規則正しい生活を送ることができます。

◆ホメオスタシスが日々の変化を調整する

季節の変化や毎日の生活スケジュールが異なり、リズムが乱れることがあります。 そんな時に体内の環境を一定に保とうとする機能がヒトの体内にはあります。「ホメオスタシス」という機能です。 ホメオは「均等な」、スタシスは「状態」を意味します。身近な例でいうと、私たちは、①一定のリズムでのどが渇き、 水を飲むとトイレに行きますが、②大量に水を飲むとトイレの回数が増えます。 ①が生体リズムで、②がホメオスタシスです。外界の気温が上昇した時、体内の温度をそれに合わせて上げたり下げたりと 「正常」に保とうとするのもホメオスタシスの機能の一つです。 この体内時計とホメオスタシスがきちんと作用しないと、生体リズムが崩れて睡眠の質も低下してしまいます。 生体リズムを整えるポイントを理解しておけば、ホメオスタシス機能も向上し、これから学ぶ睡眠のコントロールも容易にできるはずなのです。

【体の機能を保つホメオスタシス】

体を平常に保とうとするホメオスタシスは「生体恒常性」ともいわれ、人間の体を安定状態にしようとする働きを持ちます。 これに異常が生じると自律神経失調症など、身体的・精神的な病を引き起こしてしまうケースもあります。


●3つのリズムで睡眠をコントロール

◆メラトニンが増えるとヒトは眠くなる

前項で生体リズムに触れましたが、ヒトの生体リズムには、3つの”リズム”が存在します。

  • ・メラトニンリズム
  • ・睡眠-覚醒リズム
  • ・深部体温リズム

メラトニン は睡眠を促す働きがある物質で、納豆などの大豆製品に多く含まれるトリプトファン(必須アミノ酸)が 原料となっており、脳内でセロトニンに変化したあと、メラトニンになります。 メラトニンは不眠治療に用いられるほか、海外ではサプリメントとして販売もされています。 また、抗癌作用や性腺機能を抑制する作用、エネルギーを使った後に発生する活性酸素を除去する作用もあります。 昼間はほとんど分泌されないメラトニンですが、夜になり、自身の周りが暗くなると、急速に脳内の濃度は上がってきます。 基本的には夜の9時頃から分泌が盛んになり、夜の11時くらいに眠気を誘いやすい状態になります。 眠ってから3時間後に分泌がピークになり、朝方に減少し、覚醒しやすい状態になります。 このようなリズムを持っているので、朝のメラトニンをしっかり減らすことは、夜のメラトニンを増やすことにつながります。 メラトニンのリズムは光に当たる時間によって変化するため、「体外リズム」とも呼ばれています。 これに対し、「睡眠-覚醒リズム」と「深部体温リズム」は外界の影響を直接受けるわけではないので、 「内的リズム」と呼ばれています。

◆脳の働きを維持させる「睡眠-覚醒リズム」

脳には判断や優先順位を決める「大脳」と、睡眠を引き起こす神経がネットワークを作る「脳幹」という場所があります。 そして、この脳の働きを維持するためのシステム「睡眠-覚醒リズム」なのです。 大脳を眠らせるためのシステムは、起床から8時間後と22時間後に発動します。 例えば、朝6時に起きた場合、8時間後の午後2時、そして22時間後の明け方4時が最も眠くなる時間帯になるわけです。 睡眠-覚醒リズムはすぐにずれてしまうもので、例えば朝、光を感知することなく1日をスタートさせただけで、 メラトニンリズムに同調してリズムが後ろにずれてしまうことがあるのです。

【それぞれ違う波を持つ「睡眠のリズム」】

3つのリズムはそれぞれ違った動きが示し、一つでも崩れると睡眠に支障を来すようになります。 従って、事前に「これから忙しくなるだろう」と予測できる場合は、リズムが狂わないようにする作戦をあらかじめ練っておくのも手です。

▼メラトニンリズム
・メラトニンが、たくさん分泌されると眠くなる。
・夜間に分泌量が多くなり、朝方になると減少する。
・光に当たる時間によって変化する(外的リズム)。
・メラトニンは基本的に夜の9時ごろから分泌が盛んになり、眠気を覚え始める。
▼睡眠-覚醒リズム
・脳の働きを維持するためのリズムで、起床から8時間後(14時)と22時間後(明け方4時)に大脳を休ませる機能が発動する
・外界による影響は受けにくい(内的リズム)。
・ちょっとしたことでリズムが崩れやすい。
・メラトニンリズムが送れるとすぐに同調して遅れる。
▼深部体温リズム
・体内の深部の温度が変化するリズム。
・起床から11時間後(17時)に最も高くなり、22時間後(明け方4時)に最も低い状態に。
・外界による影響は受けにくい(内的リズム)。
・リズムは崩れにくいが、一度崩れると元に戻すのに時間がかかる。

●リズムを整え、睡眠をマネジメントする

◆3つのリズムが乱れて発生する「内的脱同調」

すぐにずれてしまう「睡眠-覚醒リズム」とは対照的に、なかなか崩れないのが「深部体温リズム」です。 これは、体の内部の体温が変化するリズムのことで、起床から11時間後に最も高くなり、22時間後に最も低くなります。 例えば朝6時に起床した場合、体温は夕方5時に最も高くなり、早朝4時に一番低くなるわけです。 睡眠の質は、この3つのリズムの調和が崩れることで低下してしまいます。 こうしたリズムのズレを「内的脱同調」といい、この状態が続くと睡眠は浅くなり、 昼間もうつうつと眠くなってしまいます。この状態が2~3週間続くと深部体温リズムまで崩れてしまい、 元のリズムに戻すのが困難になってしまいます。内的脱同調を防ぐには、起床後に光を浴びることでメラトニンリズムを整える必要があります。 もし光を浴びるのが難しい場合は、他の2つのリズムをずらさないことでカバーしましょう。

◆ビジネスマンに必要な睡眠コントロールの技術

こうした睡眠のメカニズムを把握しておけば、睡眠の質を高め、なおかつやる気をアップさせる方法を考えるのも 楽しくなることでしょう。しかし、日々忙しい生活を送っているビジネスマンにとって、規則正しい生活を送るのは至難の業です。 早寝早起きが体にいいことは言われなくてもわかる話ですが、それがなかなかできないからこそ、睡眠の悩みは尽きないのです。 睡眠の質が悪い状態が続くと仕事のパフォーマンスも悪くなり、ストレスが重なって不眠になり、 また、体調が悪くなり・・・・・と、そんな悪循環に陥ってしまいます。
そこで提案したいのが、やる気がアップし、なおかつ仕事の質も高められる「睡眠をコントロールする技術」です。 実際にこのやり方を実践したビジネスマンの方からは、よく「頭が冴えるようになった」という声が聞かれます。 それは質の良い睡眠がとれるようになったことで、脳が不必要にな情報を捨て、必要な情報を新しく仕入れられるようになったからです。 この「睡眠をコントロールする技術」において欠かせないのが「ピークシフト」なのですが、 それについては第1章以降でじっくりと紹介していきます。

【3つのリズムからわかる睡眠の法則】

この3つのリズムのメカニズムを知って「面白い!」と感じるようになれば、睡眠のマネジメントは自ずとうまくいくはず。 まずは睡眠の仕組みについて興味を抱くことが、質の良い睡眠生活を送るための第一歩なのです。