降圧剤(薬)をやめる②「生活習慣改善の勧め」

降圧剤を飲むと「脳卒中死が少し減り」「心筋梗塞死が増え」「寿命は延びない」降圧は生活習慣改善で!


■「降圧剤は一生止められない」は大げさ

「高血圧の薬を飲み始めると、一生止められない」という話が、都市伝説のように伝わっています。 しかし、血圧には体質や生活習慣が関係しています。 薬を止めて元に戻ることはあっても、治療前より悪くなることはありません。 「一生止められない」は大げさすぎる話です。薬に頼りすぎた高血圧治療の実態にも、疑問があります。 メタボ検診では最高血圧130mmHg未満、最低血圧85mmHg未満のいずれかを外れると「高血圧のリスク有り」と判定され、 血圧を下げるための生活指導を受けます。それで改善しなければ医療機関の受診になります。 医療機関での治療は通常、ガイドラインに沿って進められます。 糖尿病や腎臓病などの病気がなければ、まず生活指導を数ヵ月間受け、それで最高血圧が140mmHg未満、 最低血圧が90mmHg未満に下がらなければ、薬による治療が始まります。

このようにメタボ検診でも、ガイドラインでも、生活習慣の改善は必須とされています。 しかし、生活習慣の改善には時間と根気がいるもの。 医師不足が言われる昨今、血圧が高ければ、直ちに薬が処方されることもあるのではないでしょうか。 もちろん、高血圧は脳卒中(脳出血、脳梗塞など)の重大な原因ですし、放置をすれば心不全や心筋梗塞の発症リスクも高まります。 ただし、血圧が上がるには、何らかの理由があるものです。 例えば、年を取るだけでも血管の柔軟性が失われ、血液を体の隅々に送りにくくなるため、血圧は上がります。 直接的な原因は血管の老化にあることが多いのですが、そこに間接的にかかってくるのが肉体的、精神的ストレス、 過剰な塩分摂取、喫煙、肥満、運動不足など生活上の問題です。 こうした問題点を解消することで、血管に柔軟性が戻り、血圧が上がる理由がなくなれば、 おのずと脳卒中や心臓病の発症リスクは低減し、元気で長生きできる確率が高まるわけです。

では、生活習慣の改善なしに、薬だけで強引に血圧を下げると、どうなるのでしょうか。 それを明らかにしたのが、1980年代に相次いで発表された「サイアザイド系利尿剤」の大規模調査データです。 この薬は、降圧剤としてもっとも古くから使われてきたもので、尿の量を増やして血圧を下げる作用があります。 たとえ薬で血圧は下がっても、結果的に脳卒中など、致命的な病気の発症や死亡を防げなければ、長寿には結び付きません。 残念ながら、これらのデータでも、またその後に行われた数多くの大規模調査データでも、 サイアザイド系利尿剤の長寿効果は確認できませんでした。 この薬を長く飲み続けると、

①脳卒中による死亡率がわずかながら減少する。
②心筋梗塞による死亡が増える(または減らない)。
③寿命が延びることは決してない


以上が、大規模調査で得られた結論でした。 この3つは、以後発売されるどの降圧剤にも認められ、あたかも高血圧治療にかけられた呪縛のような存在になっているため、 私はこれを「呪縛三原則」と呼んでいます。


■どこかの時間帯で血圧が下がりすぎる

なぜ、高血圧を改善する薬で心筋梗塞が増えるのでしょうか。 また、血圧は下がったのに、なぜ寿命が延びないのでしょうか。 実は、サイアザイド系利尿剤を長く服用していると、血液中のコレステロール値、中性脂肪値、血糖値が徐々に上がるという、 思いもよらぬ事態が起こることが、調査の結果で分かっています。 すなわち、これらの物質が血管壁を傷つけ、心筋梗塞などの病気を引き起こすのです。

また、寿命が延びない理由に関しては、薬の効き過ぎによる弊害も考えられています。 高血圧症には、朝だけ高いタイプ、夜だけ高いタイプなど、体質によって違いがあります。 それを無視して1日3回、薬の服用を続けていると、どこかの時間帯で血圧が下がりすぎてしまうことがありうるわけです。 そのために脳の血流が低下して、めまいが起こったり、思考力が鈍ったりすれば、事故に遭遇しやすくなるかもしれません。 実際、降圧剤の服用者に交通事故が多いと論じた論文、あるいはうつ病による自殺者が増えるというデータもあります。

繰り返しますが、医療の最終目標は元気で長生きすることです。 高血圧もきちんと検査を受けたうえで、緊急治療を要しないこと、脳や腎臓、心臓などに異常がないこと、 あっても軽度であることが確認されたら、積極的に生活習慣の改善を図る。 それが、最も確実な長寿への道といえるでしょう。

最後に、具体的な生活習慣の改善について考えてみましょう。とりわけ運動は大切です。 運動をする人としない人を比べたら、8年後、10年後の死亡率が2倍も3倍も違っていたというデータが続々出てきています。 心拍数がやや上がるくらいの運動を1日30分、週3回は行いましょう。
塩分の摂りすぎも要注意です。「国民の塩分摂取量を平均6g下げたら、最高血圧が男性で平均10mmHg、 女性で平均15mmHgも低下した」という報告があります。
また、野菜や果物をたくさん食べることも大切です。 さらに欧米での大規模調査から、小麦を精製せずにまるごと粉にした全粒粉のパンを食べている人は血管が丈夫で、 寿命も圧倒的に長いことがわかっています。
生活習慣の改善は、ときに薬に勝るものです。

【関連項目】:『運動不足解消』 / 『高血圧対策食品・食事』