減塩で血圧を下げる

高血圧を引き起こす生活習慣の中でも特に気を付けたいのは、塩分の摂り過ぎです。 日ごろの食事の塩分量をよく知り、減塩食品を活用するなどして、減塩生活を心がけましょう。 「減塩すると美味しくなくなる」というのは誤解です。 少しの工夫で、美味しく減塩できて、高血圧の改善に繋がります。
●減塩したつもりはNG!
●減塩は血圧を確実に下げる!
●お勧めは一品豪華主義


■減塩の取り組み

減塩しやすい環境づくりを進め、効果が出ているケースもある

高血圧の予防・改善には、
運動や減塩などの生活習慣の改善が欠かせません。 運動は自分に合った運動を日常生活の一部に取り入れ、続けます。医師とよく相談し、無理のない範囲内で行いましょう。 生活習慣の改善の中でも第一に取り組むべきなのが減塩です。 一人一人の心がけや努力が大切な一方、行政や企業などが、減塩しやすい環境づくりに取り組んでいる例もあります。
イギリスでは、国の政策として、食品メーカーに対し、加工食品に含まれる食塩の量を減らすよう商品ごとに数値を定め、その達成を求めました。 その結果、イギリス国民の血圧が下がったり、脳卒中や心筋梗塞の死亡率が低下するなど、大きな成果が上がりました。 これは行政機関を筆頭に食品メーカーなどが一丸となって、時間をかけて少しずつ塩分を減らすという対策をとったことで、 消費者が気付かないうちに自然に減塩でき、病気の予防・改善につながった例です。 このように高血圧になりにくい社会の仕組みや環境を作っていくことも必要だと考えられます。


■高血圧と塩分の関係

塩分の摂り過ぎで血液量が増えて、血圧が上がる

私たちの体は、塩分と水分が一定に保たれるように調節機能が働いています。 血液中に含まれる塩分の濃度も、常に約0.9%と一定に保たれており、それよりも濃度が高くなったり、低くなったりすると生命活動を続けることができません。 この調節機能を担っているのが、腎臓です。食事で塩分を摂りすぎると、腎臓は余分な塩分を濾過して、水分と一緒に尿として排出し、塩分濃度を調節します。 塩分を摂り過ぎれば、それだけ腎臓の負担が大きくなります。 ”辛いものを食べると喉が渇く、水が飲みたくなる”のは、血液の塩分濃度を0.9%に保つために体内の水分を増やそうとするためです。 これにより血液量も増え、血管の中の圧力、すなわち血圧が上がります。 この上がった血液を利用して、腎臓は水と塩分を尿として体の外に出し、バランスを取ります。 このバランスが取れずに血液量が増え続ける、つまり、腎臓が処理しきれないほどの塩分を摂りすぎていると、血圧の上昇が続き、 そして長期的には、上がった血圧が血管や腎臓を傷めて、さらに血圧を上げるという悪循環になってしまうのです。 厚生労働省の基準では、1日の塩分摂取量を健康な男性なら8.0g未満、女性なら7.0g未満に抑えるよう、推奨しています。 高血圧のある人の場合、日本高血圧学会では、男女とも6.0g未満に抑えることを推奨しています。 しかし、実際の塩分摂取量の平均は男性は1日11.0g、女性は9.2g。以前に比べると日本人の塩分摂取量は減っていますが、まだまだ多いのが現状です。


■個人差はあるが、まずは減塩を試みるべき

ある管理栄養士の話では、高血圧の患者さんの中には減塩しているのに血圧が下がらないと訴える人が多いそうです。 これは、どういうことでしょうか。実は、そうしたことが起こる原因ははっきりしています。 本人は減塩しているつもりでも、それが正しい減塩になっていないのです。 食事を全般的に薄味にしていれば、それで減塩になっているかというと、そうではありません。 減塩の漬け物でも、薄味だからといってたくさん食べれば、総計した塩分摂取量がかえって多くなってしまうことはしばしばあります。 また、外食や加工食品には、塩分がかなり含まれています。 例えば、菓子パンやお菓子などは甘いだけではなく、相当量の塩分が入っています。 ですから、他で塩分を減らしているつもりでも、外食を頻繁に食べたり、間食をたくさん食べたりしていれば、 自分でも思っていない形で塩分を多量に摂っていることになるのです。 最も困るのは、きちんと減塩できていないために血圧が下がらないのが真相なのに、いっこうに血圧が下がらないことにじれてしまうケースです。 減塩には意味がないと、減塩をやめてしまうのです。 食塩感受性は人により異なるため、減塩の降圧効果には個人差があります。 しかし血圧が高い人はまず減塩を試みるべきです。食塩に感受性のある人がきちんと減塩すれば、血圧は下がってきます。


■減塩を続けると、高血圧、脳卒中、心臓病のリスクが減る

塩分の摂り過ぎは高血圧の発症に大きく影響します。 特に日本人は食塩の摂取量が多く、平均で、世界保健機関(WHO)が推奨する1日当たりの摂取量(5.0g)の2倍となる9.9gもの食塩を摂っています。 また、日本高血圧学会でも、高血圧のある人に対して1日当たりの食塩の摂取量の目標値を6.0g未満に定めていますが、 それも達成されていません。多量の塩分を摂り続けていると、血圧は確実に高くなります。 逆に言えば、減塩を長く続けると、血圧の上昇を抑えることができるのです。 1日当たりの食塩の摂取量と加齢による血圧の変化を調査した研究でも、このことを示す結果が出ています(下図参照)。 また、減塩によって血圧が下がると、 脳卒中心筋梗塞などを発症して命を落とすリスクも激減することがわかっています。 さらに減塩には、血圧そのものを低下させる効果以外に、降圧薬の効きをよくするなどさまざまな効果が期待されます。 また脳卒中や心不全、腎不全など命に関わる病気のリスクを減らす効果があるとも考えられています。

【国を挙げて減塩に取り組んだイギリス】
イギリスでは、2003年から11年にかけて、国を挙げて減塩に取り組みました。 その結果、国民全体で、上の血圧が平均で3.0mmHg、下の血圧が平均で1.4mmHg低下し、脳卒中や心臓病による死亡率はそれぞれ約40%減少しました。

食塩の摂取量と血圧との関係


■減塩の基本

減塩の工夫や塩分の多い食品を知り、選択すること

普段の食事で減塩する場合、まずは調味料の使用法などから見直していきましょう。 食塩を減らして”だし”を使うようにする、醤油やソースは”かけない”で”つけて”食べる、 スパイスやレモンなどで味にアクセントをつけるなどの工夫で減塩ができます。 現代の食生活では、加工食品に含まれる塩分も見逃せません。 私たちがよく食べる身近な加工食品にはたくさんの塩分が含まれています。 また、それらの加工食品に含まれる塩分は、調理の工夫をするだけでは減らすことが難しい面もあります。 しかし、自分の食べたいものを全く”食べない”というのは大きなストレスになり、日々続けていくことは難しいものです。 そこで大切なのが、できるだけ塩分の少ないものを自分で知っておき、選べるようにしておくことです。 まずは、身近な加工食品に塩分がどれだけ含まれているかを知ることから始めましょう。

平成27年に施行された食品表示法では、加工食品のパッケージの栄養成分表示に「食塩相当量」を記載することを義務付けています。 従来は、ナトリウムの量が表示されていましたが、消費者が減塩しやすいように、食塩の量で表示するようになりました。 このように栄養成分表示を確認する習慣をつけることで、減塩につながる選択ができるようになります。 例えば同じ加工食品でも、減塩タイプのものを選んだり、できるだけ塩分の少ない食品を選ぶことで、少しでも塩分量を減らしていきましょう。
日本高血圧学会では、学会独自の基準を満たした減塩食品のリストをホームページで公開しています。 また、減塩化の推進に成果を上げた減塩食品や調味料も一度発表しています。 こちらも日本高血圧学会のホームページで見ることができるので、参考にしてください。 現代の食生活は”孤食(個食)の時代”とも呼ばれ、一から自分の手で調理をしないことが増えていて、加工食品を利用する機会が多くなっています。 そのような食生活の中で、1gでも塩分摂取量を減らせるように、減塩を習慣化していきましょう。


●「減塩食品」を上手に使うことが無理のない減塩のコツ

血圧を下げるためには、減塩を長く続けていくことが大切です。次の2つのことに取り組むことで、無理なく減塩できます。

①いつもの食品を減塩食品に置き換える
最近は、減塩食品の種類が非常に増えてきています。例えば、普段よく食べるお菓子や漬物、おつまみなど、置き換えやすいものを減塩食品に替えるだけでも、 十分な減塩効果が期待できます。

②料理の材料を減塩食品にする
お菓子や漬物類などのようにそのまま食べる食品だけでなく、練り物などの加工食品や麺類、調味料などにも、減塩タイプのものが多くなってきています。 そこで、料理をするときにも、材料として減塩食品を活用することで、簡単に減塩することができます。 特に、日本人が普段摂っている塩分のうち、多くを占めているのが「醤油」です。 日々の料理で使う醤油などの調味料を減塩タイプにすることは、とても効果的です。 以前は減塩食品というと”美味しくない”というイメージもありましたが、最近はさまざまな商品が開発され、味のよいものを選ぶことができます ぜひ活用して減塩に取り組んでください。

【半分減塩醤油でよい】
一気に「減塩醤油」に切り替えることに抵抗があるという場合は、「減塩醤油と普通の醤油を半分ずつ混ぜて使う」ことから始めるのもお勧め。 使うたびに、小皿に半量ずつ入れて混ぜたりして使う。


●煮物を食べるなら他のものは無塩で

日本高血圧学会のガイドラインが推奨する、高血圧の患者さんの1日の塩分摂取量は、6g未満。 ですが、よほど食事の管理を徹底的にやらないと、1日6g未満は達成できないのが実情です。 しかし、1日6g未満の塩分摂取を実現できると、血圧は下げられるといわれています。 が、かなり徹底した減塩を行えば血圧が大きく下がるのは確かですが、 大半の人には、塩分を1日6g未満まで制限することはハードルが高すぎて、減塩そのものを続けられない人が少なくありません。 極端な減塩よりも、まず自分の食生活を見直して、少しずつ改良していくことが大事です。

そのための工夫はいろいろあります。例えば、意外に塩分を含んでいる食品を控えるのも一つの方法です。 菓子パンなどの間食以外にも、干物やハム、練り物などの加工食品には塩分が多く含まれています。 また、外食すれば、一食で塩分量は跳ね上がります。ことに男性の場合、自分で料理を作る人はごく少数ですし、 外食も多くなりがちで、減塩がかなり難しくなります。 ですから既婚者であれば、昼食に減塩のお弁当を奥さんに作ってもらうといいでしょう。 テレビでも紹介されましたが、一品豪華主義というのも勧められる方法です。 これは、おかずのうち一品だけ味を普通に付け、他はほぼ無塩にするものです。 例えば、煮物はどうしても塩分が強くなります。煮物を食べるなら、他のものは無塩で食べるようにするのです。


●カリウム豊富な野菜で塩分の排出を促す

パンや麺類よりも、白米や玄米などの方をお勧めします。パンや麺類は、それを食べるのに余計な塩分が必要になりますし、 パンや麺自体にもすでに食塩が入っているからです。その点、米は無難です。 おかずは必要ですが、おかずをうまく塩梅すれば、比較的減塩に使いやすい食品です。 また、日頃から塩分を摂りすぎている人は、おかずの量が多いものです。 おかずの品数が増えれば、当然塩分摂取量も増えてしまいます。 ご飯以外は、肉や魚などのメイン一品に、あと二品、計三品のおかずで十分な栄養が摂れます。 夕食のおかずが多すぎる場合、それを三品まで減らしましょう。 みそ汁やスープは具だくさんにしてスープは少なめに。ラーメンなどはできるだけスープを残しましょう。 ほかにも、漬け物、佃煮は控える。カリウムの豊富な野菜を多く摂り、塩分の排出を促す。 塩味の味付け代わりに、酢や昆布といったうま味成分を上手に使うなどなど。工夫の余地はたくさんあります。 まずは自分のできそうなことから始めてください。
いずれにしても、高血圧を改善していくためには、減塩の重要性はいくら強調しても強調しすぎるということにはなりません。 高血圧に悩んでいる人には、減塩しているつもりで、実際には減塩になっていない「つもり減塩」ではなく、 着実に塩分を減らす実践的な減塩を、是非お勧めしたいと思います。