本当は危ない降圧習慣

1987年の富士登山から25年も血圧を24時間測定したら、血圧の急上昇を招く意外な原因が判明。


■携帯型自動血圧計を着用し25年たった

健康な人でも、1年に1回は健康診断で「血圧」を測ります。私は、その血圧測定に命を懸けています。 24時間、365日、元気な時でも病気をした時でも携帯型自動血圧計を肌身離さず装着し、ひたすら自分の血圧を測り続け、 すでに25年もたちました。私が血圧を24時間連続測定するようになったきっかけは、1987年8月22日の富士登山です。 登山で毎年のように犠牲者が出る「高山病(高地での酸欠による病気)」の予防法を研究するため、 登山中の血圧や心電図の変化をとらえようと、医師4人でチームを組み、携帯型自動血圧計とホルダー心電計を身に着けて、富士登山に挑んだのです。 ちなみに、この時の研究では、富士山滞在中でも平地にいる状態でも、1日の血圧の平均値はそれほど大差がない、という結果になりました。

富士山から下山した後、私以外の3人は携帯型自動血圧計とホルター心電計を外しましたが、私だけはその後も携帯型血圧計を 着けることにしました。というのも、下山後にロンドンで学会があり、その時の時差ボケにおいて、 血圧がどのように変化するかを知りたかったためです。
そうして時差ボケが治まった一か月後にいよいよ携帯型自動血圧計を外そうとしたところ、 恩師からもう1ヶ月続けてみたらどうかといわれ、私はそのまま着け続けることにしました。 それからずるずると、半年、1年と携帯型自動血圧計を着用。以後、「サーカディアン・リズム」といって 体内の24時間周期についての説を生み出した世界的権威のあるハルバーグ博士からもお褒めの言葉をいただくなどして 携帯型自動血圧計を着け続け、かれこれ25年間経った、というわけです。


■高血圧治療のヒントになっている

さて、この文章の一番最初、健康な人でも1年に1回は血圧を測っていると述べましたが、 この時に出た数値が常に保たれていると思っている人はいないでしょうか。 健康情報が広く知れ渡った現在、そう考えている人は少ないはずです。 血圧は、心臓が一度拍動(収縮と拡張)するたびに変わります。 心臓が1分間に70回拍動するとして、1日に10万回も拍動することになり、そのたびに血圧の数値も変わります。 仮に80歳まで生きたとすれば29億回も心臓が拍動しているわけで、血圧だって29億回も違う数値になります。 そのため、1年に1回程度の血圧測定では、それがどのような状態を示しているかを判断することができません。 これは、血圧を24時間連続測定している私にもいえることで、血圧が示す数値の意味を理解するのは非常に難しいのです。 とはいえ、24時間連続測定することは、間違いなく高血圧治療のヒントになっています。 そのヒントをどのように読み、そして謎を解くかは、これからも私が考えていくべき、一生のテーマになっています。


■血圧の急上昇を避けることが最も重要

ところで、高血圧治療の大切なヒントとして、皆さんに述べておきたいことがあります。 それは、血圧の急上昇をもたらす原因をできるだけ避けることです。 高血圧で怖いのは、脳卒中や心筋梗塞などの命取りの病気を突然引き起こすこと。 高血圧には特別な自覚症状はありませんが、放っておくと血管の動脈硬化が進み、血管が詰まったり、血栓が生じたりして 脳梗塞や心筋梗塞の危険が高まります。また、脳の血管が破れる脳出血や目の奥の網膜の血管が破れる眼底出血なども 起こりやすくなります。眼底出血が起こると、最悪の場合は失明に至ります。

こうした脳卒中や心筋梗塞が起こる背景には、血圧の急上昇が隠れている場合が多々あります。 例えば、朝一番の寒いトイレの中での脳卒中。これは寒さ・排便時の生きみなどによって血圧が急上昇することで 血管が一気に傷んだために起こった、と真っ先に考えられるからです。 だから、高血圧の人は、血圧を急上昇させる原因を取り除く必要があります。

また、高血圧でなくても、血圧が急上昇することを繰り返し行っていると、次第に血圧が高値で安定し高血圧に進んでしまう 場合もあるため、高血圧の人と同じく血圧を急上昇させる原因を取り除く必要があります。 血圧を急上昇させる原因は、いくつもあります。実際問題として、皆さんが血圧を下げるために行っている習慣が、 実は血圧の上昇につながることもあります。そこで、今回の特集では、血圧を上げる意外な原因とその対処法について 述べていきましょう。