高血圧の診断基準値・管理目標値

高血圧と判定されればすべての人が治療の対象となりますが、リスクの高い人ほど速やかに血圧を下げる必要があります。 また、血圧は常に変動しています。医療機関で測る値だけではなく、日常生活の中での血圧も調べる必要があります。 普段から血圧が高いようなら、早い段階から治療を開始することが大切です。


■高血圧の診断基準値

基準値は変更なし

何回かに分けて血圧を測定し、値が安定した2回以上の平均値で、 収縮期血圧が140mmHg以上か拡張期血圧が90mmHg以上であれば、「高血圧」とします(二次性高血圧症を除外)。 血圧が高いことがわかったら、重症度を判定するために眼底検査、心臓の超音波検査、胸部X線検査、腎臓の検査などを行い、 高血圧以外に心血管病(心筋梗塞や脳卒中など)の危険因子や臓器障害がどれだけあるかによって、心血管病の発症リスクを判定し、それに応じて治療を進めます。 高血圧と判定されればすべての人が治療の対象となりますが、リスクの高い人ほど速やかに血圧を下げる必要があります。 まずは、血圧を140/90mmHg未満に下げることが目標になりますが、若い人では、130/85mmHg未満を、糖尿病や腎障害などがあれば130/80mmHg未満を目標にします。

【関連項目】:『血圧の測り方』



■高血圧症の降圧目標値

高血圧の基準値は据え置くも降圧目標値を10㎜Hg引き下げ

高血圧のある人が、治療によって血圧を下げるときに目標とする値を「降圧目標」といいます。 その降圧目標が、2019年からより厳格な値になりました。

●75歳未満の成人の場合

日本高血圧学会は、「高血圧治療ガイドライン2019」を発表しました。 新しいガイドラインでは、高血圧の基準値、つまり高血圧の治療を開始する血圧の基準値は、 従来の、診察室血圧で140/90㎜Hg、家庭血圧で135/85㎜Hgに据え置かれました。 一方で、成人の降圧目標値を10㎜Hg引き下げています。 日本高血圧学会によれば、国内外で行われた14の臨床研究データを解析した結果、 降圧目標値を従来の140/90㎜Hg未満から改訂値の130/80㎜Hg未満に下げることにより、 脳卒中の発症リスクが22%、 心筋梗塞心不全といった心疾患の発症リスクが14%引き下げられることが明らかになったとしています。
今回の改訂により降圧目標値、つまり降圧治療を始めた患者が目標とすべき血圧の値が10㎜Hg引き下げられたのは、 75歳未満の成人患者では最高血圧と最低血圧の両方、75歳以上の患者では最高血圧のみで、最低血圧はこれまでと同じです。 また、糖尿病を合併している高血圧患者や蛋白尿陽性の 慢性腎臓病(CKD)患者、 抗血栓薬服用中の高血圧患者などの降圧目標値は、従来どおりとなっています。

日本高血圧学会が改訂した「高血圧治療ガイドライン2019」では、降圧目標値は下表のように設定されています。 今回の改訂のポイントで、特徴的なのは、「正常血圧」を最大血圧120mmHg、最小血圧80mmHg、 「正常高値血圧」を最大血圧130mmHg、最小血圧80mmHgとより厳格に定め、 重篤な病気を招きやすい危険因子の有無や数によっては治療をすべきだと示したことです。 正常高値血圧は、正常範囲内でも少し高めの高血圧予備軍ともいうべき状態で、超軽症高血圧ともいえます。 しかし、軽症高血圧といえども危険因子の数によっては 脳卒中心筋梗塞の危険が非常に大きいため、 必ずしも軽症とは言えず、従来は最大血圧が140ミリ以上、最小血圧が90ミリ以上の高血圧では、これまで数値によって、 軽症高血圧(最大血圧が140~159ミリ、最小血圧が90~99ミリ)、中等度高血圧(最大血圧が160~179ミリ、最小血圧が100~109ミリ)、 重症高血圧(最大血圧が180ミリ以上、最小血圧が110ミリ以上)の3種類に分類されていましたが、 今回の改訂ではそれぞれⅠ度高血圧、Ⅱ度高血圧、Ⅲ度高血圧と分類名が改められました。 さらに、今回の治療ガイドラインでは、血圧の数値に加え、危険因子の有無や数によって、 将来の脳卒中や心筋梗塞の危険度が低リスク・中等リスク・高リスクの3つに分類されています。


高血圧症の診断 診察室血圧 家庭血圧
  上の血圧 下の血圧 上の血圧 下の血圧
正常血圧 120未満 80未満 115未満 75未満
正常高値血圧 120~129 80~84 115~124 75~79
高値血圧 130~139 85~89 125~134 80~84
Ⅰ度高血圧 140~159 90~99 135~144 85~89
Ⅱ度高血圧 160~179 100~109 145~159 90~99
Ⅲ度高血圧 180以上 110以上 160以上 100以上
(孤立性)収縮期高血圧 140以上 90未満 135以上 85未満


高血圧を治療する最大の目的は、脳卒中や心筋梗塞など、脳や心臓の血管の病気を未然に防ぐことです。 そのためには、血圧を「130mmHg未満/80mmHg未満」に抑えた方が効果が大きいことが、数多くの研究によってわかってきました。 そこで、降圧目標が変更されたのです。


●75歳以上の場合

75歳以上では、原則として「140mmHg未満/90mmHg未満」と75歳未満に比べて降圧目標は少し緩く設定されています。 これは、高齢者を対象とした研究結果を総合的に分析した結果を反映したものです。 75歳以上の人では様々な合併症や体力の個人差のために、一律に降圧目標を決められない場合が多くあります。 降圧薬を飲んでいて、気になる症状がある場合は、きちんと医師に伝えて、薬の量や種類を調整してもらってください。


■高血圧の怖さは自覚症状がなく進行すること

高血圧は、自覚症状がほとんどないまま進行し、突然、脳卒中や心筋梗塞などの重大な病気を引き起こすため、”サイレントキラー(静かな殺し屋)”と呼ばれます。 日本では、1年間に約10万人が高血圧によって亡くなっていると推定されています。 高血圧は、脳卒中や心筋梗塞などだけでなく、心不全や腎不全の原因にもなります。 また、高血圧が認知症の発症にも影響することがわかっています。 脳や心臓、腎臓が高血圧の影響を受けやすいことには、これらの部位の動脈の構造が関係しています。 例えば、腕の場合は太い動脈が徐々に枝分かれして細くなっていくので、血管にかかる圧力は少しずつ弱くなっていきます。 それに対して、脳では直径3~6mmの動脈から0.1mm以下の穿通枝という細い動脈に、心臓では直径が2.5cmもある大動脈から2~3mmの冠動脈に、 腎臓でも直径3~5mmの動脈から0.05mm以下の細い動脈に、急に枝分かれします。 そのため、太い動脈にかかっている圧力が、そのまま細い動脈に伝わり、血管がダメージを受けやすくなるのです。


■降圧目標を達成するためには?

高血圧の多くは、主に塩分の摂り過ぎ、運動不足、お酒の飲み過ぎ、喫煙などの生活習慣が原因で起こります。 高血圧と診断された場合はまず、生活習慣の改善に取り組んでください。 また、予防のために、現在は高血圧がない人でも、これらの生活習慣がある場合は改善しましょう。

▼減塩
日本では、高血圧を引き起こす最大の原因は「塩分の摂り過ぎ」です。 高血圧の対策には減塩が欠かせません。
【関連項目】『減塩で血圧を下げる』

▼肥満の解消
塩分の摂り過ぎと並んで肥満も高血圧に大きく影響します。 特にお腹に溜まる内臓脂肪は、さまざまな物質を分泌して血圧を上げる原因になります。 逆に体重を減らすと、高血圧が改善することが多くの研究によって明らかになっており、「体重を4kg減らすと、上の血圧が4.5mmHg、下の血圧が3.2mmHg下がる」 などの報告があります。食事の仕方などを見直し、ゆっくり体重を減らしましょう。
【関連項目】『体重管理で血圧を下げる』

▼運動を習慣にする
運動を2ヵ月間続けると上の血圧が5~10mmHg下がり、運動を止めると1ヵ月程度で元の血圧に戻るといわれています。 運動には、ストレスの解消、糖尿病・脳卒中・心筋梗塞・認知症の予防のほか、骨が丈夫になるなどの効果もあります。
【関連項目】『運動で血圧を下げる』

▼禁煙する
喫煙は、血管を収縮させたり、動脈硬化を進めて脳卒中や心筋梗塞のリスクを高める必ず禁煙してください。
【関連項目】『禁煙で血圧を下げる』

▼節酒する
お酒の飲み過ぎも高血圧に影響します。お酒を飲む場合は、男性では、1日に日本酒なら1合まで、ビールなら中瓶1本まで、 ウィスキーならダブルで1杯までとし、女性はその半分程度とします。

■その他

●高血圧予備軍

高血圧ではないものの、理想的な血圧でもない場合は、いわゆる「高血圧予備軍」と呼ばれています。 平均年齢が55歳の約1万2000人を対象にした調査では、高血圧予備軍の人は36.6%を占めました。 特に注意を要するのは、予備軍の中でも収縮期血圧が130~139mmHgの人です。 こうした収縮期血圧が高めの人は、将来、高血圧になる確率が非常に高いのです。 高血圧の人だけでなく、まだ、高血圧でない人も、ふだんから家庭血圧を測り、自分の本当の血圧を知っておくことが大切です。


●75歳未満の成人高血圧患者は130/80㎜Hg未満を目標に治療を

改訂後のそれぞれのグループの降圧目標値を「診察室血圧」で示すと下記のようになります。
なお、( )内は患者が時間を決めて家庭で測定する「家庭血圧」の値です。
75歳未満の成人高血圧患者――130/80㎜Hg未満(125/75㎜Hg未満)
糖尿病合併の高血圧患者――130/80㎜Hg未満(125/75㎜Hg未満)
CKD患者(蛋白尿陽性)――130/80㎜Hg未満(125/75㎜Hg未満)
75歳以上の高齢高血圧患者――140/90㎜Hg未満(135/85㎜Hg未満)



■医療機関で行われる高血圧の検査

医療機関で行われる高血圧の検査には、基本検査では「血圧測定」「尿検査」「血液検査」「眼底検査」など、 精密検査では「心電図検査」「胸部エックス線撮影」「超音波検査」などがあります。


●基本検査

医療機関での血圧を測定して、病気の有無を調べる

医療機関では、問診と診察の後、血圧や、二次性高血圧の可能性、高血圧に伴う他の危険因子の有無などを調べます。


◆血圧測定

医療機関で測った血圧が「収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上」の場合に、高血圧と判定されます。 通常は、数回の受診の後に診断されます。 また、医療機関での血圧と家庭での血圧に大きな差がある場合には、「24時間血圧計」を用いて、 1日を通した血圧を測定することもあります。また、家庭での血圧測定が勧められます。

◆尿検査

「尿たんぱく」「微量アルブミン尿」「尿沈渣」などを調べて、主に腎機能をチェックします。 微量アルブミン尿では、尿中の微量なたんぱくを、尿沈渣では、尿中の赤血球や白血球の数を調べます。 たんぱくと赤血球の両方が出ていれば腎炎が疑われ、たんぱくだけが出ている場合は、高血圧による腎機能障害が疑われます。

◆血液検査

血液中のナトリウムやカリウムの濃度、クレアチニン、尿素窒素、赤血球などを調べます。 クレアチニンや尿素窒素からは腎機能がチェックでき、クレアチニンと赤血球を調べることで、 腎機能障害による貧血の有無などがわかります。高血圧は 「メタボリックシンドローム」の構成要素の1つですから、 血液中の糖や脂質など、ほかの構成要素もチェックします。血糖が高い場合は、ブドウ糖負荷試験や、HbAlcのチェックも行われます。 また、高血圧は 高尿酸血症と合併することが多く、 尿酸値が高いと腎臓が障害されているので、尿酸値も調べます。

◆眼底検査

眼底(目の奥)は、体の中で唯一、血管の状態を直接観察できる部位です。 眼底の網膜の血管をじかに見ることで、全身の動脈硬化の進み具合などを推測できます。


●精密検査

高血圧の合併症による臓器障害の有無をを調べる検査が行われる場合があります。

◆心電図検査

心臓を動かす電気刺激を捉えてグラフ化する検査です。 心臓の筋肉(心筋)が厚くなる「心肥大」や、「心筋梗塞」などがわかります。 不整脈の1つで、脳梗塞の原因にもなる 心房細動もチェックします。

◆胸部エックス線撮影

画像から心臓の形を調べます。心肥大などの心臓病や肺の病気がわかります。

◆超音波検査

診察で血管からの雑音が見つかった場合は、「血管超音波検査」で、頸動脈などの動脈硬化の状態を調べます。 心臓の状態を調べる「心エコー検査」も行われます。

このほか、CTやMRIの画像検査などで腎臓や血管の状態を調べる場合もあります。


【主な検査の基準値】
検査の種類 基準値
尿検査 尿たんぱく 陰性(-)
尿沈渣 異常なし
微量アルブミン尿 陰性(-)
血球検査 赤血球 男性:400万~500万個/立方メートル
女性:350万~450万個/立方メートル
白血球 成人4000~9000個/立方メートル
ヘモグロビンAlc(HbAlc) 4.3~5.8%
血液生化学検査 総コレステロール 130~220mg/dl
中性脂肪 55~150mg/dl
LDLコレステロール 55~140mg/dl
HDLコレステロール 男性:40~60mg/dl
女性:50~70mg/dl
血清カリウム 3.7~4.8mEg/㍑
血清ナトリウム 136~145mEg/㍑
血清クレアチニン 0.7~1.2mg/dl
尿素窒素 8~17mg/dl
血糖(空腹時) 110mg/dl未満
血清尿酸 2.5~7.5mg/dl