血液量過剰タイプ高血圧
(塩分の摂り過ぎが原因の高血圧)

高血圧のタイプは血管が収縮することで血圧が高まる「血管収縮型」と、 血管内を流れる血液の量が増えることで血圧が高まる「血液量過剰型」に分けることができます。 血液量過剰型の高血圧』は、塩分を摂り過ぎることが1つの要因となって起こります。 塩分を摂りすぎると、血液中の塩分濃度を一定に保つ体の仕組みによって水分の吸収も高まります。 その結果、血液量が増え、血管壁に加わる圧力が高くなってしまうのです。
腎臓から塩分と水分をうまく排泄できないと血液量過剰タイプの高血圧になり、 血液量過剰タイプの高血圧を放置すると脳卒中などのリスクが高まります。 血液量過剰タイプは減塩で腎臓を守ることが特に大切です。


■食塩感受性が高い人は特に注意

塩分の摂取によってどの程度血圧が上がるかには、個人差があります。 塩分の摂取量が増えても血圧があまり上がらない人もいる一方で、血圧が大幅に上がりやすい人もいるのです。 このような性質を「食塩感受性」といいます。 食塩感受性には、塩分と水分を排泄する腎臓の働きが関係しています。 腎臓の働きが低く、余分な塩分と水分を排泄しにくい状態だと、血圧が上がるのです。 そのため、食塩感受性が高い人の高血圧の改善には、減塩が特に有効です。 また、減塩は腎臓を守ることにもなります。 塩分の摂取量に関係なく血圧が高い人が血圧を下げるには、減塩以外の対策が必要です。


■塩分と腎臓の関係

塩分を過剰に摂り続けると、腎臓が疲弊し血圧が上がる

腎臓は、全身を巡る血液から老廃物、それに余分な塩分や水分などを濾過して、尿を作る働きをしています。 塩分を摂り過ぎると、腎臓は常に働き続けることになります。 このような状態が長く続くと、やがて腎臓は疲れてしまい、塩分や水分を十分に尿として排泄できなくなります。 すると血液量が増え、血圧が高くなります。これが血液量過剰型の高血圧です。 また、塩分や水分を排泄する腎臓の働きが生まれつき十分でない体質の人もいます。 この場合も、血液過剰型の高血圧になりやすくなります。

腎臓には、血圧を上げるホルモンをコントロールする役割もあります。 血圧の上昇には、「アンジオテンシン」というホルモンが大きく関わっていますが、 このホルモンは、腎臓が分泌する「レニン」という酵素によって作られているのです。 腎臓の働きが低下すると、血圧に関わるホルモンのコントロールが乱れます。 すると、腎臓からレニンが過剰に分泌されるようになり、血圧が高くなります。


■腎臓の働きの低下が招くリスク

放っておくと脳卒中など、命にかかわる病気を招く

腎臓の働きが慢性的に低下した状態を 「慢性腎臓病」といいます。 慢性腎臓病があると高血圧になりやすく、また 高血圧は慢性腎臓病の原因になります。 そのため、高血圧と慢性腎臓病の両方があると、悪循環に陥り、状態がさらに悪くなっていきます。 腎臓の働きが低下すれば、最終的には腎臓の働きを人工的に補う 「透析治療」が必要になることもあります。 また、高血圧が進行すると、「脳卒中」などのリスクが高まります。 高血圧がある人にとって腎臓の働きの低下は、 「脳卒中」などを起こしやすいというサインなのです。

また、高齢者も注意が必要です。60歳代では約6割、70歳以上では約7割が高血圧だといわれます。 腎臓の働きは通常、加齢に伴って低下するため、高齢者は血液量過剰型の高血圧になりやすいのです。 高齢者の血圧は血圧の上がり方に特徴があり、収縮期血圧は上がるのに、拡張期血圧は反対に下がってくることがあります。 これは「動脈硬化」が進んで血管が硬くなっていることを示しています。 このような場合は脳卒中などを引き起こしやすいので、特に注意が必要です。

●腎臓の異常に気付くために


医療機関では「血液検査」や「尿検査」が行われます。 腎臓の働きが低下すると、血液検査では「クレアチニン」の値が高くなります。 尿検査では尿中に「たんぱく」が出ていないかどうかを調べます。 検査が勧められるのは、 肥満糖尿病がある人、 あるいは 脳卒中心筋梗塞腎臓病を発症した家族がいる人です。


■血液量過剰型高血圧への対策

血液量過剰型の高血圧への対策としては、主に「薬物療法」と「塩分制限」の2つがあり、薬物療法とともに、減塩に取り組むことが大事です。

●薬物療法を始める

1つ目の対策は、薬物療法です。主に以下のような薬が用いられています。 「カルシウム拮抗薬」 は血管を広げて血圧を下げる薬で、血液量過剰型にも血管収縮型にも使います。 「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」や「アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬」は、 血管を収縮させるアンジオテンシンの働きを抑える薬で、血管収縮型の治療でよく使われる薬です。 これらは腎臓の細い血管を広げ、腎臓の働きの低下を防ぐ効果もあるため、血液量過剰型の高血圧の治療にも使われます。 血液量過剰型の高血圧に対しては、塩分や水分を排泄しやすくする 「利尿薬」も効果的です。


●食事からの塩分摂取量にも気を付ける

もう1つの対策は「塩分制限」です。 1日の塩分摂取量が6g未満になることを目標にします。 摂取する塩分を減らせば、血圧は下がりやすくなります。 また、減塩は腎臓の負担を軽減し、腎臓を守ることにも繋がります。 塩分で血圧が上がりやすい食塩感受性の高さには、生まれつきの体質が大きく関係しますが、原因はそれだけではありません。 塩分を過剰に摂り続けることで、塩分の排泄にかかわる遺伝子の働き方に変化が起こり、 塩分で血圧が上がりやすくなるという研究結果も報告されています。 減塩のほかに、適正体重を維持することや適度な運動を行うことも大切です。

●年齢や病気の有無で目標値は変わる

65歳以上の高齢者が治療する場合、血圧の目標値は64歳以下の人の場合より少し高めで、収縮期血圧が140mmHg未満、 拡張期血圧が90mmHg未満です。慢性腎臓病があると、目標値はそうでない場合よりも厳しくなります。