大動脈瘤の手術

「大動脈瘤の手術」は、「人工血管置換術」といい、合成繊維で作られた人工血管が使われます。 繊維の網目は、たんぱく質のコーティング(表面塗布)によって塞がれ、血液が漏れることはなく、耐久性にも問題はありません。 「人工血管置換術」は、胸部を切り開き、さらに瘤の部分を切り開いて、そこに人工血管を置き、両端を患者自身の血管に縫い付けます。 枝分かれした血管がある場合は、それらも縫い合わせます。 瘤の範囲が広い場合は、何回か手術を行って順次、人工血管に置き換えていきます。


■大動脈瘤の手術のタイミング

瘤が大きい場合には、膨らんだ血管を人工血管に置き換えるなどの手術を行って、破裂を防ぎます。 破裂の危険性が高まる瘤の大きさは、直径5.5cm程度が手術適応となっています。 嚢状の瘤の場合は、これより小さい段階で手術が行われます。 また、比較的年齢が若く、活動的に生活を送っていて、血圧が高い場合には、 5~5.5cm程度でも手術を行う場合があります。しかし、80歳を過ぎると、手術は身体への負担が大きく、 危険性が高まったり、手術後に体力が低下して、「COL(生活の質)」が悪化する可能性もあるので 6cmくらいになるまで経過観察することもあります。 また、他に持っている病気も関係してきます。手術のタイミングは、瘤の大きさ、 年齢や合併疾患、生活の状況を考え合わせて決定します。



■「人工血管置換術」の概要

手術は、大動脈の中を血液が流れている状態では行えません。 血液を体外に導き、「人工心肺」を通してから体内に戻すようにして、手術する部位だけ血流を遮断した上で、手術が行われます。 胸部大動脈瘤の手術では、瘤のできた場所によって難易度などが異なります。 比較的難しいのは、脳や上肢への動脈が枝分かれしている「弓部大動脈」で、 手術中脳への血流をどのように保つかが問題となります。この場合、身体全体を低体温にして脳の代謝を低下させ、 さらに脳につながる動脈に体外から血液を流して手術を行います。体外から脳へ血液を循環させる方法は、 この10~15年間で著しく進歩し、手術によって脳梗塞を起こす確率や死亡する確率はかなり低下しています。 また、下行大動脈の腹部に近い部分を手術する場合は、脊髄へつながる動脈への血流が悪くならないようにして、 脊髄の障害を防ぐことがポイントになります。下行大動脈から腹部に広がっている場合は、脊髄の障害のほか、 腎臓や肝臓などの障害を防ぐことがポイントとなります。

胸部大動脈瘤の手術時間は、10~12時間かかることもあります。 術後の入院期間は、合併症がない場合で3~4週間程度です。合併症がある場合には、その治療が先に行われます。 例えば、狭心症がある場合には、新たな血液の通り道をつくる「冠動脈バイパス手術」が先に行われます。

現在、胸部大動脈瘤の手術の死亡率は、一般に5%以下といわれています。 仮に大動脈瘤が破裂した場合、助かる確率は約10%です。これに対し破裂する前に予防的に行う手術では、 約95%が助かると考えられます。早めに大動脈瘤を発見し、経過を観察して、 適切なタイミングで十分な準備をした上で手術を受けることが大切です。



■負担の少ない「ステントグラフト内挿術」

最近は、新しく開発された「ステントグラフト内挿術」が行われることがあります。 ステントグラフトとは、網目状の金属(形状記憶合金)を取り付けた「人工血管」のことです。 これを小さく折り畳み、脚の付け根の部分の動脈から、カテーテルを使って瘤のところまで運び、広げます。 膨らんでいない血管壁に両端を密着させるようにして、そこにとどめ置きます。

「ステントグラフト内挿術」は、脚の付け根を小さく切開するだけなので、患者にかかる身体的負担が少なくてすみます。 そのため、肺の病気などの合併症で、人工血管置換術が困難な人にも行うことができます。 ただし、「ステントグラフト内挿術」は、大動脈がカーブしたり、枝分かれする血管がある部位では 行いにくいという欠点があります。また、血管壁に留めおいた金属の位置がずれてしまう可能性もあります。 ずれると、血管に密着した部分に隙間ができて、そこから瘤の部分に血液が入り込むことがあります。 そのため、半年から1年ごとにCT検査を行い、位置の確認を行う必要があります。

「ステントグラフト内挿術」の死亡率は、人工血管置換術の半分以下です。 まだ問題もありますが、治療の選択肢の1つと考えることができます。 今後改良が進めば、将来はより確実な治療法になると思われます。