大動脈瘤

大動脈瘤の大きな原因は「高血圧」と「動脈硬化」。破裂すると、命に関わる。
●「ステントグラフト内挿術」では、瘤の内側にステントグラフトを留置する。
●「人工血管置換術」では、瘤のある部分の血管を人工血管に置き換える。


■大動脈瘤とは?

大動脈の一部が瘤状に膨らむ病気

「大動脈」は心臓の左心室から出る血管で、心臓から送り出された血液はここを通って全身へ運ばれていきます。 大動脈は全身の血管の中で最も太く、成人では直径がおよそ2~3.5cm、長さは45~50cmほどあります。 この大動脈の壁の一部が瘤状に膨らみ、直径が健康な大動脈の1.5倍以上になったものを『大動脈瘤』といいます。 大動脈瘤には、血管壁の両側が膨らむものもあれば、片側が膨らむものもあります。 大動脈瘤は、大動脈のどの部位にでも発生する可能性があります。横隔膜より上にできる「胸部大動脈瘤」と 横隔膜より下にできる「腹部大動脈瘤」とに大別されます。日本人に多いのは、おへその辺りの大動脈にできる 腹部大動脈瘤と心臓の上部の大動脈がカーブしている辺りにできる胸部大動脈瘤(弓部大動脈瘤)です。



■大動脈瘤の原因

大動脈瘤の大きな原因は「高血圧」「動脈硬化」です。高血圧や動脈硬化によって血管壁がもろくなると、 血流の圧力に耐えられなくなり、瘤が生じやすくなります。動脈硬化が起こる背景には、高血圧のほか「肥満」「加齢」などがあります。 そのため、大動脈瘤は動脈硬化が進行しやすい70歳以上の人に多く見られますが、 近年では50~60歳代の男性にも増えています。日本では高齢化の影響で患者数が増えており、現在、この病気で手術を受ける 患者さんは、20年前のおよそ3倍の約3万人に上ります。


■大動脈瘤の症状

多くは症状が現れないため、早期発見が大切

大動脈瘤があっても、多くは症状が現れません。まれに弓部大動脈瘤では、弓部大動脈の近くにある声帯に関わる神経が 圧迫されることで、「声がかすれる」などの症状が現れたり、腹部大動脈瘤では「お腹を手で触ると強く脈打っているのを感じる」 場合もあります。しかし、大半は大動脈瘤が破裂する直前、あるいは破裂してから症状が現れます。 胸・背中・お腹・腰など、大動脈瘤がある部位に、それまでに経験したことのないほどの激しい痛みが起こります。 そのような症状がある場合は、緊急に手術が必要です。直ちに救急車を呼んでください。 大動脈が破裂した場合は大出血を起こし、命に関わります。すでに破裂している場合、緊急手術が行われます。 手術をしても約半数は救命が困難です。そのため、破裂する前に大動脈瘤を発見して治療を受けることが大切です。

●大動脈瘤を発見するには

発見のためには、定期的に健康診断や人間ドックなどを受けることが必要です。胸部大動脈瘤は「胸部エックス線検査」、 腹部大動脈瘤は「超音波検査」により発見できます。より詳しく調べるためには、造影剤をを使った 「CT(コンピュータ断層撮影)」が行われます。大動脈瘤が見つかった場合、瘤が小さければ「薬物療法」が行われます。 降圧薬を用いて厳重に血圧を管理し、経過観察をしながら、医師が破裂の危険性を予測して、手術の必要性を検討します。 手術の目安としては、胸部大動脈瘤では6cm以上、腹部大動脈瘤では5cm以上で、「ステントグラフト内挿術」「人工血管置換術」などの治療が検討されます。



■ステントグラフト内挿術

血管内に人工血管を留置して破裂を防ぐ

ステントグラフト内挿術は比較的新しい方法で、下腹部を小さく切開して血管にカテーテルを挿入し、「ステントグラフト」 という人工血管を大動脈瘤のある部位に送り込んで留置する方法です。ステントグラフトとは折りたたまれた状態で送り込まれますが、 留置すると、ばねが開いて自然に広がり、大動脈の壁に張り付くように固定されます。 大動脈瘤にも流れていた血液がステントグラフト内だけを流れるようになり、瘤の破裂を防ぐことができます。

●治療の第一選択となることも多い

ステントグラフト内挿術は、患者さんへの体の負担が小さいことから、近年では治療の第一選択として検討されることも 多くあります。高齢者や、以前に開腹手術を受けたことのある人でも治療を受けられますが、大動脈瘤が血管の枝分かれしている 部位の近くにある場合や、ステントグラフトを固定する部位の血管が弱い場合には受けることができません。 治療時間は2~4時間で、手術後3~5日で退院できます。ただし、手術後は年に1回CT検査を受け、ステントグラフトや 大動脈瘤に異常がないかどうか調べる必要があります。


■人工血管置換術

大動脈瘤のある血管を切除して瘤を取り除く

大動脈瘤のある部位の血管を切除して、人工血管に置き換える手術です。人工血管はポリエステル繊維などで作成されており、 血液が漏れる心配もなく、耐用年数は20年以上です。胸部大動脈瘤の中でも弓部大動脈瘤の場合は、瘤が心臓に近い位置にあるうえ、 脳へ向かう血管を切除するため、「人工心肺装置」を使って血液の循環を保ちながら手術を行います。 腹部大動脈瘤の場合は、心臓から離れているので、人工心肺装置を使わずに行うことができます。 大動脈瘤のある部位によって異なりますが、手術時間は数時間~10時間以上、手術後2~3週間の入院が必要です。

●リスクを把握したうえで手術を受ける

大動脈瘤の破裂を回避するためには、手術が有効です。しかし、弓部大動脈瘤では、脳へ向かう血管の根元に患部があるため、 手術に伴うリスクとして死亡率が5~10%あり、「脳梗塞」や「神経障害」を起こすリスクもあります。 腹部大動脈瘤の手術の場合の死亡率は1%程度です。症状が現れていない状態で手術を受ける場合も、こうしたリスクを伴います。 そのことをよく把握し、医師と十分に相談しうえで、手術を受けるかどうか決めることが大切です。 また手術後は、血圧の管理と心臓リハビリテーションにしっかりと取り組む必要があります。


■ハートチームによるサポート

各科の医師が患者さんに最適な治療方針を話し合う

近年、心臓病を扱う医師の間において”ハートチーム”という概念が広がりつつあります。 心臓病を扱う診療科は、大きく循環器内科と心臓外科に分けられ、前者は薬物療法やカテーテル治療を、後者は手術を主に担当します。 患者さんの病状によってはカテーテル治療と手術のどちらでも選択が可能なことがありますが、担当医の所属する診療科の 治療法を優先するのではなく、診療科の垣根を超えて医師同士が話し合い”個々の患者さんに最適な治療法を提案しよう” というのがハートチームの考え方です。将来的には、治療を行った担当医や、一般内科医、リハビリテーションの診察医、 地域のかかりつけ医などともチームを組み、患者さんに対して長期にわたってサポートすることを理想としています。