糖尿病腎症

糖尿病腎症は、腎臓が障害されて働きが低下し、尿にたんぱくが漏れ出す病気ですが、進行しないと症状が現れません。 進行すると、腎臓の働きが失われる「腎不全」という状態になります。 糖尿病腎症の検査では、尿検査と血液検査が行われますが、糖尿病がある場合の早期発見には、たんぱく尿や血清クレアチニンを調べるだけでは不十分で、 少なくとも年1回、できれば半年に1回は微量アルブミン尿検査を受けることが必要です。 糖尿病腎症の予防や治療では、血糖値と血圧のコントロールが重要です。 最近の研究で糖尿病と診断された直後から、血糖値と血圧をコントロールすることで、合併症予防に大きな差が出ることがわかってきました。 糖尿病腎症が進行した場合、血糖値や血圧のコントロールは不可欠です。 それに加え、進行の程度により食事はたんぱく質やカリウムを制限し、減塩も厳しくします。 腎臓の働きが低下する前に治療を開始すれば、症状が改善する可能性も期待できます。 糖尿病の患者さんの約4割が、糖尿病腎症を合併するといわれていますが、大量にある糸球体が徐々に壊れていくため、長期にわたり自覚症状はほとんどありません。 かなり進行して初めて、手や足、瞼にむくみなどの症状が現れます。 糖尿病腎症は進行すると治療が難しく、大きな苦痛を伴うこともあるため、できるだけ避けたい合併症です。


■「糖尿病腎症」とは?

慢性的な高血糖状態によって腎臓が障害される

『糖尿病腎症』は、腎臓が障害されて働きが低下し、尿にたんぱくが漏れ出す病気です。 糖尿病腎症も他の合併症と同様に、血液中の糖が増加することで発症します。 しかし、その発症までの期間には大きな個人差があり、血糖と血圧の管理次第で、 糖尿病になってから5年で発症する人もいれば、20年かけて発症する人もいます。 進行すると、腎臓の働きが失われる『腎不全』という状態になります。 最も悪化した場合は、機能しなくなった腎臓の代わりに血液を濾過する透析治療が必要になることもあります。 最近の30年間で新たに透析治療を始めた人の原因を調べると、かつては腎臓自体の病気である慢性腎糸球体腎炎が多くを占めていましたが、 最近は糖尿病腎症が急激に増えて、1位を占め続けています。 「人工透析」を受ける患者さんは年々増加し、現在、国内で新たに人工透析を受け始める人は1年間で3万人を超えています。 ただし、腎臓の働きが低下する前に治療を開始すれば、症状が改善する可能性も期待できます。

腎臓は、体の中でたんぱく質の分解物で不要になった老廃物を尿を作って除去する臓器で、背中の方に左右2つあります。 腎臓腫瘍で手術したり「尿管結石症」で片方の腎臓が機能しなくなっても、 残りの腎臓が頑張ってもらえれば腎不全になることはありません。 しかし、糖尿病の合併症として腎臓が悪くなってきた場合は、両側の腎臓が同程度に障害されるので2つあるから大丈夫とはいえません。 腎症も初期のうちは症状はありません。かなり進んでくると浮腫が出てきます。 透析を考えるころになると、尿毒症の症状(倦怠感や貧血症状など)が出てきます。 このころから血糖コントロールをよくしても効果はありません。 初期から中期にかけて、検査で腎臓が傷み始めているか確認するには、血液検査ではなく尿の検査が大切です。 尿にたんぱくが見られ、そのたんぱくの一つである尿のアルブミンを測定することにより、早期の腎症を見付けることができます。


■糖尿病が腎症を起こす仕組み

糸球体が壊れ、血液がうまく濾過できなくなる

腎臓は腰の上のあたりの背中に近い側に左右に1つずつあり、血圧の調節、赤血球や骨の合成などに欠かせない役割を果たしていますが、 中でも重要な働きは尿を作ることです。 腎臓には、大量の血液が流れ込みますが、その血液から老廃物や余分な塩分や水分を取り除いて、尿として排出します。 左右の腎臓には、毛細血管が集まった「糸球体」が約100万個づつあります。 糸球体は、細い血管が糸くずのように丸まった非常に小さな組織で、血液を濾過し老廃物を取り除くことが、糸球体の役割です。 糸球体は血液から老廃物を濾過して排出していますが、正常な場合はたんぱくが尿に漏れることはありません。 ところが、糖尿病で血液中のブドウ糖が異常に増え、血糖の高い状態(高血糖)が長い間続くと、 糸球体の血管が1つ1つ傷んで動脈硬化が進み、濾過機能が低下して、腎症を引き起こします。 血液中のブドウ糖が異常に増えると、糸球体が徐々に壊され、たんぱくが尿に漏れてきます。 また、濾過機能が低下すると、塩分を排出しにくくなり、血圧が上昇しがちです。 すると、傷んでいない糸球体にさらに負担がかかります。この悪循環によって、腎症が進行していくのです。 進行すると、老廃物を十分取り除けなくなり、体内に溜まっていきます。 塩分や水分も十分に排出されなくなり、体内に蓄積されてむくみを生じます。


■糖尿病腎症の進行(ステージ)

糖尿病腎症の経過は次の5つに分けられ、それぞれの段階に応じた治療が行われます。

▼腎症前期
何の症状もありません。

▼早期腎症期
尿中に「アルブミン」というたんぱくがわずかに出てきます。 しかし、腎臓の機能は正常で、自覚症状はほとんどなく、一般の尿検査では発見できません。 この段階では、生活習慣の改善による血糖や血圧のコントロールなどの治療が行われます。

▼顕性腎症期
尿中に常にたんぱく質がでてきます(たんぱく尿)。 進行すると、「脚のむくみ」などの症状が現れることがあり、腎臓の血管が硬くなるため、血圧も高くなります。 顕性腎症期には、生活習慣の改善に加え、 降圧薬を服用して血圧をコントロールします。 食事でのたんぱく質の摂取制限も必要になります。

▼腎不全期
腎臓の機能が著しく低下して、本来は濾過されるはずの老廃物が体内にたまり尿毒症が現れます。 尿毒症になると、「貧血や皮膚のかゆみ」を始めとするさまざまな症状が現れ、命に関わることも少なくありません。 腎不全になると、腎症の進行を止めることは困難です。やがて、「透析期」に入り、人工透析による治療が必要になります。 腎不全になると腎機能の回復は望めませんが、顕性腎症の前期までなら、しっかりとした治療を行うことで腎機能を改善することもできます。

▼透析療法期
人工透析による治療を行います。人工透析も5年ほど経つと機能が悪くなり、腎移植に移らねばならなくなります。 腎移植をしても免疫による拒絶反応と闘わねばならず、5年間無事に生着している割合は、半分程度です。

■糖尿病腎症の検査

早く発見するには、微量アルブミン尿検査が重要

糖尿病腎症の検査には「尿検査」「血液検査」「eGFR」が行われます。 まず、尿検査と血液検査が行われ、尿検査でタンパクが出たら、腎臓に障害のあるサインです。 血液検査では、老廃物の1つで腎臓の働きが低下すると血液中に増える血清クレアチニンを調べます。 この2つの検査は、企業や自治体の健康診断でもしばしば行われていますが、糖尿病がある場合は、たんぱく尿や血清クレアチニンを調べるだけでは不十分です。 糖尿病腎症を早く発見するためには、微量アルブミン尿検査を受ける必要があります。 糖尿病のごく初期には、タンパクの代表であるアルブミンが尿中にごく少量漏れてきます。 これが微量アルブミン尿ですが、通常の尿検査ではわかりません。 糖尿病と診断されている場合は、少なくとも年1回、できれば半年に1回は微量アルブミン尿検査を受けることが必要ですが、 実際には患者さんの30%程度しか検査を受けていません。 糖尿病腎症を早期発見するためには、定期的にタンパク尿や血清クレアチニンを調べるとともに、微量アルブミン尿検査を受けることが大切です。

▼尿検査
正確には1日尿をためて、尿中アルブミン測定及びクレアチニンクレアランス(正確な腎機能評価法)を測定することが望ましいとされています。 早期の腎症を見付けるためには、尿アルブミン測定が重要です。 一般的に試験紙法でたんぱくの有無を調べる方法では、初期の腎症は見付けられません。 たんぱくが試験紙法で陽性になったころには、中期から後期の腎症になっていることを示唆します。 また、尿糖は血糖がよくなれば消失しますが、尿たんぱくは一度出ると、その後血糖値が改善してきても消えません。

▼血液検査
血清クレアチニン、尿素窒素を測定することにより腎臓機能を推測することができますが、 血液検査のこれらの項目が上昇してきた場合は、かなり腎機能が悪化してきていることを意味します。

▼eGFR
最近、腎臓学会が提唱している腎機能評価法です。eGFR用卓上計算機を用いて年齢、性別、身長、 体重、血清クレアチニンを入力することにより、蓄尿しなくても簡易腎機能を測定できます。

糸球体は、一度壊れると元に戻らないといわれているため、治療の目的は、進行を遅らせることになります。 しかし、微量アルブミン尿が出た段階で発見してすぐ治療を受ければ、尿中にアルブミンが漏れなくなることもあります。 糖尿病腎症の症状がよくなる可能性があるということです。