合併症の予防『糖尿病の進行度』

糖尿病の進行度は6段階あります。 初期の段階では自覚症状がありませんが、糖尿病が進行するにしたがって合併症が現れてきます。 糖尿病を治療するうえでは、各段階に応じた対処法が必要です。


■糖尿病の合併症

糖尿病は一言でいうと、何らかの原因により糖が体内でうまく消費されなくなって、血糖値が高くなる病気。 ところが、この病気の恐ろしさは、高い血糖値そのものにあるわけではありません。 糖尿病の怖い点は、血糖値の高い状態が長く続くと合併症を招くところにあります。 糖尿病の合併症は神経や腎臓・目に生じやすく、早期に適切な治療を行わなければ、重大な事態を引き起こしてしまうのです。 合併症の代表的なものに「糖尿病神経障害・糖尿病腎症・糖尿病網膜症」があります。 これらは糖尿病の三大合併症と呼ばれており、神経障害では患者さんの約7割、腎症と網膜症ではそれぞれ、約3割に起こっています。

三大合併症の中でも、最も警戒すべきなのが、腎症です。 腎臓には、血液から老廃物を取り除くフィルター役の「糸球体」という膜が100万個あります。 腎症になると、その膜が粗くなり、尿の中にアルブミンというたんぱく質が混じります。 進行すると尿中のアルブミン量は増えていき、末期になれば腎臓は機能を失い、腎臓の代わりに血液を浄化する治療法の 人工透析や腎臓移植が必要になります。 糖尿病による腎症は、5年後の生存率が60%以下と、極めて予後が悪いのが特徴。 そのため、合併症の治療の中でも腎症の対策が最も重視されます。 また、三大合併症は神経障害が真っ先に現れるものの、三つともほぼ並行して進行していきます。 しかし、腎症の状態をしっかりと把握することで、他の合併症の進行も食い止め、治すことが可能になるのです。 こうしたことを踏まえたうえで、糖尿病の有無と腎症の進行度合いにより、糖尿病の進行度は6段階に分類することができます。


●治療の主役は患者本人

糖尿病のステージについては、空腹時血糖値とブドウ糖負荷試験の結果のほか、「尿アルブミン値」「血清クレアチニン値」 という検査値の状態で決定されます。尿アルブミン値は、尿の中のアルブミンの量を測定した検査値です。 前述したように、糖尿病の影響によって腎臓の機能が低下すると、尿の中にアルブミンが漏れ出すようになります。 このアルブミン量は、腎臓の状態を見るために最も重要な検査値といえます。 血清クレアチニン値とは、血液中のクレアチニンの量を測定した検査値のことです。 クレアチニンは、筋肉に含まれるクレアチンリン酸という物質が肝臓で合成されてできる物質で、 通常であれば腎臓で濾過され尿の中に排泄されます。 ところが、腎臓の機能が正常時の50%以下に低下すると、尿の中に排泄されずに血液中に蓄積されるようになります。 そのため、尿アルブミン検査と同様に腎臓の状態を知るための有効な検査値とされています。

尿アルブミン検査も血清クレアチニン検査も、腎臓の機能の状態がわかるため、合併症の進行度を知ることができます。 糖尿病と診断されて治療を受けるようになったら、できるだけ早くこの検査を受けるようにしましょう。 ちなみに、この二つの検査では、尿アルブミン検査の方が、腎臓の機能の低下を初期の段階で知ることができます。 また、糖尿病の治療中には、尿検査、血液検査、悪玉(LDL)コレステロール検査、善玉(HDL)コレステロール検査、 中性脂肪値検査、肝機能検査を、月に1回は受けるようにしてください。 これは糖尿病の治療で使う薬の副作用や、他の病気の有無を調べるためです。

こうした検査を定期的に行うことで、糖尿病の患者さんの治療に対する関心が高まり、自分自身で糖尿病を改善しようと 思うようになります。糖尿病治療の主役は、あくまで患者さん本人。糖尿病から逃げ出さなければ、 誰でも治療に成功できるのです。


■糖尿病の進行度「ステージ1(第一段階)」

糖尿病の進行度は6段階あります。
血糖値が126ミリ未満の人は第1段階の「境界型」で、糖尿病ではないが9年後以降に発病の危険大。


●ステージ1(第1段階)

9年後に突然血糖値が急上昇

糖尿病のステージ1(第1段階)は、空腹時血糖値が110~126ミリグラム未満で、境界型(正常とも糖尿病ともいえない状態) と判定された段階です。境界型は、糖尿病ではないとはいえ、軽く見るのは禁物。 例えば、糖尿病の人は健康な人の3倍の確率で心筋梗塞や脳卒中を起こします。 ところが、糖尿病ではない境界型の人も、ほぼ同じくらいの頻度で心筋梗塞や脳卒中を起こすことがわかっているのです。 そのため、ステージ1は、「まだ糖尿病ではない」ではなく、「初期糖尿病段階に入った」と考えるべきです。 境界型の人の9割は、最終的に糖尿病に移行するといっていいでしょう。

では、境界型の人は、どのくらいの期間で、糖尿病を発症するのでしょうか。 この点については、広島県で行われた興味深い調査があります。 この調査では、糖尿病を発症した人とそうでない人、それぞれ1428人について、空腹時血糖値とブドウ糖負荷試験における 120分後の血糖値を、28年間に渡って調べたものです。 糖尿病を発症した人は、12年前から少しずつ血糖値が上がりだし、3年後に境界型に移行します。 そして、そのまま徐々に血糖値が上昇し、境界型に移行してから9年後(血糖値が上がり始めてから12年後)に、 血糖値が突然、急上昇したのです。空腹時血糖値は133ミリグラム、ブドウ糖負荷試験の120分後血糖値は255ミリグラムにもなっています。

このように、糖尿病は、生活習慣の乱れによって徐々に血糖値が上がりだし、境界型になってから平均して9年後に発症します。 逆に言えば、9年間の境界型、つまりステージ1の間に最大限の努力をすれば、糖尿病は防げるということ。 最大限の努力といっても、特別なことは必要ありません。悪い習慣を改めるだけでいいのです。 食後血糖値の上昇を防ぐためには、運動をすることが肝心です。それには、食後すぐに歩いて血糖値を上げないということが大切。 速足で20分ほどウォーキングをするのがおススメです。 食事については、暴飲暴食を避けるとともに、糖質を含んだ食べ物や清涼飲料水は、できるだけ控えるようにしてください。 特に、肥満の人は、痩せる努力をすることが重要です。太っている人は過度に糖質を摂っているため、 血糖値を下げるためにインスリンが多く分泌されます。すると、インスリンを分泌する膵臓に過度の負担がかかるようになるため、 膵臓が衰えて糖尿病になってしまうのです。

このようにして、ステージ1の人は、食後血糖値を140ミリグラム未満に保つことを目標にしてください。 また、半年ごとに糖尿病の検査(尿アルブミン検査と血清クレアチニン検査は不要)を受けることを心がけましょう。 こうした努力を続けることで、ステージ1から抜け出すことができるのです。


■糖尿病の進行度「ステージ2(第二段階)」

糖尿病の進行度は6段階あります。 第二段階は初期の糖尿病で、ヘモグロビンA1cを少し高めの6.9にゆっくり下げれば合併症も防げます。 また、この段階での食事療法としては「糖質制限食」がお勧めです。


●ステージ2

合併症がなくても油断は禁物

ステージ2(第二段階)は、糖尿病になっているものの、合併症を発症していない人です。 具体的には、空腹時血糖値が126ミリグラム以上、またはブドウ糖負荷試験で120分後の値が200ミリグラム以上で、 尿アルブミン値が18以下の人になります。 空腹時血糖検査とブドウ糖負荷試験で糖尿病が確認されたら、すぐに尿アルブミン値と血清クレアチニン値をチェックして、 合併症の程度を確認してください。その結果、尿アルブミン値が18以下なら、合併症が発症していない状態、 すなわちステージ2と判定されます。 もっとも、ステージ2で合併症が起きていないからといって、油断は禁物。最低でも月1回は通院治療を行い、 合併症が起きていないか、絶えず確認しなければなりません。なぜなら、糖尿病の治療の目的は、 「合併症を起こさない」「すでに起きている人は、合併症を進行させない」ことにあるからです。 ステージ2の人は、幸いにもまだ腎臓の合併症を起こしていません。 ですから、「今後、合併症は絶対に起こさない」と、硬く心に誓って生活習慣を改め、治療を続けてください。


■糖尿病の進行度「ステージ3(第三段階)」

糖尿病の進行度は6段階あります。 第三段階は合併症があるため、血糖減らしだけでは不十分で、 糖が作る体内の悪玉物質「AGE」を減らす必要があります。


●ステージ3

合併症の真の原因は悪玉物質「AGE」

ステージ3(第三段階)は、尿アルブミン値が19~300以下の糖尿病患者です。 糖尿病の合併症がついに現れた段階ですが、この段階では合併症の自覚症状はほとんどありません。 「初めて自分が糖尿病だと知った」という患者さんの3割はすでにステージ3になっており、何らかの合併症を起こしています。 尿アルブミン値が19を超えるのは、糖尿病になってから5年以上経過してからです。 すでに神経障害が始まる時期ですから、目の合併症も現れているかもしれません。 すぐに眼科を受診してチェックしてください。 ただし、ステージ3は合併症の初期段階のため、ここから本気で治療に取り組めば、ほぼ確実に合併症を治すことができます。 自分の糖尿病の進行度がステージ3とわかったら、高い血糖値をいち早く下げて尿アルブミン値を正常化する治療を受けるように してください。

ところが、実は、糖尿病の合併症を防ぎ治すためには、血糖値を下げるだけでは不十分で、 もう一つ実践しなければならないことがあります。 それは、合併症を招く真の原因となる悪玉物質「AGE」減らしです。 AGEは、「終末糖化産物」という言葉の英訳の頭文字を取ったもので、糖がコラーゲンなどの タンパク質と結合してできる物質のことです。 血液中で過剰になり、行き場を失った糖は、血管の主成分であるコラーゲン線維に付着しますが、そのうちにいくつかは 「アマドリ化合物」という物質に変質します。このアマドリ化合物とほかのコラーゲン線維に付着した糖が結合すると、 AGEになります。 AGEは、神経・腎臓・網膜の血管を障害し、合併症を招く重大原因です。 しかも、AGEは放置していると、体内に10年以上とどまります。 そのため、合併症の予防や治療には、血糖減らしに加えて、体内のAGEを積極的に減らす必要があるのです。


◆ステージ3の治療「AGE対策」

食品を高温加熱するとAGEは急増する

体内でのAGEの増加を防ぐには、高血糖状態をいち早く脱することが先決。 しかし、AGE対策としては、それだけでは十分とは言えません。 なぜなら、AGEは体内で発生されるだけでなく、ふだん食べている食品からも体内に取り込まれるからです。 AGEは、含有量の差こそあれ、ほとんどの食品に含まれています。 そこで、食品に含まれるAGEの多いものを控えるようにすることも有効なのですが、 合併症を退けるうえで特に注意したいのが、食品の調理法です。 AGEの含有量が少ない食品でも、油で揚げたり直火であぶったりする加熱調理を行うと、 食品に含まれる糖とタンパク質がメイラード反応(褐色物質を生み出す反応)を起こして、AGEが大量に発生してしまいます。 特に、魚や肉などを焼いたときにできる焦げには、AGEが高濃度に含まれています。

口から取り込まれたAGEのほとんどは胃や腸で分解されますが、約10%はそのまま体内に吸収されます。 さらに、そのうちの6~7%は体内に長期間とどまり、長い年月をかけて体内に蓄積され、確実に体をむしばんでいき、 合併症を招く重大原因となるのです。 ある実験では、AGEを含む水を3ヶ月にわたってネズミに与え、腎臓の組織に及ぼす影響を調べました。 すると、そのネズミは血糖値が上がっていないにもかかわらず、腎症を発症していました。 つまり、食べ物から摂取したAGEも、糖尿病の合併症を引き起こす原因となることがわかったのです。 そこで、ステージ3の人は、AGEの増加を防ぐため、焼く・揚げるといった高温で加熱する調理法はできるだけ避け、 蒸す・ゆでるなどの比較的低い温度で調理するようにしてください。 また、当然ながら、食品を生のまま摂れば、AGEの摂取量は最小限で済みます。 ふだんの食事では、生で食べられる野菜や刺身などを積極的に摂ることもお勧めです。

このように、ステージ3の人は、高い血糖値を下げるとともに、体内のAGEの量を減らすことを忘れずに実践してください。 ステージ2以下の糖尿病または糖尿病予備軍の人も、合併症予防のためにAGE減らしを心がけるといいでしょう。

なお、ステージ4~6は、中等度以上の合併症が発症している状態です。 ステージ4なら、治療を受けて合併症が治る確率は50%程度、ステージ5以上になると合併症の治癒はほぼ不可能になります。 そのため、たとえ合併症が起こったとしても、ステージ3の段階で発見・治療をすることが大切になります。 ステージ3ですぐに合併症の治療を始めれば、進行を止め、合併症を治すことが十分に可能なのです。