糖尿病腎症の治療

糖尿病腎症の予防や治療で重要なのが、「血糖コントロール、血圧コントロール、たんぱく質の摂取制限」です。 食事や運動などの生活習慣の改善をしっかりと行い、降圧薬を適切に使用して、糖尿病腎症の進行を少しでも防ぐようにしましょう。


■糖尿病腎症の治療

最近の研究で糖尿病と診断された直後から、血糖値と血圧をコントロールすることで、将来の合併症予防に大きな差が出ることがわかってきました。 HbAlcは7.0%未満に、収縮期血圧は130mmHg未満、拡張期血圧は80mmHg未満に保ちます。 高血圧だと糸球体に血液が入っていくときの圧力が高まり、糸球体が傷つきます。 また、腎臓が悪くなって塩分や水分の排出が低下すると、それを補おうとして腎臓自体が血圧を高めようとします。 その悪循環を断つためには、血圧のコントロールが必要です。

初期は、血糖コントロール及び血圧の管理が重要です。 中期から後期は、血糖管理よりもむしろ血圧の管理の方が重要になってきます。 また、後期になって透析を少しでも先送りしたい場合、食事のたんぱく質を減らすことが大切になってきます。 塩分摂取を控えること、たんぱく質の摂取量を減らすという食事療法が大事です。 薬では、降圧薬の中でも アンギオテンシン変換阻害薬、 アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬が有効とされています。

【透析療法】
血液透析と腹膜透析に分かれます。血液透析は人工腎臓を用いて血液をきれいにする方法です。 腹膜透析は、お腹の腹膜を利用して血液をろ過すする方法です。

【関連項目】:『高血圧と腎臓病』


■糖尿病腎症の進行を防ぐには

糖尿病腎症の発症や進行を防ぐには、次のようなことに気をつけましょう。


●血圧は130/80mmHgを目標に

収縮期血圧(最高血圧)が130mmHg未満の、糖尿病患者の糖尿病腎症の発症率を1とすると、 130~140mmHg未満では2.3、140mmHg以上では2.7にもなります。 130mmHg未満に保つことができている場合は、尿たんぱくが減ったり、糖尿病腎症の進行が止まるケースが多く見られます。 このように、血圧のコントロールは、糖尿病腎症の進行を防ぐための重要なポイントです。 収縮期血圧130mmHg、拡張期血圧80mmHg未満を目標にしましょう。 また、尿たんぱくが1日1g以上出ている人は、より低い125/75mmHgを目標とします。 ただ、糖尿病の人は血圧が上がりやすいため、血圧のコントロールが難しいこともあります。 血糖値や血圧をコントロールするためには、食事にも注意します。


●血圧を下げるには

血圧コントロールのためには、次のような点が重要です。

▼1日合計30分間の全身運動
よく体を動かすと、糖を消費しやすくなるほか、脂肪が燃えやすい体になり、肥満の解消に役立ちます。 また、運動することで、血圧も下がります。 「ウォーキング」などの全身運動を、1日に合計30分程度続けるとよいでしょう。 ただし、糖尿病腎症以外にも合併症が現れている可能性もあるので、事前に医師と相談してから、運動を始めてください。

▼食塩、たんぱく質の摂取を控える
まず減塩です。 食塩を摂り過ぎると、血圧が上がってしまいます。糖尿病腎症が進行した場合は、1日に摂る食塩摂取量は6g未満を目標にします。 糖尿病腎症の初期で高血圧がなければ、そこまで減らさなくてもよいと思いますが、 日本人の1日の食塩摂取量は平均で10gを超えているので、多くの人は減塩が必要です。 さらに進行した場合、たんぱく質やカリウムの制限が必要になることもあります。 食事でたんぱく質を多く摂ると腎臓に負担がかかるため、 顕性糖尿病腎症期から控えめにしますが、 総摂取エネルギー量まで落としてしまわないように食事に工夫を加えます。 また、肥満は糖尿病も糖尿病腎症も悪化させます。エネルギーの摂り過ぎにも注意しましょう。
【関連項目】:『健康宅配食』

▼降圧薬の使用
生活習慣の改善を行っても血圧が目標に達しない場合は、薬を使って下げる必要があります。 降圧薬のなかでも、 ACE(アンジオテンシン変換酵素阻害薬) ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)といった降圧薬には、全身の血圧を下げるだけでなく、 たんぱく質が尿中に漏れるのを防いだり、特に腎臓の糸球体の内圧を下げて腎臓を保護する効果があるので、よく使われます。
なお、SGLT阻害薬は、腎臓に作用して血液中の過剰なブドウ糖を尿中に排泄させるほかに、糸状体の負担を軽減する効果も期待できます。 GLP-1受容体作動薬でも、糖尿病腎症の進行を抑える効果が報告されています。 そのため、糖尿病腎症の疑いがある場合は、これらの薬を使うことも検討されます。

▼禁煙、ストレス解消
喫煙すると、血管が収縮して血圧が上がります。 また、ストレスも血圧を上げる大きな要因です。 ストレスを溜めないよう、自分なりの解消法を見つけましょう。

糖尿病腎症の治療の3本柱は、「血糖コントロール、血圧コントロール、たんぱく質の摂取制限」です。 食事や運動などの生活習慣の改善をしっかりと行い、降圧薬を適切に使用して、 糖尿病腎症の進行を少しでも防ぐようにしましょう。


●血糖値は「HbAlc7%未満」を目標にする

HbAlcが7%未満の、糖尿病患者の糖尿病腎症の発症率を1とすると、7~9%未満の人は2.6に増加し、9%以上では4.2にまでなります。、 HbAlcを7%未満に保つことが大切です。


●進行した場合には

たんぱく質やカリウムの摂取制限など、より厳格な管理が必要

糖尿病腎症が進行した場合、血糖値や血圧のコントロールは重要です。 それに加え、進行の程度により食事はたんぱく質やカリウムを制限し、減塩も厳しくします。 たんぱく質は、老廃物のもととなり、摂り過ぎは糸球体に負担をかけます。 また、カリウムは腎臓の働きが低下すると血液中に溜まり、致命的な不整脈につながる場合があります。 この2つは、糖尿病腎症の初期には制限されません。特に、カリウムはかなり進んだ場合に制限されます。 腎不全になると老廃物が体内に溜まってくるため、だるさ、むくみ、吐き気、食欲不振、かゆみ、息切れなっどの症状が現れます。 その場合は、それぞれの症状を抑える薬を使います。


●動脈硬化の進行を抑えることも大切

糖尿病は動脈硬化を進行させますが、糖尿病腎症があるとますます進行し、心筋梗塞や脳梗塞の発症も増えるので、その予防や治療も大切です。


糖尿病腎症の治療の3本柱は、「血糖コントロール、血圧コントロール、たんぱく質の摂取制限」です。 食事や運動などの生活習慣の改善をしっかりと行い、降圧薬を適切に使用して、糖尿病腎症の進行を少しでも防ぐようにしましょう。