糖尿病の治療

糖尿病の治療の目的は、血糖を正常に近い状態にコントロールし、糖尿病の終末像である「合併症を予防する」ことです。 合併症を防ぐためには、血糖を適正な状態に保ち、早期から積極的に血糖値を下げることが大切です。 また、重い低血糖や日内変動に注意することも重要です。 糖尿病の治療には、食事を改善して肥満を予防する「食事療法」、運動で血糖を消費する「運動療法」、 インスリンの分泌を促進したり作用を改善する「経口薬」や「インスリン療法」などの「薬物療法」があります。 近年、「インスリン製剤」を使った薬物療法では、より効果的に血糖をコントロールする方法が、行われるようになってきました。


■糖尿病の治療の目的

「糖尿病の治療」の目的は、インスリン不足あるいはインスリン抵抗性を是正して、 血糖を正常に近い状態にコントロールし、糖尿病の終末像である「合併症を予防する」ことです。 糖尿病の治療の柱は、食事療法、運動療法、薬物療法(経口血糖降下薬、インスリン)になります。 血糖値が少し高めの「糖尿病予備軍」や初期の糖尿病の治療は、食事療法と運動療法から始めます。 それで十分な効果が得られない場合は飲み薬を加え、それでも不十分ならインスリン製剤を用います。 どの段階でも、食事療法と運動療法による生活習慣の改善が治療の基本です。 生活改善と薬で、血糖と血圧、脂質を、通常の基準で管理した”従来療法グループ”と、より厳格にした”強化療法グループ”で、 「脳卒中心筋梗塞」の発症率を調べたろころ、 約8年間の追跡調査で、強化療法グループの発症率が従来療法グループに比べて約53%減少した、というデータがあります。 薬物療法を行う場合でも、生活習慣がきちんと改善されていないと十分な効果が得られないのです。 自分の生活習慣を自覚して改善するためには、食事や運動の記録を付ける方法が有効です。

●治療で目指す目標値

一人一人に合ったHbA1cの目標値が用いられる

治療で目指す目標値には、HbA1cが用いられます。 HbA1cは、血液中のブドウ糖と 赤血球の成分である「ヘモグロビン」というたんぱく質が結びついたものです。 過去1~2ヶ月の血糖値の平均を反映するので、治療の成果や血糖コントロールの状態を知る指標として使われます。 従来は、年齢や病状に関わらず同じ目標値を設定していました。 しかし、病状にそぐわない場合があることから、日本糖尿病学会は2013年に目標値をわかりやすく次の3つに整理しました。

▼HbA1c6.0%未満
健康な人と変わらない値で、血糖の正常化を目指します。

▼HbA1c7.0%未満
糖尿病によるおもな合併症を防ぐのが目標です。

▼HbA1c8.0%未満
血糖コントロールが悪く、慢性の合併症が進んだ重症で治療強化の難しい場合は、いきなり6.0%や7.0%ではなく、まず、8.0%未満を目指します。 基本になるのは7.0%未満ですが、一人一人の患者さんの年齢や糖尿病を発症してからの期間、活動量などに応じて目標値を決めていきます。

●血糖値の日内変動にも要注意

1日の中での血糖値の変動にも注意が必要です。 HbA1cが良好でも、血糖値の日内変動が大きいほど動脈硬化が進みやすく、 心筋梗塞や脳梗塞などを発症する危険性が高いことがわかってきました。 血糖値の日内変動を調べるためには、 「自己血糖測定器」を使って自分で血糖値を測ることが必要です。 一般に、血糖値は食後1時間~1時間30分でピークに達するとされているので、食事開始から1時間~1時間30分後に測ります。 糖尿病の合併症のうち、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞を予防するためには、血糖コントロールと併せて、血圧や コレステロールの値をより厳格に下げることが大切です。 肥満があれば解消し喫煙している場合は禁煙しましょう。


■糖尿病の治療

食事療法や運動療法などでHbA1cを6.5%未満にする

糖尿病があっても治療を受けていない人は少なくありません。 2006年の「国民健康・栄養調査」では、糖尿病が強く疑われる人が820万人だったのに対し、2005年の「患者調査」では、 糖尿病で医療機関に通っている人は247万人でした。 この2つの調査から糖尿病の人の約3割しか治療を受けていないことが推測されます。 日本を含め、世界中で糖尿病が増えていることから、国連は11月14日を「世界糖尿病デー」に指定しました。 当日には、世界中で糖尿病抑制に向けた啓発活動が行われています。

それほど、糖尿病が大きく注目されている理由には、糖尿病を放置して合併症を発症する患者さんが少なくないことが挙げられます。 合併症を防ぐには、糖尿病の早期診断と早期治療が大切です。 また、ある程度進行した「糖尿病腎症」でも、 血糖と血圧の厳格なコントロールによって、腎機能が回復するケースもあります。

糖尿病の治療法には、「食事療法」「運動療法」、経口薬やインスリン製剤を用いる「薬物療法」があります。 治療効果は、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映する「HbA1c」で判定します。 HbA1cが、三大合併症の発症などを防ぐと考えられる「6.5%未満」になるように治療を進めていきます。


■食事療法

食事を改善して肥満を予防する

血糖値は毎日の食事に大きく左右されます。 食べ過ぎによる「肥満」は、糖尿病の明らかなリスクです。 まず、自分の体格や1日の活動量に応じた適正なエネルギー量を知り、その範囲内で食事を摂るのがポイントです。 栄養のバランスにも注意する必要があります。特に動物性脂肪はエネルギー量が多く、摂り過ぎると内臓脂肪が蓄積して、 インスリンの分泌や作用の障害に繋がるため、適量にとどめます。 甘いものも血糖値を上げやすいので摂り過ぎないようにしましょう。 逆に、食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑えるため、積極的に摂ってください。 1日3食規則正しく食事を摂ることや、よく噛んでゆっくり食べることも大事です。 間食は、1日の適正な摂取エネルギー量の範囲内で摂るようにします。 血糖のコントロールが良好であれば、適量のお酒を楽しむこともできます。

【関連項目】:『糖尿病の食事療法』


■運動療法

運動で血糖を消費する

運動には、インスリン以外の作用を介してブドウ糖の取り込みを促進する効果や、インスリンの作用を改善する効果があります。 また、肥満の改善にも効果的です。運動療法に適しているのが ウォーキングなどの「有酸素運動」です。 食事の1~2時間後に、なるべく30分以上継続して行うと効果的です。 それを週に3日以上行うことで、運動療法の効果をより高めることができます。 ただし、合併症や 「動脈硬化症」 「不整脈」などが潜んでいる場合がありますから、 運動療法を始める前に必ず医師の診察や指導を受けましょう。 その他、”エレベーターやエスカレーターを使わず階段を使う”というように、日常生活の中で積極的に体を動かすことも運動療法になります。

【関連項目】:『糖尿病の運動療法』


■薬物療法①「経口薬」

インスリンの分泌を促進したり作用を改善する薬を使う

食事療法や運動療法だけでは血糖のコントロールが不十分な場合は、並行して「経口薬」を使います。 経口薬は、作用の違いによって大きく3種類に分けられます。

▼インスリン分泌促進薬
【効果】膵臓からのインスリンの分泌を促す。
【副作用】低血糖
放置すると命にかかわる低血糖を起こすことがあるため、適切な処置を医師に聞いておく。

▼食後高血糖改善薬
【効果】小腸でのブドウ糖の吸収を緩やかにする。
【副作用】おなかが鳴る。おならがでる、など。
ブドウ糖の吸収を遅らせて、血糖値の上昇を緩やかにする。食事を摂る直前に服用する。

▼インスリン抵抗性改善薬
【効果】インスリンの作用をよくする。
【副作用】むくみ、体重増加、お腹が張る、下痢、便秘など。
肝臓や筋肉、脂肪組織に作用して、インスリンの作用をよくする。稀に重篤な副作用を起こすことがある。

経口薬には、食事の直前に服用するものもあるので、医師に指示されたタイミングを守って服薬することが大事です。 薬によっては、体重が増えたり、血糖値が下がり過ぎる「低血糖」を起こしたりする場合があり、 こうした副作用を防ぐためにも、食事療法を徹底することが重要です。

●作用の異なる新薬

従来の薬と作用の異なる「GLP-1類似薬」「DPP阻害薬」があります。 これらの薬は低血糖が起こりにくいのが特徴で、インスリンの分泌を促す作用を持っています。 また、GLP-1類似薬は、食欲を抑えたり、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能を改善させたりする効果も報告されています。

【関連項目】:『糖尿病の薬物療法』


■薬物療法②「インスリン療法」

インスリン療法は、患者さんがインスリン製剤を注射する治療法です。 一般に、経口薬で十分な効果が得られなければインスリン療法を行います。 従来インスリン療法では、できるだけ少ない使用回数で血糖をコントロールしていました。 しかし、最近は、インスリン製剤を使用する回数やタイミングによって健康な人のインスリンの分泌パターンにできるだけ近づける 「強化インスリン療法」が主流になっています。

●早めにインスリン療法を行う方がよい場合も

患者さんの中には、”インスリン療法は最終的な手段””一生続けなければいけない”と思い込み、使用に抵抗感を持つ人もいます。 しかし、早めにインスリン療法に切り替えると、高血糖が改善するほか、膵臓のインスリン分泌機能を温存することができます。 早めに切り替えることで経口薬が効きやすくなり、経口薬のみの治療に戻ることができる場合もあります。 さらには、以前より少ない量の経口薬で、血糖を管理できるようになることも期待できます。

【関連項目】
  『インスリン療法』