糖尿病の最新治療③新薬「インクレチン」
体内のインスリンを増やす新薬『インクレチン』が話題になっています。
■インクレチン関連薬
初期の患者さんも安心して使える
糖尿病を内服薬で治療する場合、これまでは大きく分けて5種類の薬が使われてきました。 この中には、低血糖・体重増加・消化器症状などの副作用を起こすものがあります。 低血糖を起こす可能性がある薬は、血糖値がそれほど高くない初期の患者さんには使いづらく、 血糖値がある程度高い患者さんでないと安心して使えないという欠点がありました。 また、薬でインスリンを分泌させるので、空腹になり食べ過ぎてしまう、体重が増えてしまう、ということも多かったのです。 さらに、お腹の張り、ガス(おなら)、下痢といった消化器症状も、我慢しなければなりませんでした。 糖尿病の治療は、長く続ける必要があります。そのため、こうした副作用は患者さんの治療意欲を低下させ、 薬物治療を続けにくくさせる要因となっているのです。
こうした問題点を解消すべく、新たに登場したのが、『インクレチン関連薬』と呼ばれる薬です。 インクレチンは、私たちの体内で分泌されるホルモンです。食事をして血糖値が上がりかけると腸管から分泌され、 膵臓に働きかけます。そして、血糖値を下げるインスリンの分泌を促すと同時に、血糖値を上げるグルカゴンという ホルモンの分泌を抑えて、血糖値を下げる働きをします。 インクレチン関連薬は、高血糖の時にだけ働くので、低血糖を起こしにくいという特徴があります。 また、胃からの食物の排出を遅らせて食欲を抑えるので、体重の増加も起こりにくいのです。 さらに、従来の内服薬のように、消化器症状に悩まされることもありません。 これまで使われてきた薬と同等の効果があり、副作用がなく安全性に優れ使いやすいなど、 有効性だけでなく、利便性も極めて高いのが、インクレチン関連薬の優れた特徴です。 これまでの糖尿病薬は、低血糖を起こすため、血糖値がそれほど高くない初期の患者さんには使いづらいと冒頭で述べましたが、 しかし、インクレチン関連薬は低血糖を起こさないため、初期の患者さんにも安心して使うことができます。
■運動・食事療法との併用
運動・食事療法との併用で効果が高まる
これまで、糖尿病の治療は、まず運動と食事制限を行い、それで思わしい結果が出ない場合には薬物治療を始める、 というのが基本でした。しかし、最近はこの考え方が変わってきました。 つまり、運動療法と食事療法を行いながら、初期のうちから薬物療法を併用するのが望ましいとする考え方です。 インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されますが、糖尿病が発症した時点で、β細胞の数は半分以下に減っています。 発症後は、年を追うごとにさらに減っていますが、血糖値の管理がよくないと、減り方が速くなってしまうのです。 β細胞が一定以下に減ってしまうと、自前のインスリンの分泌が期待できなくなるため、 インスリンの注射しか治療手段がなくなります。 しかし、自前のインスリンが分泌されていない状態でインスリンを注射しても、良好な結果を得られないのが実情です。 そんなところから、薬物治療は初期のうちから始めて、なるべく膵臓の機能を低下させないことが大切だと考えられるようになったわけです。 実際に、ここ30年ほどの英米の研究では、食事療法だけよりも、早くから薬物療法を行った方が、死亡率、心筋梗塞の発症率、 血管障害の合併症率などが低いという結果が報告されています。
また、動物実験で、インクレチン関連薬はβ細胞の減少を抑える効果のあることが確認されています。 インクレチン関連薬は、初期からの使用にとても適した糖尿病治療薬と言えます。 初期だけでなく、中等度以上の患者さんにも使いやすい薬です。 さらに、インクレチン関連薬は、他の薬との相性も良く、従来の薬と組み合わせて使用しても、良好な結果を得やすいのです。 インクレチン関連薬は、患者さんにとって、とても使いやすい優秀な治療薬です。 とはいえ、糖尿病治療の基本は、運動と食事であることに変わりはありません。 運動と食事療法に努めながらこの薬を使うことで、さらに効果を高めることができるのです。
このように、多くの利点があるインクレチン関連薬ですが、1型糖尿病のように、インスリンの補充が不可欠な患者さんには 使用できません。また、病歴の長い2型糖尿病のように、自前のインスリンを分泌する能力が極端に低下した患者さんは、 効果を得られにくくなります。その点は注意が必要です。