糖尿病の最新治療①難治性創傷の先端治療
「リム・サルベージ(足の救済)」
糖尿病の合併症である血管障害や神経障害によって皮膚が壊死する『難治性創傷』を治療するために、 創傷を治療する診療科と血流障害を改善する専門家が密接なチーム組んで協力しながら治療する医療法を 『リム・サルベージ(足の救済)』といいます。 リム・サルベージ(足の救済)によって、糖尿病で壊死した皮膚が回復し、 足の切断を免れる人が続出しています。
■難治性創傷
小さな傷が足の切断を招く
糖尿病の合併症である血管障害や神経障害は、ときには足の切断を招くことがあります。 健康な人ならすぐに治る小さな傷も、糖尿病の患者さんの場合は治らず、逆に大きくなって潰瘍化し、 患部の中枢から切断しなければならなくなるのです。 健康な人はケガや手術で皮膚欠損ができても、その創傷(傷口)から肉芽細胞(毛細血管やコラーゲン、ヒアルロン酸といった 線維芽細胞などからなる増殖力旺盛な若い結合組織)ができ、皮膚まで覆われて傷口は塞がります。 ところが、糖尿病で循環障害を起こした患者さんの足にメスを入れると、その傷口からどんどん壊死が進行し、 膝の上まで切断しなければらなくなることも珍しくないのです。 このような治りにくい傷のことを『難治性創傷』といいます。
日本の糖尿病の患者さんは、予備軍を併せると推定2210万人。 糖尿病と高頻度に合併する「末梢動脈疾患(手足の血行不良が起こる病気)」を発症する患者さんは320万人と推定されており、 足の切断に至る危険は小さくないと考えられます。 足を切断すると、生活に困難を招きますが、生命まで危うくなることを示すデータがあります。 大腸癌の場合、5年後の死亡率は53%、1年後の死亡率は22%です。 一方、足首より上で下肢を切断した人の5年後の死亡率は70%、1年後の死亡率は31%と、大腸癌の人よりも、 足を切断した人の方が死亡率は高いのです。足の切断を防ぐことは、命を守るためにも極めて大切です。 そこで、糖尿病の患者さんの足を切断から守る『リム・サルベージ(足の救済)』という取り組みが、 世界的な課題として進められています。
■リム・サルベージ(足の救済)
ここ数年で進歩したチーム医療と技術
糖尿病の患者さんの足の傷が治りにくく、切断にまで至ってしまう原因の多くは、「血流障害」です。 そこで創傷を治療する診療科と血流障害を改善する専門家の密接なチーム医療が必要となります。 血流障害に対しては、循環器内科による「カテーテル治療」(血管内に管を挿入して血管を広げる治療)や、 血管外科による「血行再建手術」(血管を移植するバイパス手術)が行われます。 以前は、末梢の細かい血管まで血流改善をすることが困難であったため切断に至るケースが多く見られました。 しかし、この数年で、足首あたりの細い血管へもカテーテル治療や血行再建手術ができるようになり、 血流障害の治療はいっそう高い効果が得られるようになったのです。
血管の治療が済んだら、創傷治療が行われます。創傷治療で決定的な役割を果たすのが、最新の治療理論に基づく手術テクニック、
成長因子製剤(FGF製剤)をはじめとする効果的な薬剤及び局所陰圧閉鎖療法など革新的医療機器・材料です。
バイオテクノロジーによって開発されたEFG製剤は、人が本来持っている細胞増殖因子を臨床応用したもので、
血管や皮膚の再生を強力に促進して傷を回復させます。
局所陰圧閉鎖療法は、患部にチューブを留置して専用装置を作動させ、傷の内部を陰圧(内部の圧力が外部より低い状態)にして、
浸出液を吸引除去する治療です。
陰圧の力で創縁(傷の縁の部分)が引き寄せられて傷口が縮小し、細胞や血流が活性化します。
さらにバクテリアによる老廃物を除去することでこれまで治すことが難しかった重症の傷を速やかに治癒させることができます。
この治療は現在保険適用され全国の基幹病院に普及しつつあります。
傷を治した後は再発予防が肝心です。全身を管理する内科医師はもちろん、治療用の靴や装具(フットウェア)を設計する
技師装具士、フットケアを担当する看護師などが重要な役割を演じます。
このようにリム・サルベージには高度なチーム医療が必要で、最近では診療科や職種の壁を超えた学会活動や地域医療のおける
診療連携の取り組みが活発になっています。