Hb1c8%未満、無理に下げない

糖尿病の罹患歴が長い患者さんなどの場合、無理に血糖値を下げると「心筋梗塞」などの合併症の危険があるため、HbA1c8.0%を目標値とします。


■糖尿病が進行した場合

血糖のコントロールと併せて、合併症への対策が必要

糖尿病の初期は自覚症状のないことがほとんどなので、軽く考えて放置している人が多くいます。 しかし、血糖値の高い状態が長く続くと、全身の血管が障害されてさまざまな症状が起こってきます。 糖尿病の合併症には、細い血管に起こる「網膜症」「腎症」「神経障害」があります。 全身の太い血管では、動脈硬化が進行して、「脳梗塞」や「心筋梗塞」、心筋梗塞の一歩手前の「狭心症」などを起こしやすくなります。 特に糖尿病の患者さんが心筋梗塞を発症すると、その後の経過が非常に悪いことがわかっています。 心筋梗塞を起こすと、激しい胸の痛みに襲われますが、神経障害がある場合は痛みを感じないことがあるので注意が必要です。


●血糖値は無理に下げない

本来合併症を防ぐためには、HbA1c7.0%未満を目標に治療を行います。しかし、糖尿病の罹患歴が長い、HbA1cが高い、高齢である といった患者さんの場合はなかなかそこまで下がりません。無理に下げようとして、飲み薬やインスリン製剤による治療を 強化すると、血糖値が急激に下がり、「低血糖」という危険な状態に陥りやすくなります。 糖尿病の患者さんで狭心症を伴っている場合には、低血糖によって心筋梗塞が引き起こされる危険性もあります。 低血糖は全身のエネルギー源が不足する緊急事態のため、交感神経の働きが急に高まります。 血管が収縮して血圧が上がり、血液も固まりやすくなります。血管内にコレステロールの溜まった「プラーク」という 瘤状の膨らみがあると、破裂してできた血栓が心臓を取り巻く血管に詰り、心筋梗塞を起こすと考えられます。 こうしたリスクを避けるためには、まずHbA1c8.0%を目標に、慎重に治療を行っていくことが必要です。


■合併症を避けるために①

心筋梗塞などのリスクとなる低血糖を起こさないようにする。

低血糖は、血糖値が下がり過ぎた状態のことで、一般的には血糖値が60mg/dl以下くらいを指します。 低血糖は、食事を抜く、食事を摂る時間が遅れる、いつもと違う激しい運動をした時などに起こりやすくなります。 低血糖を予防するためには、食事は規則正しく摂り、食事の前の運動などは避けるようにします。 特に、早朝の空腹状態で行う運動はよくありません。 一部の飲み薬やインスリン注射でも、薬が効きすぎて低血糖になる場合があります。 自分の使っている薬が低血糖を起こす可能性がないか、担当医に相談しておくとよいでしょう。 ただし、インクレチン関連薬だけを使っている場合は、低血糖になりにくいとされています。

●低血糖の症状と対処法

低血糖になると、「強い空腹感」「手の震え」「動悸」などが現れます。ひどい場合には、「生あくび」「思考力の低下」 「意識の低下」なども起こってきます。こうした症状が起こってきた場合は、甘いものやブドウ糖を口にして糖質を補充します。 しかし、低血糖でなかった場合は、反対に糖尿病を悪化させる要因になります。できれば症状が出たときに 「自己血糖測定器」 を使って血糖値を測り、低血糖かどうかを確認してください。より詳しい血糖値を知りたい場合は、専用の装置を体に装着して 血糖値を24時間測定する「持続血糖測定」を行うとよいでしょう。 持続血糖測定を行うと、自動的に血糖値を把握することができるので、気が付きにくい睡眠中の低血糖も発見できます。 睡眠中の低血糖が見つかった場合は、スルホニル尿素薬や持効型のインスリン製剤を減量するなどの対策が講じられます。 通常、持続血糖測定は入院して行うことが多いので、希望する場合は担当医に相談してください。


■合併症を防ぐために②

細い血管の合併症対策として、自己チェックや定期検査を行う

全身の細い血管に起こる神経障害、網膜症、腎症は早期に発見して治療を行うことが大切です。 そのためには、自己チェックや定期的な検査が欠かせません。

糖尿病神経障害
末梢血管が障害されるのに伴い、足先の神経にしびれや痛みが現れます。足先の血行不良が生じたり、知覚神経が麻痺すると、 小さなやけどや水虫、靴擦れなどが起こっても感じ取れません。そのため悪化して足先の切断に至るケースもあります。 そうした事態を防ぐためには、糖尿病と診断されたら足先を毎日観察して異常の有無を確認することです。 また、神経障害があると風呂やこたつの温度が高くても感じにくく、やけどをすることもあるので注意してください。 神経障害を防ぐ薬もありますが、治療の基本は血糖コントロールです。

糖尿病網膜症
目の奥の網膜の血管が詰まったり、出血して起こります。網膜症の初期には、自覚症状がないのでなかなか気が付きませんが、 進行すると視力が低下して、失明に至ることもあります。網膜症を早期発見するためには、糖尿病と診断されたら、 少なくとも1年に1回は眼科を受診して、「視力検査」や「眼底検査」を受けることが大切です。

糖尿病腎症
腎臓の細い血管の塊である糸球体が障害されて、老廃物や余分な塩分、水分などを尿に排泄する働きが低下します。 最終的には、透析療法が必要になる場合もありますが、腎臓の障害が相当進行するまで自覚症状はありません。 腎症の早期発見には、尿検査で尿の中に「たんぱく」が出ているかどうかを調べたり、血液検査で「血清クレアチニン」 の値を調べることが必要です。さらに、尿検査で尿中の「微量アルブミン」の有無を調べれば、早期の腎症を発見することが可能になります。