糖尿病の食事療法

糖尿病の治療では、薬物療法も行いますが、基本はあくまでも食事と運動です。 糖尿病の食事療法の目的は、血糖値を適正な状態に管理するとともに、体内の栄養素、 およびビタミンやミネラルのバランスを改善して合併症を防ぐことで、そのために、食事を適切に管理します。 基本的には、空腹時の血糖値は130mg/dL未満に保ち、食後2時間の血糖値は180mg/dL未満に保ちます。 HbA1cでは、6.9%(NGSP)未満に相当します。 自分の身体活動量に合った適正なエネルギー量でバランスの取れた食事を毎日家庭できちんと摂るには、 「食品交換表」を利用すると、食品の栄養やエネルギー量がよくわかります。


■適正なエネルギー量を知る

自分の体質、仕事、日常の身体活動量に見合った、適正なエネルギー量を知り、それにに合わせて食生活の見直しをします。 一般的には「標準体重」と「身体活動量」から、適正エネルギー量を求め、そのなかで各栄養素のバランスのとれた食事を摂ります。 計算式は以下のようになります。

身長(m) × 身長(m) × 22 = 標準体重
標準体重×身体活動量=1日の適正エネルギー量


配分は一般的には、糖質55~60%、たんぱく質15~20%、脂質20~30%が適正と考えられています。 実際の食事療法は、医師や栄養士から指導を受けます。また、自分で計算する場合には「食品交換表」を使います。 食品交換表では、日常の食品を6つのグループに分け、80kcalを1単位として適正摂取量を示しています。

高血糖以外の代謝異常や合併症がある場合には、その対策が必要です。 インスリン非依存型糖尿病ではしばしば「肥満」を伴っていますが、 肥満はインスリン抵抗性を高め、たくさんのインスリンを必要とする状態を引き起こすので、 エネルギー量と脂肪摂取量を制限して減量し、適正体重を維持することが必要です。 また、「高血圧」があれば塩分制限(1日6~7g以下)が、 「高脂血症」があるときはコレステロール制限(300mg以下)が必要です。

糖尿病対策に欠かせない食事療法は、必ず医師の指導の下で行います。 その人に適正なエネルギー量などが指示されますので、それに従った食事をするようにしてください。


■低血糖に注意

食事の摂り方などに注意して、重い低血糖を防ぐ

治療中には「低血糖」にも注意する必要があります。 最近、アメリカの臨床研究では、目標値をかなり低く設定し、短期間でHbA1cを下げた場合は、 大血管障害の発症は抑制できず、死亡率は上がったという結果が出ました。 この臨床研究では短期間で厳格な管理を行ったため、「重篤な低血糖」が起こったことが報告されています。 その影響で心筋梗塞などが起こったとみられています。 重い低血糖を起こさないためには食事を抜いたり、遅らせたりしないことが大切です。 スポーツなどで普段より体を動かすときは血糖値が下がりやすいので、体を動かす途中でビスケットなどの軽食を摂るようにします。 糖尿病の治療薬には低血糖を起こしやすいものもあるので、量やタイミングを守って使いましょう。 低血糖を起こすと、「空腹感が強くなる」「冷や汗が出る」「手や指が震える」などの症状が現れます。 そうした症状が現れたら、 直ちにブドウ糖や砂糖を含む食品を摂ってください。 また、予防対策についても担当医に相談してください。


■日内変動を小さくする

自分の血糖値を把握して、1日の変動を小さくする

1日の血糖値の変動を現す「日内変動」を小さくすることも大切です。 健康な人の1日の血糖値は、食後に少し高くなる程度で、それほど大きな変動はありません。 健康な人では、低いときの血糖値は70~80mg/dL、高くても140mg/dL程度と比較的低い範囲で変動しています。 しかし、糖尿病の患者さんはさまざまな治療を受けていても、血糖値が起床前に低下しすぎたり、 食後に過剰に高くなるなど日内変動が大きくなることがあります。 日内変動が大きくなると、合併症のリスクが高くなるため、注意が必要です。 血糖値の日内変動を知るためには、自分で血糖値を測定する必要があります。 測定する器具には様々なタイプがあります。 多くは、消毒した指先から専用の器具で血液を出し、それを測定器に当てると、血糖値が表示されます。 糖尿病では、気付かないうちに高血糖や低血糖になっていることもあるので、食事の前後や起床時など、こまめに血糖値を測るとよいでしょう。 最近は、「持続血糖モニター」も特定の医療機関で使われています。


■糖尿病の食事療法のポイント

糖尿病の食事療法の目的は、血糖値を適正な状態に管理するとともに、体内の栄養素、 およびホルモンやミネラルのバランスを改善して合併症を防ぐことで、そのために、食事を適切に管理します。 基本的には、空腹時の血糖値は130mg/dL未満に保ち、食後2時間の血糖値は180mg/dL未満に保ちます。 HbA1cでは、6.9%(NGSP)未満に相当します。 自分の身体活動量に合った適正なエネルギー量でバランスの取れた食事を毎日家庭できちんと摂るには、 「食品交換表」を利用すると、食品の栄養やエネルギー量がよくわかります。


●主食・主菜・副菜を揃える

食事の内容は基本となる栄養素であるたんぱく質、糖質、脂質をバランスよく配分し、 不足しがちな ビタミンミネラル食物繊維を十分に摂ることが大切です。 主食・主菜・副菜を揃えることで栄養バランスが取れてきます。 主食のごはんやパンなどでは糖質が、主采の肉や魚、卵、大豆製品などではたんぱく質が主に補給されます。 野菜、海藻などでビタミン、ミネラル、食物繊維などが補給されるのが副采です。 厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」(2005年度版)でも、食物繊維をもっととるべきであると指摘されています。 食物繊維は、寒天や切り干し大根といった和食の食材に豊富に含まれています。

また、肥満を防ぐとともに糖尿病の予防になる食べ方の工夫として、脂肪の多いものや甘いものを摂り過ぎないこと、 味付けを薄くして素材の持ち味を活かすこと、おかずは1人分の皿に盛り、茶碗を小さくすること、などがあります。


●食事は決まった時間に

血糖値の変動を少なくするために、1日3回の食事をほぼ均等分し、できるだけ決まった時間に時間をかけて食べるようにしましょう。 また、エネルギー量を抑えても、毎日の食事がおいしく食べられるように食事に変化をつけましょう。 栄養専門学校などで習う方法もあります。


●重要な栄養素の補給

糖尿病の食事療法において注意が必要なのは、摂取カロリーを控えるときに、ビタミンやミネラルが不足しがちになることです。 大事な栄養素が欠乏しないよう、バランスよく補給しましょう。 糖尿病対策としては、次のことを知っておくとよいでしょう。

ビタミンA
病気への抵抗力を高めます。

ビタミンB1・B2
ブドウ糖の代謝を高め、血糖コントロールを助けます。 糖尿病では乳酸がたまって疲れやすくなることがありますが、ビタミンB1には乳酸の分解を助ける働きもあります。

ビタミンC
血管を丈夫にします。また、風邪などの感染症から身を守ります。

ビタミンE
活性酸素などによって細胞が酸化されることを防ぎます。

食物繊維
胃に長くとどまり、消化吸収のスピードを緩やかにして、血糖値の急上昇を防ぎます。

亜鉛
インスリンを作るために必要なミネラルで、ブドウ糖が細胞に取り込まれる際にも 亜鉛が必要です。食品ではカキに多く亜鉛が含まれています。 また、サプリメントで亜鉛を補給して血糖の上昇を抑える研究が進められています。

バナジウム
微量ミネラルの一種ですが、血糖値を下げる効果が期待されています。 バナジウムは、一部のミネラルウォーターや、アサリなどの貝類、パセリ、黒コショウなどに含まれています。


●食べ過ぎを防ぐために

つい食べ過ぎてしまうという人は、「まず間食を減らす、やめる」というように、少しずつ過食を是正していくことから始めます。 食べる量を一気に減らすと、なかなか長続きしないので、徐々に体を慣れさせていきましょう。 お腹がすいた場合は、歯磨きや入浴、軽い運動などをして、他のことに意識を向けると、空腹を感じにくくなります。 毎日、体重を測ることも大切です。食事療法の成果を実感でき、継続していくモチベーションになります。


●合併症がある人は注意が必要

「肝臓病」がある人や、 重症の「糖尿病の合併症」がある場合は、これらが改善するまでの間、禁酒をします。 「高血圧」を合併している場合は、1日の食塩摂取量は6g未満が目標です。 「糖尿病腎症」が進行している場合は、 たんぱく質を摂ると腎臓に負担がかかるため、たんぱく質の制限が必要になることがあります。 たんぱく質を控えると摂取エネルギーも少なくなるため、食事の内容を見直して、不足するエネルギーを補う必要があります。 医師や管理栄養士と相談しながら、適切に食事・栄養の管理を行ってください。


●外食するときのコツ

丼物や麺類などの単品より、品数の多い定食を選びます。また、量が多ければ残す習慣もつけましょう。 外食では野菜が不足しがちなため、その分、家庭で野菜を補います。 外食は最低限にとどめるようにしましょう。