糖尿病「自分に合った目標値を目指す治療」①

糖尿病』は、全身に様々な合併症を引き起こします。 合併症を防ぐためにも、糖尿病についてよく知ることが大切です。


■糖尿病

インスリンの作用が低下し、ブドウ糖が血液中に増加する

糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が非常に高い状態になる病気です。 ブドウ糖は食事から体の中に取り込まれ、血流によって全身に運ばれます。ブドウ糖は筋肉などでエネルギー源として使われて、 余分なブドウ糖は肝臓などに貯蔵されます。この時、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが全身に 作用しています。ブドウ糖は、インスリンが作用することによって筋肉や肝臓に取り込まれますが、糖尿病があると インスリンが十分に作用しないので、ブドウ糖は筋肉や肝臓に取り込まれません。 そのため、血液中のブドウ糖の量が常に多くなってしまいます。


●インスリンの作用が低下する原因

インスリンが十分に作用しなくなる主な原因には、次の2つがあります。

▼インスリン分泌量の低下
膵臓から分泌されるインスリンの量が少なくなります。遺伝的な体質が関係しており、日本人はこの体質を持つ人が多いと いわれています。

▼インスリン抵抗性
インスリンは十分分泌されていても、筋肉や肝臓で十分に作用しなくなることを「インスリン抵抗性」といいます。 原因は肥満で、「内臓脂肪」が蓄積すると、脂肪細胞からインスリンの働きを悪くする物質が多く分泌されるためだ と考えられています。欧米人に多いタイプですが、最近は日本人にも増えていることがわかってきました。

糖尿病の多くは、この2つの原因が重なって起こると考えられています。


■糖尿病のリスク

治療を受けずにいると、合併症を起こす危険性がある

糖尿病が強く疑われる人は、1997年には約690万人でしたが、2011年は約920万人と増え続けています。 その背景には、脂質の摂取量の増加や肥満の増加、運動不足などがあります。 さらに問題なのは、4割近くの人がほとんど治療を受けていないことです。 治療を受けずに糖尿病を放置していると、血液中のブドウ糖によって全身の血管が傷つけられて、さまざまな合併症が 引き起こされます。糖尿病の合併症には、大きく分けて全身の細かい血管に起こるものと、太い血管に起こるものがあります。

●細い血管に起こる合併症

「網膜症」「腎症」「神経障害」などがあります。網膜症は、目の奥の「網膜」の細い血管が詰まったり、出血したり します。腎症は、細い血管の塊である腎臓の「糸球体」が障害されます。神経障害は、末梢の血管が傷つくのに伴って、 足先などの神経にしびれや痛みが起こります。足先にできた小さな傷が悪化(壊疽)して、足先を切断するケースもあります。

●太い血管に起こる合併症

糖尿病は、「高血圧」や「コレステロール値の異常」と同じく、動脈硬化を進行させます。そのため、健康な人に比べて 「脳梗塞」は2倍、「心筋梗塞」や「狭心症」は2~4倍起こりやすくなります。目や腎臓の合併症は動脈硬化の原因になることも 忘れないようにしましょう。

■診断と治療

糖尿病と診断されたら、まずは生活習慣の改善から始める

糖尿病は、主に血液検査で「空腹時血糖値」「随時血糖値」「HbA1c」などを調べて診断します。 空腹時血糖値の場合は、126mg/dl以上が「糖尿病型」で、110mg/dl以上は「境界型」と判断されます。 境界型というのはいわゆる”糖尿病予備軍”に当たります。随時血糖値は空腹かどうかを問わず行うもので、 200mg/dl以上だと糖尿病型と判定されます。HbA1cは6.5%以上が糖尿病型です これ以外に、診断のためにブドウ糖液を飲んで、その後の血糖値の上がり方を調べる「ブドウ糖負荷試験」という、 より精密な検査もあります。こうした検査のうち2つ以上で、糖尿病と判定された場合などに糖尿病と診断されます。

●治療の基本は生活習慣の改善

糖尿病の治療法は、大きく2段階に分かれます。最初に行われるのが生活習慣の改善で、高血糖や肥満につながる食事や 運動不足などを改めます。それでも血糖を十分にコントロールできない場合には、「飲み薬」や「インスリン製剤」を 使った治療が行われます。
一方、境界型と判定された場合は、糖尿病になる一歩手前の段階です。太い血管に起こる動脈硬化は境界型のときから 進行することがわかっています。境界型と判定された場合は、生活習慣の改善に取り組むとともに、 定期的に糖尿病の検査を受けることが大切です。特に、家族に糖尿病がある人がいる場合は注意しましょう。


■治療で目指す目標値

一人一人に合ったHbA1cの目標値が用いられる

治療で目指す目標値には、HbA1cが用いられます。HbA1cは、血液中のブドウ糖と赤血球の成分である「ヘモグロビン」 というたんぱく質が結びついたものです。過去1~2ヶ月の血糖値の平均を反映するので、治療の成果や血糖コントロールの状態を 知る指標として使われます。従来は、年齢や病状に関わらず同じ目標値を設定していました。 しかし、病状にそぐわない場合があることから、日本糖尿病学会は2013年に目標値をわかりやすく次の3つに整理しました。

▼HbA1c6.0%未満
健康な人と変わらない値で、血糖の正常化を目指します。

▼HbA1c7.0%未満
糖尿病によるおもな合併症を防ぐのが目標です。

▼HbA1c8.0%未満
血糖コントロールが悪く、慢性の合併症が進んだ重症で治療強化の難しい場合は、いきなり6.0%や7.0%ではなく、 まず、8.0%未満を目指します。基本になるのは7.0%未満ですが、一人一人の患者さんの年齢や糖尿病を発症してからの期間、 活動量などに応じて目標値を決めていきます。

●血糖値の日内変動にも要注意

1日の中での血糖値の変動にも注意が必要です。HbA1cが良好でも、血糖値の日内変動が大きいほど動脈硬化が進みやすく、 心筋梗塞や脳梗塞などを発症する危険性が高いことがわかってきました。 血糖値の日内変動を調べるためには、「自己血糖測定器」を使って自分で血糖値を測ることが必要です。 一般に、血糖値は食後1時間~1時間30分でピークに達するとされているので、食事開始から1時間~1時間30分後に測ります。
糖尿病の合併症のうち、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞を予防するためには、血糖コントロールと併せて、 血圧やコレステロールの値をより厳格に下げることが大切です。肥満があれば解消し、喫煙している場合は禁煙しましょう。