先付トマト食事法【高血糖対策・糖尿病予防に】②

糖尿病の食事療法(糖質制限やカロリー制限など)が長続きしないのは、糖質やカロリーの摂取をあまりにも厳しく制限するためです。 特に今人気の糖質制限は厳格に行うと体への負担が大きく、腎臓を傷める場合もあり要注意です。 今、カロリーも糖質も制限不要で血糖値が下がり安定する画期的な食事法『先付トマト法』が注目されています。


■1年後の継続率が3割以下の食事療法もある

食事は血糖値を上昇させる直接の原因であるため、血糖値をコントロールする上で、食事療法は欠かせません。 ほとんどの患者さんはそのことをよく知っています。そのれでも、私のクリックを訪れる患者さんからは、 「食事制限を試してみたが、長続きしない」という声が多く聞かれます。 従来から行われているカロリー制限や、最近話題になっている糖質制限といった食事療法を行っては見たものの、 続かないというのです。なぜでしょうか。
それはどちらの食事療法も「制限」が厳しするからだと私は考えています。 そこでまず、「カロリー制限」による食事療法について詳しく見てみましょう。


●カロリー制限

カロリー制限では、体重や運動強度、年齢などを考慮して、その人に必要なカロリーを割り出します。 面倒な計算は医師や栄養士がやってくれるとしても、そのカロリー制限を実際に行うのは患者さん本人。 栄養のバランスを取りながらカロリー制限を守るのはとても難しいので日本糖尿病学会では「食品交換表」 を用いた食事療法を用いた食事療法を勧めています。
ところが、食品交換表には、①食品を6つのグループに分類する、②80kcalを1単位として各グループから決められた分量の 食材を摂取する、③同じグループの中であれば食品を交換できる、といった煩雑なルールがあり、 これらを守るのは非常に面倒です。 患者さんは、「食品の分類がわからない」「単位計算が面倒」「自分で料理が作れない」など、さまざまな理由であきらめてしまいます。 私たちの行った調査では、食品交換表を用いた栄養指導の継続率はとても低く、1回受けただけでやめた患者さんは28%、 10回未満受けただけでやめた患者さんは44%にも上り、1年続けられた患者さんはわずか28%と全体の1/3にも満たなかったのです。

●糖質制限

次に、厳格な「糖質制限」をする方法についてみてみましょう。 この食事療法は、ご飯や甘いものといった糖質を含む食べ物は制限されますが、それ以外のタンパク質や脂質については いくら食べてもかまわないというものです。ところが、試してみた患者さんからは、満腹感が得られにくい、 外食では制限するのが難しい、食費がかかりすぎる、家族との食事の作り分けが面倒、料理のバラエティが限られる、 などの感想をよく耳にします。確かにこの食事法だと、血糖値を上昇させる糖質を摂らないので、血糖値は下がります。 しかし、長期的に続けると、弊害が出てくる可能性があります。


最近、私のクリニックには、疲れや気力不足などの体調不良を訴える人が増えています。 詳しく話を聞くと、無理なカロリー制限や糖質制限が原因ではないか、考えられる場合もあり、 私は少なからず危惧の念を抱いています。


■特に高齢者の場合はエネルギー不足が心配

糖質制限では、血糖値を上昇させる糖質を多く含むご飯やパン、麺類、イモ類などを食べないのですから、 血糖値が下がるのは当然です。欧米でも糖質を極端に制限する「アトキンスダイエット」が、 短時間で減量ができると一時ブームになりました。ところが、日本人などアジア人のように主食に糖質を摂るという 週間がない欧米人でさえ、糖質抜きの食事は長続きせず、1年ほど続けられても、それ以降は脱落する人が多かったようです。 糖質は速効性のあるエネルギーであり、糖質を全く食べないと、体を動かす、脳を動かす、脳を活性化させる、体温を維持する、 といった生命維持のために必要なエネルギーが不足しやすくなります。特にタンパク質や糖質の摂取量が少なくなりがちな 高齢者が厳格な糖質制限を行えば、すぐにエネルギー不足に陥ってしまいます。

さらに、低糖質で高タンパク質、高脂質の食事は腎臓に負担をかけ、動脈硬化を進行させる場合もあります。 今では、アトキンスダイエットは欧米では推奨されておらず、米国糖尿病学会も、炭水化物の摂取量が1日130g未満にならないように 勧めています。 そもそも、日本人は主食としてご飯や麺類を食べる習慣を長い間続けてきました。 糖質を急に、しかも極端に抜く食事制限が長続きするはずがありません。 たとえ血糖値が一時的に下がり、体重が減ったとしても、続けられなくなった時に、反動で(リバウンドで)、以前より体脂肪がついて 体重も増してしまう可能性もあります。

糖質制限で特に注意が必要なのは、経口血糖降下剤による治療やインスリン療法を受けている患者さんの場合です。 糖質を極端に制限すると、低血糖に陥る危険性があるからです。 また、満腹感を得るために、肉類をたくさん摂れば、コレステロールの摂り過ぎによる動脈硬化、 タンパク質の摂り過ぎによる腎臓への負担などが懸念されます。

糖質の量を減らすこと自体に私は賛成ですが、毎食抜くような極端な糖質制限食はやめた方がいいでしょう。 血糖値を早く下げたい、肥満なので体重を減らしたいとい人は、ご飯などの糖質を抜くのは夕食のみにして、 朝食や夕食では少量でも糖質を摂るようにしてください。 糖質制限食は、健康な人がダイエット目的で行うには、大きな影響はないかもしれません。 しかし、糖尿病の人は栄養バランスのいい食事が大切です。 生命活動を維持する三大栄養素の一つである(炭水化物)は欠かせません。 摂り過ぎに注意して、バランスの取れた食事を心がけるようにしましょう。


■簡単に誰にでも続けられる食事法

私が従来の糖尿病の食事療法に疑問を抱き始めたのは、今から10年以上も前にさかのぼります。 当時勤務していた病院で、入院していた糖尿病の患者さんの食後血糖値、特に朝食後の食後血糖値が、 病院の糖尿病食を食べているにもかかわらず、上昇していたことに気付いたからです。 食事のコントロールが完璧にされていたにもかかわらず、食後血糖値が下がるどころか、上がってしまったのです。 調べてみると、原因は朝食に必ず付く果物だとわかりました。 生のまま食べられる果物は、ビタミンやミネラルを効率よく体に摂取できる理想的な食べ物ですが、 バナナやブドウ、パイナップルなど、ブドウ糖やショ糖が多く血糖値を上げやすいものもあるのです。 こうした糖質の多い果物を真っ先に食べてしまうと、食後に血糖値が急上昇してしまいます。

カロリー制限による食事法では「決められた摂取カロリーさえしっかり守っていれば大丈夫」と考えられており、 食べ方についての観点は抜けていました。しかし、食後血糖値を退けるのに最も重要なのは、カロリーではなく、食べ方にあります。 糖尿病の食事療法では「野菜をたくさん摂りましょう」という指導をしますが、これは、野菜に含まれている食物繊維が 腸管でブドウ糖の吸収を抑えるためです。ところが、野菜よりも先に糖質を摂ってしまうと、食物繊維がブドウ糖の吸収を 抑えることができず、ブドウ糖が腸管からどんどん吸収されてしまいます。 そこで私は、糖尿病の患者さんに、食べる順番を変えてもらうことにしました。具体的にいうと、糖質の多いご飯やパン、 麺類をできるだけ最後に食べるようにしてもらったのです。そして、食物繊維を含む野菜を最初に食べるように指導しました。 すると、驚いたことに、ほとんどの患者さんの血糖値はもちろん、ヘモグロビンA1cもだんだんと下がってきたのです。

さらに、大阪府立大学の今井佐恵子教授が行った研究(糖尿病予備軍50人対象)では、野菜を先に食べるよう指導すると、 6ヶ月後にはヘモグロビンA1cが平均で5.7%から5.3%に下がったばかりか、総コレステロール値が平均で14ミリ、 悪玉コレステロール値が平均で17ミリ、中性脂肪値が平均で32%も下がることがわかりました。

私は最近、この食事法の効果をさらに高める方法として「毎食1個、最初にトマトを食べる」という 「先付けトマト」という食事法を患者さんに勧めています。 この最新の食事法は、「簡単に誰にでもできる」「続けられる」というだけでなく、糖質やカロリーの制限が全く不要で 血糖値が下がって安定し、トマトの健康効果も同時に得ることができるのです。