血糖値は薬で急激には下げずに自分でゆっくり下げる④

血糖値をゆっくり下げる治療で、薬やインスリン注射が減り、心筋梗塞や脳卒中も防げる人が続出!


■血糖値の管理ではストレスにならない食事制限や運動を行う

ここでは、現在、私が糖尿病の患者さんに勧めている治療について述べましょう。
まず、食べ過ぎや運動不足といった悪い生活習慣によって起こる2型糖尿病の人の多くは、血糖値を調節するインスリンという ホルモンの働きが低下する「インスリン抵抗性」が現れています。これは食事で摂った余分な脂肪が内臓の周囲にたまって、 内臓脂肪型肥満に陥ることが大きな原因です。 内臓脂肪が増えると、その脂肪細胞から体に悪さをする生理活性物質(アディポサイトカイン)が出てきて、インスリンの働きを妨げてしまいます。 すると、この働きを補うために、膵臓からインスリンが過剰に分泌されるようになります。 そして、血液中に過剰なインスリンがある状態が続けば、血管壁が厚くなったり、腎臓のナトリウム(塩分)を排出する働きが 悪くなったりして、高血圧を招きます。また、血液中の脂肪を分解する(体内の化学反応を助ける物質)の働きが低下し、 中性脂肪やLDL(悪玉)コレステロールが増えて、脂質異常症になってしまうのです。

このように、糖尿病と高血圧・脂質異常症は三位一体の関係といえます。 そして、糖尿病と高血圧など二つ以上の病気を併発している人は、動脈硬化が急激に進行しやすく、心筋梗塞や脳梗塞といった、 太い動脈が障害される血管性疾患を招く危険性も高まります。そこでこうした病気を防ぐには血糖だけでなく、 脂肪もコントロールすることが大切です。しかし、厳しい血糖コントロールは心筋梗塞などを招く危険性が高まることが 世界の研究で明らかになっています。そこで、私が勧めている治療では、血圧や血中脂肪を基準値までコントロールしながら、 血糖値も緩やかな数値に抑え込むことを目標にしています。具体的には、低血糖を防ぎながら糖尿病を克服するには、 まず、正常値が6.2%未満とされるヘモグロビンA1cの目標値を7.0%程度、高くても7.4%未満に見直すことが肝心です。 それには、効き目の弱い薬を服用しながら、ストレスにならない程度の食事制限、運動療法を行うのが最も有効です。 インスリン注射や効き目の強い薬は、どうしても血糖値が下がらない時だけに使い、長期の使用は避けるようにします。


■長年続けたインスリン注射から解放された

実際、私の指導のもと、生活習慣の見直しや、ゆるやかな血糖コントロールによって、長年続けたインスリン注射から解放され、 ウツや認知症の症状が改善した患者さんが大勢います。
村中明子さん(仮名)もその一人。村中さんは12歳で2型糖尿病と診断されました。 以来、ずっと規則正しい生活や食事を心がけるとともに、近隣の内科でインスリン注射などの治療を続けてきました。 その後ヘモグロビンA1cが9.4%(JDS値)に上がって入院しますが、ヘモグロビンA1cがなかなか下がらなかったため、 私のクリニックに来院しました。 来院時、村中さんのヘモグロビンA1cは8.3%、体重は90kgでしたが、血液検査の結果、肝臓や腎臓、コレステロール値などに 異常はありません、ただ、長期にわたる食事制限や、インスリン注射によるストレスのせいで、生気のない軽いウツ状態に 陥っていました。さらに村中さんは、体内でインスリンがほとんど分泌されていませんでした。 これでは、インスリン注射をやめることができません。しかし、私は村中さんと相談したうえで、 食事と軽い運動による血糖コントロールを実行してもらいながら、徐々にインスリン注射の回数や量を減らしていきました。

その結果、ヘモグロビンA1cの数値が5.8%ぐらいまで下がったため、約1年後にはインスリン注射をやめて、 弱い効き目の薬の服用に変更。さらに1年後には、薬の服用も止めることができ、体重は当初に比べて14kgも減りました。 そして、村中さんは軽いウツ状態からも脱し、今では元気に働いています。