血糖値は薬で急激には下げずに自分でゆっくり下げる②

糖尿治療で、厳しすぎる食事制限や運動療法は実践しても長続きせず、逆に悪化する人も多い。


■血糖値を急激に下げると精神的にも大きな負担となる

糖尿病、あるいはその予備軍と診断されると、まず求められるのは、食事の見直し、継続的な運動、禁煙といった生活習慣の改善です。 食べ過ぎや運動不足は、糖尿病ばかりか高血圧や脂質異常症(高脂血症とも呼ばれ、血液中の脂質が異常に増える病気) などの生活習慣病を招き、肥満にもなります。 肥満の中でも特に、内臓の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」になると、血糖値を調節するインスリンの働きが衰えて、 糖尿病の悪化を招きます。そして糖尿病の三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)をはじめ、心筋梗塞や脳梗塞など 命にかかわる病気を引き起こします。糖尿病を克服するには、食事の改善と運動が欠かせません。

このようにいうと、皆さんの中には、やはり厳しい食事指導の話なのかと、うんざりする人もいるのではないでしょうか。 現在、日本の糖尿病の食事療法では、一日の摂取カロリーや摂取栄養素をきちんと管理することが求められています。 食品交換表を使って、約600種類の食品群を6つに分類して栄養をバランスよく摂り、食品のカロリーを細かく計算して 摂取カロリーを制限するように指導されます。 しかし、糖尿病の患者さんにとって、これが精神的に大きな負担になります。 好きな食事が摂れず、医師や管理栄養士に食事を厳しくチェックされ、まだ不十分といわれることへの恐れなどから、 治療を遠ざけてしまう人も少なくないのです。

そもそも食事は、ただ生きるために食べ物を摂取することではないと思います。 家族や友人と楽しく食卓を囲む時間は、心身の健康を保つうえで、とても大切です。 この大切な食事を負担に感じたり、おろそかにしたりすると、かえって健康を害してしまうことにもなりかねません。 そこで私は、ほどほどの食事療法と適正な運動を患者さんに勧めています。


●血糖値を下げるには、軽い運動が効果大

食事療法と同様に、厳しすぎる運動療法も長続きせず、健康に良くありません。 糖尿病の人は、インスリンの分泌量が減ったり、その働きが低下する「インスリン抵抗性」が起こったりすることで 血糖値が上がります。しかし、インスリン抵抗性が改善すれば、血糖値は下がります。 その手段としては、特に運動療法が重要です。 運動というと、汗をかいて必死に頑張る姿や、毎日必ず続けなければならないといったイメージがありますが、それは間違いです。 激しい運動では、膝や腰を痛め、かえって運動不足に陥ったり、心臓の発作を招いたり、低血糖を起こしたりすることもあります。 運動療法を始める前には、医師に、どんな運動をどのくらい行えばいいのかを相談するといいでしょう。

糖尿病の運動療法としては、激しい運動ではなく、軽い運動を習慣的に続ける方がいいでしょう。 それにはウォーキングなどの有酸素運動(酸素を取り入れながら行う運動)が適しています。 インスリン抵抗性を起こす内臓脂肪を燃焼させるには、大量の酸素を必要とします。 激しい運動では酸素が取り込まれないので、ウォーキングなど比較的軽い有酸素運動の方が血糖値を下げる効果が期待できるのです。 運動によって内臓脂肪が減るとインスリン抵抗性が改善し、血液中のブドウ糖が肝臓や筋肉に取り込まれるため、 血糖値が下がりやすくなります。血流も促されるので、高血圧や脂質異常症が改善し、動脈硬化の進行も抑えられます。

とはいえ、食事療法にしても、運動療法にしても、厳しすぎると継続できない場合が少なくないのも事実です。 実際、私の医院には、糖尿病による厳しい食事療法や運動療法が続けられずに長年、強い薬やインスリン注射の 治療を受けている患者さんが全国から訪れます。なかには、主治医の厳格な治療でストレスをためて来院した患者さんもいます。 そういう人を見るにつけ、厳しすぎる日本の糖尿病治療の問題を実感しています。 血糖値は薬やインスリン注射だけに頼って急激に下げると低血糖を起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気を招く 危険性が高まります。また、低血糖によってウツ病や認知症を招きやすくなることもわかってきているのです。 私は、血糖値は適切な生活習慣の改善と薬でゆっくり下げればよく、目標とする血糖値も、基準値より少し高めがいいと考え、 それを治療で実践しています。実は、こうした治療は今や世界の潮流となりつつあるのです。