糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症のほとんどは、自覚症状のないまま進行します。 治療は、病気の進行の程度によって異なり、下記のような3つの段階に分けられます。
■単純網膜症~血糖コントロール~
糖尿病網膜症の初期の段階です。網膜の毛細血管がもろくなり、血管に小さな”こぶ”ができます。
そのこぶが破れると「点状出血」が生じます。また、その出血が吸収されて網膜に硬い「白斑」が現れます。
しかし、視力にかかわる「黄班部」に影響がなければ、自覚症状は出ません。
この時期に発見できれば、血糖コントロールを行うことで、症状はよくなることが多いようです。
血糖コントロールでは、食生活の改善や運動療法を行いますが、効果が現れない場合や効果が不十分な場合などに、薬による治療が必要になります。
血糖がコントロールできれば、糖尿病網膜症の進行を防ぐことも可能です。
■増殖前網膜症~レーザー治療~
高血糖によって毛細血管の内腔(内部の空間)が狭くなり、血液の流れが悪くなったり、詰まることもあります。
すると、血液の流れが途絶え、血液の成分が血管壁の外にしみ出すなどして、軟らかい白斑ができます。
黄班部以外に起こることが多いので、自覚症状はほとんどありませんが、黄班部に及ぶような出血があると、視力低下が現れることもあります。
増殖前網膜症になると、血糖コントロールのほかに、「レーザー治療」が行われます。
レーザー治療は1回15~20分程度で、出血しやすい部分を凝固させます。
局所麻酔をして行うため、ほとんど痛みはありませんが、痛みを感じる人もいます。
ただし、レーザー治療はあくまでも進行を抑えるもので、血糖コントロールが治療の基本になります。
■増殖網膜症~レーザー治療・硝子体手術~
毛細血管が詰まって、血流が途絶えるために、網膜では酸素や栄養が不足します。
それを補おうとして、「新生血管」という異常な血管が生えてきます。
しかし、新生血管は非常にもろいため、わずかな衝撃でも破れ、出血してしまいます。
出血が「硝子体」に及ぶと、視力が低下します。こうなると、「硝子体手術」によって出血を取り除く必要があります。
さらに、「網膜剥離」を引き起こすと、失明するおそれもあります。
治療の基本は血糖コントロールですが、症状によってレーザー治療を行うこともあります。
レーザー治療では、毛細血管の詰まった部分にレーザーを照射して凝固し、新生血管の増殖を防ぎます。
「黄斑浮腫」がある場合、浮腫の原因となっている毛細血管などに対しても行われます。
通常、1回の治療で500発照射します。眼底全体に行う場合は、炎症を防ぐために1週おきに4回程度に分けて行います。
重症の糖尿病網膜症で、レーザー治療を受けなかった人と受けた人の失明率を調べたところ、
受けなかった人の30%以上が6年たった時点で失明していましたが、受けた人では20%以下に抑えられています。
新生血管が破れて、硝子体出血が起こっている場合は「硝子体手術」が行われます。
白目の部分に小さな孔を3ヶ所開けて、出血を硝子体ごと吸引します。
硝子体を取り除いても「毛様体」という部分から「房水」が分泌されるため、眼球の形は保たれます。
出血が除去されれば、また元通り見えるようになることもありますが、網膜自体の傷みが重い場合には、視力が十分に出ないこともあります。
また、硝子体出血を長く放置していると、治療を受けても視力が戻らないこともあります。
■進行させないために
糖尿病網膜症の場合も血糖管理が大切で、ヘモグロビンA1cの値を7.0%未満に保ちます。 かなり進行した場合は、レーザーを網膜に照射して新生血管の発生を防いだり、出血によってできた膜(増殖膜)を取り除く手術などが行われます。 また、抗VEGF抗体という薬を眼球に注射する治療も登場しています。