膵臓癌

癌の中でも特に早期発見が難しい癌

膵臓癌は、癌の性質や位置などにより、癌の中でも特に早期発見が難しい癌で、 発見されたときにはすでに、他の臓器に転移しているケースが多く、治療も難しい癌です。 理由の1つは、癌が正常な組織に染み込むように広がり、正常な組織との境界線がはっきりしないことで、 もう1つは、膵臓が体の奥深くに位置する臓器のため、特徴的な症状がなく、膵臓を標的とした画像検査をしなければ、発見しにくいということです。 最も癌ができやすいのは、膵臓が作る消化液の「膵液」が流れる「膵管」で膵臓癌全体の約7割を占めます。 また、その多くが「膵頭部」に発症します。膵臓癌の約9割は、膵液が分泌される外分泌細胞から発生します。 膵頭部に癌が発生すると、目の”白目(結膜)”や皮膚が黄色くなる黄疸が現れることがあります。 膵体部や膵尾部に発生した癌は、多くの場合、大きくなるまで症状が現れません。 しかし、こうした自覚症状が全く現れないこともあるため、膵臓癌を自覚症状だけで発見するのは非常に困難です。

膵臓癌は治療の難しい癌ですが、早めに検査を受け、早期に治療を始めると、治療成績が上がることがわかっています。 また、最近では医療技術も進歩し、できるだけ後遺症を減らす手術や、痛みを和らげて日常生活を送りやすくする抗癌剤による治療などが行われるようになってきています。 膵臓癌は近年、増える傾向にあります。2005年には年間約22,000人だった膵臓癌の死亡者数が2018年には、36,000人以上になっています。 部位別の癌死亡者数でも第4位になっています。50~60歳代で発症するケースが最も多いので、50歳を過ぎたら注意が必要になります。


■膵臓の主な役割

『膵臓』は胃の後ろ側にあり、胃と背骨に挟まれるように位置しています。 成人では、通常、長さは約15cmで、厚さは約2~3cm、重さが100~200gほどの小さな臓器です。 膵臓の中には「膵管」があり、消化液の「膵液」がここを通って十二指腸に流れていきます。 また、膵管は十二指腸に出る出口の辺り(乳頭部)で、胆のうに蓄えられた消化液の「胆汁」の通り道である「総胆管」と合流します。
膵臓の働きは、大きく分けて2つあります。1つは、消化液である膵液を作る働きです。 膵液には、三大栄養素の炭水化物を分解する「アミラーゼ」やたんぱく質を分解する「トリプシノーゲン」、脂肪を分解する「リパーゼ」が含まれています。 もう1つは、ホルモンをつくる働きで、血糖値を下げる「インスリン」や、血糖値を上げる「グルカゴン」などを分泌します。


■膵臓癌とは?

5年生存率が低く、早期発見が重要になる

膵臓癌になる人は近年、増加傾向にあり、死亡者数は年間3万人を超えています。 膵臓癌の発症は、60歳ごろから増え、男性では女性の約1.6倍とされています。 膵臓癌は、発見や治療が最も難しい癌とされています。 膵臓は胃の裏側の体の奥にあるため、超音波が届きにくかったり、膵臓に内視鏡を挿入することができません。 そのため、腹部超音波検査などの一般的な検査では小さな癌を発見することは困難で、癌全体の5年生存率が66.4%であるのに対し、 膵臓癌は9.8%と極端に低いのが現状です。 しかし、膵臓癌の進行度(ステージ)別の5年生存率は、Ⅰ期41.9%、Ⅱ期18.3%、Ⅲ期5.9%、Ⅳ期1.2%と、癌を早期発見できれば、長期生存も可能になってきました。 膵臓癌のほとんどは、膵臓の流れる「膵管」に発生し、広がっています。 膵臓癌の進行度は、大きく次のように分けられます。

▼Ⅰ期
癌が膵臓の中にとどまり、周囲のリンパ節や他の臓器への転移はありません。

▼Ⅱ期
癌が膵臓の外に広がったり、周囲のリンパ節への転移があります。

▼Ⅲ期
癌が膵臓の周囲の主要な動脈である総冠動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈に接しています。

▼Ⅳ期
肝臓や腹膜などの離れた場所への転移があります。

■膵臓癌の症状

膵臓癌の早期には自覚症状はありませんが、「体重減少、食欲減退」といった状態が比較的よく見られます。 これらの症状は、他の病気でも起こるごく一般的な症状ですが、膵臓癌の場合は長期に渡って続く傾向があります。 その後、「腹痛や腰、背中の痛み、黄疸、糖尿病の発症・悪化」などの症状が現れます。 ただ、腹痛などの自覚症状があっても、膵臓癌と気付きにくいことや、癌ができる場所によっては黄疸が出ないことなどもあります。 自覚症状が現れた時点では、すでに進行していることが多く見られます。 癌が大きくなってくると、膵液の通り道である「膵管」が圧迫され、そのため、膵液の流れが滞り、その部分に炎症が起きるので、腰や背中が痛みます。 この膵炎による痛みは、炎症が治まれば消えます。重く、鈍い痛みが続くのが特徴で、期間は1~2週間程度です。 さらに癌が大きくなると、癌が周囲の神経を圧迫して、慢性的な腰痛などが起きるようになります。これは、癌自体から来る痛みです。 したがって、早期発見するためには、癌自体による腰などの痛みが慢性化する前、 つまり、初期の膵炎によって起こる、1~2週間続く痛みに対する注意が必要になります。 ただ、腰などの痛みはさまざまな原因で起こるので、症状が続いたら、ともかく原因を突き止めておくことが大切です。 また、周囲の臓器や血管、神経に癌が広がっている場合も、腹痛や腰や背中の痛みなどが現れるようになります。 整形外科などで検査しても原因がわからない場合は、念のため消化器科などで画像検査を受けておきましょう。 このように、検査の難しさや、初期では自覚症状がほとんど現れないことなどから、膵臓癌は早期に発見されることが非常に少なく、 6割程度の患者さんは、Ⅳ期で発見されます。そして、実際に手術ができるのは、膵臓癌と診断された人の2割程度とされています。


●膵臓癌に特徴的な症状

数少ない特徴的な症状には、皮膚や白目の部分が黄色くなる「黄疸」「糖尿病」があります。 黄疸が出るのには、癌の発生する位置が関係しています。 膵臓癌の約2/3は十二指腸に近い膵頭部に発生しますが、膵頭部には胆汁の通り道である「総胆管」が通っています。 膵頭部に癌ができると、「総胆管」が圧迫されて胆汁の流れが妨げられるため、胆汁に含まれる黄色い色素が体内に増えて、黄疸が出やすくなるのです。 一方、総胆管から離れている「膵体部」「膵尾部」に癌が発生した場合は、黄疸は現れません。 また、膵臓は血糖を下げるホルモンである「インスリン」を分泌しているので、癌が発生すると、その分泌に影響が及ぶことがあります。 その結果、血糖のコントロールが急に悪くなり、糖尿病を発症したり、糖尿病が悪化したりします。 実際、糖尿病の発症がきっかけで、膵臓癌が見付かることがしばしばあります。 膵臓癌は、2cm以下で見付けることができれば、それより大きい場合に比べて、治療成績が向上します。 できるだけ早く検査を受けることが大切です。


■膵臓癌の早期発見

統計的に、「膵臓癌」になりやすいのは「喫煙者、糖尿病の人、血縁者に膵臓癌の多い人」で、50~60歳代の人に多いとわかっています。 軽い腹痛、吐き気など、ちょっとした症状でも、しばらく続く場合は、専門医を受診しましょう。 また、血糖値に問題がないのに、突然糖尿病になったり、糖尿病の人で、特に理由がないのに血糖値がコントロールでなくなったなど、 糖尿病に関係する急な変化が見られたときも、早めに膵臓癌の検査を受けてください。 膵臓癌は、発見が早いほど治療効果があります。特に、膵臓癌の危険因子を複数持っている場合は、定期的に検査を受けて早期発見に努めることが大切です。 悪性度が高く、早期発見が難しい膵臓癌ですが、膵臓癌を発症する危険因子を知り、繰り返し検査を受けることで早期発見も可能になりつつあります。、


■膵臓癌の危険因子

複数の危険因子があると発症する可能性がある

次に挙げる危険因子があると、膵臓癌を発症する危険性が高まります。 複数の危険因子が重なっている場合は、特に注意が必要です。

▼家族に膵臓癌を発症した人がいる
膵臓癌になった人の3~7%は、家族に膵臓癌を発症した人がいるとされています。 特に、親や兄弟姉妹に2人以上膵臓癌を発症した人がいる場合は家族性膵癌と呼ばれ、 発症する危険性が約6.4倍、3人以上では32倍に高まるという報告があります。

▼遺伝性膵炎
若い頃にアルコールや胆石などとは関係なく膵炎を発症したことがあり、同一の家系に2世代以上にわたって膵炎の患者さんが複数いる人は、 そうでない人に比べて、膵臓癌の発症リスクが53~87倍と非常に高く、また若いうちに膵臓癌を発症しやすいことが知られています。

慢性膵炎
慢性膵炎の診断から2年以上経過した人は、そうでない人に比べて、膵臓癌の発症リスクは約12倍と高くなることがわかっています。

糖尿病
糖尿病のある人は、膵臓癌になる危険性が約2倍高いとされています。また、膵臓癌によってインスリンの分泌が乱されることで、 糖尿病に影響すると考えられます。そのため、糖尿病が急に悪化した場合や、糖尿病を突然発症した場合に、膵臓癌が強く疑われることがあります。

肥満
肥満度を表す指標であるBMIが20歳代に30以上だった男性は、膵臓癌になる危険性が約3.5倍に高まると報告されています。

喫煙
喫煙者は、膵臓癌になる危険性が約1.7倍高いとされ、本数が増えるほど危険性が高まります。

大量の飲酒
1日当たりアルコール37.5g(ビール910ml程度、日本酒310ml程度)以上を毎日飲み続けていると、膵臓癌になる危険性が約1.2倍に高まるとされています。


■膵臓癌の検査

診断には画像検査が必要。癌になる前の腫瘍が見付かることも。

●膵臓癌の間接所見

早期発見のきっかけとなる2つの病変

膵臓癌は、癌の直径が1cm超~2cm以下で転移がない場合の5年生存率は50.0%ですが、3mm~1cm以下で転移がない場合は80.4%であることがわかっています。 長期生存のためには、癌を1cm以下で発見することが望ましいのですが、一般的な画像検査で発見するのは非常に難しいことです。 そこで、膵臓癌の早期発見のきっかけになるのが、膵臓癌を疑わせる病変である間接所見です。 膵管に癌が発生している場合、癌がごく小さくても、2つの間接所見が現れやすいことがわかっています。

▼主膵管の拡張
膵管の幹に当たる主膵管に膵液が詰まることで、主膵管が拡張します。

▼膵膿胞
膵管から膵液が漏れることなどによって、膵管のそばに膵液の溜まる袋ができます。

ただし、これらの間接所見があっても、膵臓癌でないこともあります。


●適切な検査の組み合わせ

腹部超音波検査や、高度な内視鏡検査が欠かせない

膵臓癌の検査で最初に行われるのは血液検査や腹部超音波検査です。 間接所見や、1cm以下の癌を発見するのは、腹部超音波検査や内視鏡を使った高度な検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査など、 いくつかの検査を適切な順番で組み合わせて行うことが重要です。 まず、「腹部超音波検査」で、膵臓の形や膵管の太さなどをみます。 血液検査や腹部超音波検査で異常があった場合は、「腹部CT検査」や「MRI検査」で腹部の断面を撮影して調べます。 より詳しい検査が必要な場合は、造影剤を用いて膵管の状態を撮影する「ERCP」を行います。 これは造影剤を注射して行う画像検査ですが、造影剤によるアレルギーがある場合や、 腹部造影CTでは診断が困難な場合は、腹部造影MRIやMRCP、PETなどの画像検査で、膵臓の状態を詳しく調べていきます。 最終的には、膵臓の組織や細胞を採取して顕微鏡で癌細胞が含まれていないかを調べる病理検査で診断が確定します。 確実に癌であると診断した後に、切除や抗癌剤による治療を行います。

▼血液検査
「アミラーゼ」「リパーゼ」といった膵液に含まれる消化酵素を調べます。 膵管の異常や膵炎があると、血液中の値が高くなります。 膵臓癌ができると上昇する「CA19-9」「CEA」などの「腫瘍マーカー」や血糖値も測定します。

▼腹部超音波検査
おなかの上からプローブで超音波を発信することで腹腔内を調べる検査です。体への負担がほとんどなく検査することができます。 この検査では、消化管内の空気や肋骨に遮られるため、直接膵臓を観察しにくく、小さな癌は見付けづらいのが難点です。 しかし、間接所見の主膵管の拡張や膵膿胞は、比較的見付けやすいとされています。

▼MRI検査・CT検査
膵臓癌が疑われる場合、MRI検査やCT検査が行われることがあります。MRI検査では、肝臓への転移の有無などを調べます。 CT検査は、病変部の詳しい状態や血管の状態などを調べるために行われます。
【MRCP】
造影剤を飲んでから、MRI検査を行います。血管内に注入する造影剤や放射線を使用しないため、身体的な負担が比較的少ない検査です。

▼高度な内視鏡検査
腹部超音波検査で、間接所見が発見された場合などに行われるのが超音波内視鏡検査です。 腹部超音波検査よりも膵臓の状態を鮮明に観察でき、1cm以下の癌を発見したり、主膵管の拡張や膵膿胞を観察したりすることができます。 この検査では、超音波検査の付いた内視鏡を口から入れて胃まで挿入し、胃の壁を通して膵臓に超音波を発信します。 癌が疑われる場合は、胃の壁から膵臓に針を刺して、癌が疑われる場所の組織を採取し、癌かどうかを顕微鏡で調べる病理検査を行います。 このほかにも、内視鏡で膵管の中に造影剤を注入して詳しい画像を撮影する方法や、膵管にチューブを挿入して膵液を採取する方法などもあり、 早期発見に有効と考えられています。
【超音波内視鏡で細胞を採取して調べる】
最近は、超音波内視鏡の先端に付けた針で細胞を採取して調べる「超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA)」が主に行われています。

一度の検査で癌が発見されなくても、膵臓癌の危険因子が多い場合は、経過観察をします。 特に、主膵管の拡張や膵膿胞がある人は、3~6ヵ月ごとの検査を受けることが勧められます。 また、膵臓癌を早期発見する検査には、腫瘍マーカー検査があります。 腫瘍マーカーは、癌になると血液中に増えてくる物質です。人間ドックなどで自費で受けられます。 膵臓癌の場合、CA19-9という腫瘍マーカー検査で、1cm以下の癌の約4割が発見できるとの報告もあります。

◆「IPMN」が見つかることもある

画像検査で「IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)」が見付かることがあります。 これは、膵管内にできる「嚢胞性病変」です。 嚢胞とは水分を含んだ袋のようなもので、多量の粘液を分泌したり、ポリープのような塊を形成したりします。 癌ではありませんが、ゆっくりと癌に変化することがあります。 そのため、定期的に検査を受けて、経過を観察する必要があります。

◆検査を受けた方がよい場合

黄疸が出たり、胃、腰、背中の重苦しさなどの症状が長引く場合は、念のため、消化器科などで検査を受けたほうがよいでしょう。 膵臓癌の危険因子である「喫煙」「糖尿病」「慢性膵炎」「家族に膵臓癌にかかった人がいる」のうち、複数に当てはまる人も検査が勧められます。


■その他

●膵管以外の場所にできる癌

膵臓癌の多くは、膵液の分泌(外分泌)にかかわる膵管の細胞が癌化した「膵管癌」です。 数は少ないながら、ホルモン分泌にかかわる細胞が癌化する「膵内分泌腫瘍」もあります。 例えば、「インスリン」を分泌する細胞が癌化した「インスリノーマ」、 胃酸の分泌を促す「ガストリン」を分泌する細胞が癌化した「ガストリノーマ」などが挙げられます。 膵内分泌腫瘍は膵管癌よりも進行が遅く、発見したときに手術で取り切ることができれば、多くは治癒します。 転移や再発が起こった場合でも、進行は緩やかなことがわかっています。

●膵臓癌の早期発見のために

統計的に、膵臓癌になりやすいのは「喫煙者、糖尿病の人、血縁者に膵臓癌の多い人」で、 50~60歳代の人に多いとわかっています。軽い腹痛、吐き気など、ちょっとした症状でも、 しばらく続く場合は、専門医を受診しましょう。
また、血糖値に問題がないのに、突然糖尿病になったり、糖尿病の人で、特に理由がないのに 血糖値がコントロールできなくなったなど、糖尿病に関係する急な変化が見られたときも、早めに膵臓癌の検査を受けてください。 膵臓癌は、発見が早いほど治療効果があります。 特に、膵臓癌の危険因子を複数持っている場合は、定期的に検査を受けて早期発見に努めることが大切です。